第五話 買い物1
あぁ、逃げ出したい。
今すぐ逃げ出したい。
何故私が。
どうして。
どうしてこんな目に。
…うん、分かってる。
こいつらに悪気はない。というか、まずこの状況を分かっていない。
「みぃちゃん、俺、魚喰いたいー買っていいー?」
「紅蓮、勝手に入れるな。」
「えええええーだって食べたいいいい!いざちゃん、いいだろ?」
「良くない。つか汀に聞け。」
この二人に、罪はない。
むしろ悪いのは、私なのだから。
ああでも、理不尽よこんなの。
こんな…。
何で。
何で。
何で私が、嫉妬の眼を向けられないといけないんですかぁッ!
いや、分かります!周りの方々の気持ち、分かりますよ!?
紅ちゃんも十六夜も、そりゃあもう、絶世の美貌を持つお二人ですからねぇ!
雑誌の表紙余裕で飾れちゃいそうな人達だし、実際こないだ逆ナンされてましたし!
けど私に嫉妬してどうするっていうんですか!
自分で言うのもなんですが、私、今見た目マジ小学生!
黄色のフリルチュニックに黒スパッツ、そして何故か二人に強引に被らされたキャスケット。
『お兄ちゃんと買い物に来ました』って感じです!
子供にそんなどす黒い感情向けないでぇぇぇ!
…………はぁ。
という訳で、奥様方の冷たかったり痛かったりする視線に耐えながら、買い物中です。
紅ちゃんが陽気に話しかけてくる。
「みぃちゃん?魚買っていい?」
「どうぞ…。」
紅ちゃんはどちらかと言うと可愛い系だ。
フワフワした赤茶の毛に赤くてまるでさくらんぼのようにくりっとした目。
それでいて結構背も高く、腕なんかも筋肉質です。顔立ちはシャープで、真面目な顔したらすごくカッコ良さそうで。
それなのに何故こんな小動物的な可愛さがあるのだろうか。
きっとその人懐こい笑顔のせいだと私は思う。
紅ちゃんが嬉々としてカゴにパックの魚を放りこむと、今度は十六夜。
「汀、そういえば砂糖が切れかけている。」
「は~い…。」
十六夜は文句なしで美青年だ。
成人男性の平均身長を軽く超えているであろう長身、そして痩身。めっちゃくちゃ細い。
そのくせ肩幅が広く、腕や足も細いながら力強そうだ。
髪と目はその名の通り、夜の色。とくに目なんかは黒く、しかしどこか藍がかった不思議な色をしている。
笑うことも悲しむこともしない。『仮面なんじゃないか』と疑ったこともしばしば。
切れ長の目、整った顔。…うん、女の人が振り向くのは仕方がない。
あーあ、こんな辛い買い物…楽しくないなぁ。