ねこのいるいえ
5分から10分あれば読むことができます。
サクッと読めますので、お暇なときに読んでみてください。
ねこのいるいえ
エピソード1
「おい、飼い主。起きろ」「朝ごはんの時間だ」
ぽんたの朝は早い。ねこだから当然だ。
「まだ早い!いま5時だぞ」
「お腹空いた。はよ起きれ」
「いつものあこに昨日の残りの生タイプがまだあるやろ」
「オレがボリボリが好きなん分かっとるやろ。はよ出せ!朝はボリボリでないと力でん」
こういうふうにほぼ毎朝起こされる。
ぽんたは、僕の彼女が2年ほど前に野良で可哀そうだと拾われて来た、ハチワレの雄ねこだ。年齢は本人が言うには3歳らしい。僕はこの広く古い家で住んでいる。田舎の一軒家なので鍵がない戸があり、ぽんたは自由に家から出入することができる。なぜこの田舎の古い一軒家で1人で住んでいるかというと、亡くなった父から相続したが、取り壊すのも面倒くさいので、そのまま住むことにしたということだ。父には他に財産がなかったので、ほかに相続するものはなかった。一人っ子で、母は数年前に亡くなっていた。こいつと気ままな1人暮らしをしていると、近所からは思われているに違いないが、実際はこいつに振り回されている生活をしている。
「おい、飼い主。コストコっていうところに行きたいんやけど」
「なんで?」
「面白そうやから」
「行ってどうする。おまえが必要なものは一切ないぞ」
「それは、オレが決める」
うるさくてしょうがないので、コストコへいくことにした。土曜日だけあって人混みがすごい、こんなのは久しぶりだ。ショッピングカートにこいつを乗せて店内に入った。
「うぉー噂どおりででっかいな!飼い主はちょくちょく来るのか?何回目だ?」
「開店はじめは何回か来たけど、最近はほとんど来ない」
「なんでもかんでもデカいな・・・外国人はスゲーな」
「いや、すごいのは外国のオーブンとかレイゾーコやと思うぞ。まあ、あっちの人の胃袋はデカいからな」「おいおい!アポロチョコの箱、デカすぎや。もしかしてアポロの一分の一なんか?カルビーのポテチの袋も信じられんビッグサイズやぞいね」
こいつには、刺激がある過ぎる・・・
「おい、飼い主。下ろしてくれ」
「絶対に迷子になる」
「そのためのスマホだ!」
もう、どーでもよくなってきたので、カートから下ろしといた。どっか行った。
売り物の猫が逃げ出して来たと勘違いされて、捕まらなければいいけどな。最悪、子供から「これほしい♪」とか・・・・・いったいいくらの値がつくのだろうか。
あ、見つけられた。
「おい、飼い主。あそこにあるサーモンのお寿司食べたい」
「どれだ?」
「これ!」それは大きい寿司の丸い折箱で、オールサーモン60貫だった。
「なに言っとる!おまえにこれ食べきれるんか?せいぜい5、6貫だろ」
「やっぱ無理かなぁ。しょうがない、のこした分は飼い主が責任取って食え」
「無理」
「しかし、なんでもあるじゃないか。ここで暮らしたいくらいだ。あのホットドックは美味しそうだ!ここでならあと30年は生きられるぞ」
あと30年も生きるらしい。
エピソード2
「おい、飼い主」
「なんだ」
「カラオケに行きたいが」
「おまえ歌えるのか」
「そういう飼い主はどうなんだ」
「歌えるぞ。郷ひろみとか嵐とかな。エグザイルも少々」
「やるじゃあないか」知ってんのか?「しょうがない・・・行くぞ」
ここは田舎だ。カラオケ店は1店あるのみ。コートダジュールカントリー店。
「あのぉ。ねこはいくらでしょう?」
「ねこですか。ねこは100円頂きますが」
2時間にしといた。30分ももたないと思ったけど。「飼い主、まずここでフリーのソフトクリームとドリンクを貰う。部屋番号はいくつだ?」なんで知ってる?15番の部屋に入って、まずこいつがしたことは、エアコンボタンを押すことだった「ここは寒いぞ!」
「えーとな、山盛りポテトとマルゲリータピザだな」慣れすぎている。いったい誰と来るんだ?
「おーし、歌うぞ。JOYSOUNDでいいな。オレはいつもJOYSOUNDだ」深夜に歌いに来ているのか?
「北の~町ではもうぉ~。襟裳のぉーーーーーーー春はぁ~あ、なにもない春でーーーす」いったいいつ覚えた?うまいぞ。
それからは、こいつのワンマンショーだった・・・僕は山盛りポテトとソフトクリームをただ食べるだけの観客だった。
「よーし、今日はこれまでだ!」
「いったいいつ歌いに来ている?」
「内緒♪」
ただ会計を済ませるときに、「ねこちゃん、いつもありがとう」という言葉を女性店員から言ってもらってご満悦だった。いつ誰と来てる?
