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永遠の繋がり―愛と言う名の呪縛―

作者: 黒崎エリヤ


言葉なんか無くても解る。

ずっと、ずっと欲しくて堪らなかった。

何度も恋焦がれた。

神々しい位に美しい容姿に長い漆黒の髪、

一途で強い光を宿した紺色の瞳を持った・・・、

この世の何よりも美しくて、誰よりも大切で愛しい存在――・・・・。


でも、だから、だからこそなんだ――・・・・。

だからこそ、この感情を止める事が出来ない。






「(全く・・・、気に入らないな・・・・)」

とある日の昼休み、この日は雲ひとつ無い晴天で、初夏の風も心地良い。

なのに、篠崎飛鳥の心は穏やかではなかった。

理由は簡単な事で、目の前に居る一つ年上の先輩の存在が 気に入らないのだ。

事の始まりは、クラスメイトで友人である神橋絵里奈が、

「今日は天気がとても良いので屋上で昼食を取ろう」と、

言い出した事が事の始まりだったかもしれない。


しかし、別に彼女が悪いとはこれっぽっちも思っては居ないし、彼女に非は無い。

ただ、何処からその話を嗅ぎ付けたのか・・・・。

否、もしかすると偶々だったのかもしれない・・・・。

彼女の意見に友人である深波カイと榊原夕鶴の二人も賛成し、

四人で屋上に行き昼食を取ろうとしていたまさにその時だった。


何処と無く現れたその先輩「ノソラ璃月(りつき)」に

飛鳥の気分は一気にどんより曇り空。

特に今は、自分の目の前で璃月が夕鶴にちょっかいを出しているから尚更だ。


自分の大切な人に・・・・夕鶴に気安く触るな。

苛々とした嫉妬の感情が強く渦巻く。


実の事、飛鳥にとって璃月は恋敵的な存在だ。

「恋敵」とは言え、飛鳥の方が断然的に有利な立場だし、

まず、飛鳥は夕鶴と恋人同士だ。

だから、飛鳥にとって心配する事など何一つ無い筈だが、

それでも嫉妬は止まらない。


「ユウちゃん、その玉子焼きちょうだい」

「別に構いませんが・・・」

「じゃぁ、食べさせて!」

「「え!?」」

突然の璃月の言葉に夕鶴と飛鳥の声が重なる。

突然、この先輩は何を言い出すのだろうか・・・。

そう、夕鶴と飛鳥は同時に思った。


確かにこの先輩は少し子供っぽい所が有り、

自分達をからかっているのもよく解っている。

特に、夕鶴の事を大層気に入っている様子で、

事がある毎に夕鶴に絡んでくるのだ。

しかし、今の発言は悪戯にも度が過ぎる。


「ねぇ、食べさせて!食べさせて!」

「ちょっ、先輩・・・・」

駄々をこねる璃月に夕鶴は軽く溜息。

もう、この先輩に何を言っても無駄だと諦め、

玉子焼きを箸で掴み璃月の口へ運んでやる。


「ん~・・・美味しいね、有難う」

夕鶴に食べさせてもらい蔓延の笑顔な璃月。

しかし、その一方で、向かい側に居る飛鳥は

表情が固まり、心成しか、米神に青筋が立っているような気がする。

普段、余り自分の感情を表に出さない飛鳥が、

此処まで感情を露にしている時は大体、良くない事が起きる。


余りにも気まずい空気がその場に流れる。

そんな時、絵里奈とカイが場の空気を察し、

この情況を何とかせねばと口を開いた。


「ねぇ、先週の日曜日に公開した映画見た?」

「嗚呼、あのアクション物だろ?あの映画さ、有名人が沢山出演してて話題だよな」

「うん、そうそう。私、見たかったんだけど・・・当日券が完売しちゃって見られなかったの」

「嗚呼、俺もそうなんだよなぁ・・・俺が映画館行った時には既に売れ切れでさぁ・・・」

そんな事を話しながら、二人はチラッと飛鳥の様子を伺う。

しかし、飛鳥の表情は固まったまま。

そんな三人を余所に、璃月は先程の笑みを浮かべたまま夕鶴に話しかける。

「ねぇ、ユウちゃん」

「はい?」

「今度、僕とデートしない?」

「えっ!?」

「玉子焼き食べさせてくれたお礼」

悪戯をしている子供の様に微笑みながらそう言う璃月に、流石の夕鶴も焦る。


「い、いえ・・・結構です」

「え~・・・やだやだ!かまって!かまってぇ」

「ちょっ・・・璃月先輩」

駄々を捏ねながら今度は夕鶴に抱きつく璃月。


「ユウちゃん。僕を構ってくれないとチューしちゃうぞ」

「へっ!?」

余りの璃月の言葉に夕鶴の思考が停止する。

この先輩は行き成り何を言い出すんだ・・・。

そんな事を思った瞬間には既に遅し。

「っ!?」

唇に何か柔らかい物が感じる。

それが璃月の唇だと知るのに時間が掛かった。

突然の事にその場にいたカイと絵里奈は最早放心状態。

そんな時、飛鳥の中で何かが切れた。

しかし、その場の四人はその事に気付かない。


「せ、せんぱい・・・っ」

「やめてください」そう言って夕鶴が璃月を突き放そうとした時だった。

「璃月先輩、いい加減にして下さいっ」

怒鳴り声にも似た迫力のある低い声が聞こえたと、思ったと瞬間、

グイッと、物凄い力で夕鶴と璃月が離れる。


「・・・・・・あ、飛鳥・・・?」

夕鶴が驚きながら飛鳥を見つめる。


「ちぇ・・・、篠崎くん、邪魔しないで欲しいな」

「邪魔をしているのはどっちですかっ!?

