閑話 スパイス
街から街へ移動するときは、自炊が多くなる。
手の込んだものは作れないが、それでも美味しいものを食べたいと思うのは人の業だ。
片方に斧を、もう片方にショートソードを握る戦士は、わりと繊細で大胆で。
食事にも、少しだけ大胆に地域の特色を入れたがる。
「ユノさん、それ、そんなに入れて大丈夫?」
「宿屋のおっさんは、旨味のスパイスだって言ってたぜ?」
乾燥させた実をカップ一杯も入れようとするユノに、カイルが不安げに尋ねる。
これをパンとか、細長い穀物――米のようなものと食べるのだとユノは主張するが、カイルにはにわかには信じられない様子だった。
「ユウ、あんた行きなさいよ。
私はユノの勘は信じてるけど、あの子の料理は何一つ信じてないの」
リサは地図を見ながら、リシアの淹れたお茶をすすり、僕に止めに行くよう促す。
今日は僕の料理番ではないが、特にやることもなく、僕はカイルとユノの様子を覗きに行く。
僕が近づくと、
「ユウさん、どう思う?」
と、カイルがユノの入れようとしていたスパイスを僕に手渡してきた。
僕は一粒かじってみる。
なるほど。
粉っぽい味と独特の香り。
「ユノ、これと、これは?」
と、僕はユノが他にも用意していた乾燥した香辛料らしきものについて尋ねてみる。
「香りが良いのと、あとはなんか苦くなるやつもあるんだと。面白いだろ?」
「苦くなるスパイスとかやだよ」
すかさずカイルがツッコむが、ユノは気にする様子もなく、
「麦酒だって苦いだろ?」
とやり返している。
なるほど。
クローブみたいなものだろうか。
それも一粒かじってみれば、独特の清涼感のある香りと、きつい苦みがある。
僕は温められた鍋に、苦い香辛料は二粒ほど。
他の粒のままの香辛料をひとつまみずつ入れる。
それから、鉄製のカップに少しずつ入れて、風の魔術で圧縮粉砕した。
「お前、器用だよな」
と、ユノが感心したように言う。
そうしているうちに、鍋から良い匂いが漂ってくる。
「あ、良い匂いがする」
カイルが言った。
にんにく、生姜、トマトと玉ねぎのような野菜を入れて、道中で手に入れたトカゲの魔物の干し肉も加える。
塩味はこれで良いだろう。
「あら、美味しそうじゃない」
リサが言って、
「だろ?」
なぜだか、ユノが誇らしげに答える。
「ユノア様、良い匂いではございますが、少し強すぎます。
結界を張らせて頂きますね」
その横で同じように料理を見に来ていたリシアが、結界を展開した。
確かにこの匂いは、人も魔物も引きつけるかもしれない。
「ごめん、リシア」
謝る僕に、
「ユウは気になさらず。
ユノア様は、先輩冒険者としての自覚を持って下さいませ」
と、ぴしゃりと言い放つ。
そんなリシアに、ユノはどこ吹く風で、
「はいはい」
と答えはするものの、
「どうせ匂い避けの結界張ってくれんだから良いだろ」
と、気にも留めていない。
「リシア、あんたが甘やかすから、ユノが増長するのよ」
リサが釘を刺す。
なるほど。
確かに、普段慎重なユノが匂いも何も気にかけず料理するのは、リシアを信頼しているからか。
……僕は何も考えずに料理していたけど。
ことことと煮える鍋を混ぜながら、僕が一人反省していると、
「お前、ほんと器用だよな」
と、ユノが鍋を覗き込む。
「もう、良いんじゃないか?」
と皿によそうように、自分の皿を差し出すユノの後ろで、
「あんたもよ」
と、リサがどちらにともなく言った。
器用に料理を作る人と器用に人を使って料理を作る人の話