エピソード3
「おい、飼い主。誰か来たみたいやぞ」ねこの耳は素晴らしい。
この家は鍵のない戸がある。来る者拒まずだ。それでも、すたすたと上がり込んでくるのは、冴子だけだ。僕の恋人といえば恋人だが、たまにしかここへは来ない。彼女のアパートは知っているが、「僕は待つ人」で彼女は「来る人」という役割が決まってしまっている。だからって嫌いな訳でなくて、ちゃんと好きだ。彼女もそうだと言っている。僕たちは恋人同士だ。それで満足だ。
「おす、元気!」
「おす。元気そうじゃないか。今回は来るのが早かったね」
「季節がら人恋しいの。だから今来た。誰かと温まりたいのよ」
「たしかに寒いときはそう思う」
「やっほーー。ぽんた元気?」話が切り替わったらしい。
「冴子ちゃーん。元気、元気」
「今日はね。ぽんたの大好きなお料理つくるね。なーんだ?」
「えーっと、アジフライ!」
「あたり!♪」冴子は料理好きで腕もよい。リクエストするとなんでもつくってくれる。
「はーい、できたよおん♪ぽんたはウスターソースね」「ぼくちゃんはケチャップだよねー」
このたっだ広い、冷たい空気しか存在しないエアコンのないこの家に、人恋しさを忘れさせるものがいくらか漂ってきた。
冴子は、2泊して帰って行った。
「またね。近いうちに来るよ」
「ねぇ、冴子ちゃん。またカラオケ行こう」冴子だったのか。
エピソード4
「おい、飼い主。起きろ朝だ」
「ぼりぼりが皿に残っているだろ」
「しけったぼりぼりなんて、嫌だ」「贅沢いうな」
「起きないなら、はま寿司に連れていけ」
はま寿司の方を選択した。ぽんたはお寿司が大好きだ、ねこだから。行ってもせいぜい5、6皿なので財布にやさしい、値の張るものも食べるがたかがしれている。オーダーした皿が流れてくるときのこのわくわくした顔はなんとも言えず、可愛らしい。まず100円のまぐろからサーモンにゆく、そのあとはウニ、ハマチ、鯛。このあたりでお腹が一杯になって、最後はいなりずしで終わる。これがぽんたのルーティンだ。そのころ僕はというと、まだ8皿目だ。だいたいいつも12,3皿食べるので、ぽんたを待たせることになる。お茶は熱いので、ぽんたはセルフの水を飲んでいる。たまにノンアルコールビールを飲むことがある。「ぷはーーーー!」「やっぱはま寿司だよなーーーー!」いつか回らない寿司を要求する時が来るのだろうか。かならずその日はやって来るだろう。
「飼い主、美味かったな」
「そうだな」
「今度は回らないお寿司食べたいぞ」
「いつかな」
「冴子ちゃんにお願いしたら、握ってくれるかぁ」
「どうだろうな」
「なぁ、飼い主。あんなに美味しい料理を毎日食べたいとは思わんのか」
「食べたいな」
「ならば、なぜ結婚しないんだ」
「おまえに言ってもしょうがないよ」
「真面目に考えとけよ」
エピソード5
「おい、飼い主。朝だ。起きろ」おまえは目覚まし時計か。
「新しいぼりぼりが皿に残っているだろ。それで我慢しろ」
「オレがしけったやつが嫌いなん分かっているいるだろ、それでも飼い主か」
わかった、わかった。
「ぼり、ぼりぼり」
「なぁ、飼い主。最近運動不足でさあ」
「だから?」
「まだ寒いだろ。オレはねこだから、外はつらいのよ」
「だから?」
「フィットネスクラブに行きたいなー」
「ねこはコタツで丸くなってろ」
「今、体力つけておかないと、温かくなったら喧嘩のシーズンやろ。初戦で負けたくない。プライドだよプライド」
しょうがないな。こいつに負けてほしくはないしな。たしかに意地だ。投資しよう。
どこがいい?と言っても、田舎なので一択だ。カントリーフィットネスクラブ。
「すみません。体験コースをお願いしたいのですけど」
「大人1名ですね」
「いいえ。ねこなんですけど。こいつです」
「ねこちゃんですね。はい。どうぞ」できるのか。
「ちなみに会員になったら、毎月会費はいくらでしょうか」
「ねこちゃんはですね、えーと。月150円になりますよ」安っ。カラオケといいここといい、ねこに優しいな。
「ちなみに人間の大人は月どれだけかかりますか?」
「会員の種類によりますが、標準のもので月11,000円ですね」
「おまえだけ通え。わかったな」
「あたりまえだ、どこに飼い主同伴で来るやつがいる。もう勝負は始まっているんだ!」
「おい。なんか最近雰囲気が違うじゃないか。毛並みも毛艶もいいんじゃない」
「飼い主。やっと気づいたか。フィットネスクラブ効果や」
「あそこでなにしとるん」
「は、は、は、まずだな皆でストレッチを15分して軽く汗をかく。そのあとはウェイト、そしてダンスだ!オレのMonsterを見せてやってもいいぞ。「12時を少しすぎるこーろ、きみの涙でぇ、ぼくはめざめーる、モンスタッー!!」」
「最後は天然温泉や。運動して温泉に浸かったあとのノンアルコールビールは何ものにも替えられない♪」
「あっそ。自主練は順調そうだな。どいつか知らんが勝てそうなのか」
「相手は決まっていない。オレの領土を侵そうとするものが敵だ。まずは自分の領土を固めてから進軍だ!準備万端、いつでも来なさい。カモーン」
「あ、そう」
それから春めいた頃、庭が騒がしくなってきた。
「にゃー、にゃー!」
「あーお、あーーーーーーーーーーーーーーーーお!」
「ぐぅーーーーーー!!!」がちゃがちゃがちゃ!