勝手に俺の夕鶴に手を出さないで下さいっ」

そう反論する飛鳥は普段の柔らかな雰囲気は無く、

嫉妬と怒りの表情が露になっている。それはそうだろう。

何せ、目の前で自分の恋人である夕鶴を好き勝手弄った挙句、

キスまでしたのだ。

普通、そこまでされて怒らない訳がない。


グイッと、夕鶴の腕を掴み彼女を立たせると、

飛鳥はカイと絵里奈に声を掛けた。


「カイ、絵里奈ちゃん、

悪いけど俺と夕鶴は用があるから先に戻っているよ」

「あ、嗚呼・・・」「え、えぇ・・・」


顔を見なくても解る位に確実に怒っている飛鳥の声に、

カイも絵里奈も彼の言葉に素直に頷くしか出来なかった。


「じゃぁ、行くよ・・・夕鶴」

「ちょ・・・飛鳥!?」

半ば無理矢理夕鶴の腕を引っ張りながら飛鳥はその場を後にした。

その場に残された三人は、

唯唖然と二人が去っていった道を見つめるしかなかった。


「な、何なんだったんだ?飛鳥の奴・・・・」

「さ、さぁ・・・・・でも、飛鳥くん、何か怒っていたみたいだけど・・・・・・」

余りの出来事に絵里奈も困ったかの様に口を開く。


「・・・・・・もしかして、あれ・・・かしら?」

「「あれ」って?」

絵里奈の言った言葉に理解が出来なくカイが問う。

すると絵里奈は困った様な微笑を零すと続けた。


「嫉妬よ。・・・・所謂、ヤキモチって云った所かしら・・・

飛鳥くんのあの態度からしてそうじゃないかなぁ・・・って、思ったの」

「え?あの飛鳥が!?」

「えぇ。ほら、飛鳥くん、案外と独占欲強いみたいだし」


「特に夕鶴の事になれば尚更ね・・・・」そう、付け加えながら、

絵里奈は更に笑みを深めた。

そんな彼女にカイは「そうか?」とだけ返事を返した。




■□■□


「飛鳥、いい加減に放してくれ!腕痛い」

「・・・・・」

一方、飛鳥に無理矢理屋上から連れ出された夕鶴はそう言うが、

当の飛鳥は一向にその掴んだ腕を放してくれそうに無い。

最初、無理にでも自分から飛鳥を引き剥がそうと抵抗の色を見せたが、

更に強く腕を掴まれ、抵抗が殆ど無意味になってしまった。

腕が麻痺するのではないかと思う位に強い力で左腕を捕まれ、

余りの痛みに夕鶴が顔を歪める。


今は使われていない無人の教室に辿り付くと、

漸く飛鳥は掴んでいた夕鶴の腕を開放した。

「ったく、何すんだよっ」

強く掴まれていた為痛みを感じる左腕を摩りながら夕鶴が此方を睨みそう言う。


「夕鶴・・・・」

「なんだよ」

「璃月先輩のキスは気持ち良かったの?」

「は?何言ってるんだよ・・・」

「ねぇ、答えてよ」

冷たい声でそう言う飛鳥に夕鶴は背筋が凍るような感覚に襲われた。

眼鏡のレンズ越しに見える飛鳥の紫色の瞳はあからさまに嫉妬と怒りの色を映している。

「そんな訳・・・・」

「ある訳無いだろ」そう言おうとした時だった。

突然飛鳥に口付けられ、言葉を飲み込む。

最初は触れるだけの優しいものから、次第に激しい物へと変わっていった。

長い口付けに夕鶴は次第に酸欠になり、余りの苦しさに飛鳥の制服の袖を強く掴む。

しかし、飛鳥は確りと夕鶴の腰に腕を回し強く抱き寄せていて、

一向に放してくれる気配は無い。

