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■プロローグ 今は亡きダメ父への手紙…って、生きてるんだけど本当は。

 拝啓 お父さん

 

 お元気ですか。那月です。

 マグロはいっぱい獲れましたか。

 千榛お姉ちゃんも工場の皆も、あの怠け者で道楽者でヘタレギャンブラーでロクデナシのお父さんが真面目に漁船なんか乗ってるわけがないと疑ってますが、私もそう思います。釣堀屋のバイトでもしてたらまだマシな方よって、悦子さんは言ってました。

 だけど、彰久兄ちゃんが「バカな嘘でも一人くらいは信じてやらなきゃ可哀想だ」と無責任なことを言って、ひとりでウケて笑っていたので、それもそうだと思いなおしました。

 お父さん、彰久兄ちゃんは覚えてますか。

 お向かいに住んでる、千榛ちゃんの同級生。背が高くてハンサムでモテモテだけど、似合わない赤い服ばっかり着てるちょっと変な人です。……あ、そうだ、お父さんの愛人が乗り込んできて千榛ちゃんに怪我させたときに、逆上してお父さんをボコボコにした人だよ。思い出した?

 今、彼は金融コンサルタント会社に勤めていて、証券界の赤い彗星を自称しています。自己申告なのでそれがいったいどのくらい凄いことかは私にはよくわかりませんが、とりあえず、赤いです。

 千榛ちゃんと彰久兄ちゃんは幼馴染だしどう見ても両想いで、結婚しちゃえばいいのになって私は思うんだけど、千榛ちゃんはお金のせいでいらない苦労をたくさんしたから、金転がしで順風満帆な彰久兄ちゃんがウザく思えるみたいです。よく、隙を見てはお尻を蹴飛ばしてます。彰久兄ちゃん、惚れた弱みで隙だらけだから、お尻痣だらけで可哀想。お父さんのせいだ。

 そういえば、お父さんがうさんくさい書置きひとつで夜逃げしてから、もう一年以上たつんですね。あの日は私の高校の入学式でしたが、やっぱり狙ってそうしたんですか。

 千榛ちゃんがきちんと債務整理して法的な決着をつけてくれたので、前みたいに債権者さんが事務所で暴れたり闇金の人に監禁されたりすることはなくなりました。でも、自己破産は回避したから、毎月、多額のお金を返さなきゃならないことに変わりはありません。勤めてた会社を辞めて工場をついで、千榛ちゃんは毎日、朝から晩まで馬車馬のように働いています。まだ若いし、スタイルよくて美人なのに、眉間の皺が深いです。すごくもったいないです。

 お父さん。

 もし今度帰ってくるときは、お願いだから私にだけこっそり教えてください。お父さんの顔を見た瞬間、お姉ちゃんはきっと発狂するから、あらかじめ危ないものを片付けとかなきゃならないし、あと、お父さんが盗んでかないようになけなしの貴重品も隠さないといけません。できれば、言い訳程度のお土産にマグロも買ってきてくれると嬉しいな。切り身でいいから。

 こんなこと頼むとお調子者のお父さんは奮発して冷凍の塊なんか買っちゃいそうだけど、やめてくださいね。どう見たってそれは凶器です。お姉ちゃんが犯罪者になるのは困ります。

 では、海の荒くれ者さんたちと、仲良く元気で暮らしてください。

 愛を込めて。


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