深く深く口付けられ、強い光を宿した夕鶴の美しい紺色の瞳がぼんやりと霞み始めた頃、

飛鳥は長い口付けから彼女を漸く開放した。


「っけほ・・・っ・・・ったく、何するんだよっ」


漸く唇を開放され、苦しさで咳き込みながら飛鳥を軽く睨む。

しかし、その瞳には力が無く、寧ろ逆に少し潤んでいて、顔も少し赤く染まっている為、

夕鶴のその行動は更に飛鳥を煽ってしまうだけだった。

しかし、此処は飽く迄も学校で有る訳で、

幾ら煽られたとしても彼女を組み敷く等と云う真似は出来ない。

それに、もしもその様な事が出来たとしても、

飛鳥は夕鶴を傷つけたく無いと思っているし、大切にしたいと思っている。

本当なら、今すぐにでもどこかに連れ去ってしまいたい位に夕鶴の事が愛しいのだが・・・。


「なぁ。飛鳥・・・?」

「なんだい?」

不意に夕鶴に名を呼ばれ、彼女に視線を向ける。

すると、夕鶴が少し不安そうに問い掛けた。


「飛鳥は一体何に関して怒ってるんだ?

やっぱり、先程の璃月先輩の事なのか?」

「・・・・」

「・・・・答えてくれないのか?」

彼女の問い掛けに飛鳥は何も答えずに黙り込む。

本当は解っているくせに・・・そう、言いたいが、

敢えてそう言うのは止めておく事にした。

しかし、一つだけ飛鳥は夕鶴に確認しようと彼女に問い返した。


「ねぇ、夕鶴は一体誰のものなの?

誰の隣にいるの?俺?それとも璃月先輩?」

飛鳥の問いに今度は夕鶴が黙り込んでしまう。

暫く沈黙が走るが、考えが纏まったのか、夕鶴が口を開いた。


「残念だが、私は誰のものでもない。

私は私自身だし、誰のものにもなる気も無い」

「・・・」

「だが、私はお前の隣に居たいと、そう思っている・・・・それでは駄目か?」

真っ直ぐな眼差しで夕鶴にそう言われ、

飛鳥はもう何もいう事は無くなった。


――嗚呼、やっぱり君は一途なんだね――・・・。


そんな彼女を好きになって、

彼女に好いて貰えて自分はとても幸せ者なのだと――・・・。

そう、飛鳥は思った。

グッと、力強く再び夕鶴を抱きしめる。


「ちょっ・・・・飛鳥!?」

「俺も夕鶴のことが好きだよ」

「・・・馬鹿。そんなの解っているさ・・・」

飛鳥の言葉を聞き、最初はうろたえていた夕鶴もゆっくりと微笑み、

少し憎まれ口を叩きながらも、飛鳥の背中に腕を回した。



人気の無い教室の中――・・・・。

その中で抱き合う二つの影。

ゆっくりと甘い時間が流れていく。

今はこの時を、お互いの体温を少しでも長く感じて居たいと二人は思った。



誰よりも、何よりも大切だから・・・。

だからこそ、嫉妬もする。

誰にも取られたくないと思う。

誰よりも愛しているから・・・。

だからこそ、一緒に居たいとも思う。


それは、「愛」と云う名の呪縛――・・・・。


「愛」と云う名の呪縛に罹ってしまった者はもう永遠に逃れる事など出来ない。

それでも、その呪縛から逃れようなど、更々思ってなど居ない。


――それが、君と僕の「永遠の繋がり(エターナルリンク)」――・・・。



《END》

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