「にゃあぁーーーー!」
領土と雌をかけた戦争が始まったらしい。
あっけなく終わった。ぽんたは勝てたのか?
そろそろそろ・・・・・帰って来た。
「へ、ざまーみろ」右足と左手から、噛まれたか血を流している。
「おい!大丈夫か」艶やかだった毛が汚れてる。
「は、あは、は。飼い主、見てたか」いや聞いてただけだ・・・
「トレーニングの甲斐があったな」
「割と骨のあるやつだったな。とりあえず最低限度の仕事はしたぞ」
「なぁ、知っとるか。喧嘩というのは目を合わせたその瞬間に、勝敗がほとんどが決まってしまうんや。飼い主も冴子ちゃんと目を合わせればいい。いろんなことがわかる」
エピソード6
「ねぇ、わたしお見合いをしたの」「結婚しようと思う」
「・・・・・・」
「ねぇ、なにか言って」
「・・・君がそうしたいなら、すればいい」
「やっぱりやめた」
「どうして?」
「わかんない」
「僕と一緒にいたくない?このままではダメ?」
「それでいいから、やめたのよ」
「わかったよ」
そのときから、この話題に触れることはなかった。そして冴子が僕の所に来る間隔が長くなっていった。
「おい、飼い主。起きろ。朝だ。お腹すいたぞ」
「昨日の残りのさば缶があるだろ。それで我慢しろ」
「あんなしょっぱいもん、朝から食べたくない」
しかたないな、かつおご飯をつくってあげた。
「おい、飼い主。マックに行こうぜ。Lポテトが食べたい」
「おい。さっきしょっぱいもん朝から食べたくないと言ったのは誰だ」
「一回、食べてみたいんだよ。Lポテト」
しょうがない連れっててやるか。ジャンクなものがちょうど食べたい気分だ。しかしこの時間はまだポテトはやってないはずだ。
「今何時だ?5時か、マックのポテトは調べたら10時30分からだ。あと5時間30分どうする気だ」
「・・・・・・・・・・・・時間まで待つ」
「なにして?」
「そうだな、カラオケ」
「コートダジュールは9時から、こんな時間からやってるところなぞ、こんな田舎にはない」
「じゃあ、冴子ちゃんとこ」
「行かん」
「どうして?いちおう恋人やろ」
「いちおうは余計だ。とにかく行かない」
「冴子ちゃんをこっちに呼ぶ」
「こんなに朝早くから、来ん」
「じゃ、寝る」
「それが正解だ」
「おい、飼い主。起きろ、時間だ」
「わかった、わかった」とことん時間に正確なやつだ。
「ポテトL3つ」
「店内でお召し上がりますか?持ち帰りなさいますか?」
「店内で」
「かしこまりました」
「おい、3つって誰が食う。おまえSサイズでも食べれんだろが」
「オレは少しでいい。見れればそれでいい。残りは、飼い主おまえが食え」
「あ!?」
「105番のお客様」
「おい、飼い主。とって来い」
「あぁ、やっちゃった・・・」
「うぉーこれがLサイズか!食欲が湧いてきた」なにを言う、なにを。
「塩塩しくてうまいな」
「もういいや。飼い主、おまえが残ったの全部食え。もったいないからな」
結局、残りは全部食べた・・・明日の朝はオレの顔は脂ぎっていることだろう。
体調がすぐれない、こんなときに限って冴子が鍵のない戸からすたすたと上がり込んできた。
「おす、元気?」
「まぁまぁ」
「どうしたの、顔色悪いわよ。なにか食べすぎた?」
「ご想像に」
「ぽんたー元気?こっちはいつもとおなじね」
「あ、誰かきた。ガールフレンドのお春ちゃんかな?ちょっと出かけてくる」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・気まずい雰囲気。
あいつ、気をきかせたつもりか。
「ねぇ、きょうはなんの日か覚えている?」
「キミの誕生日だ」
「いくつになったか知ってる?」
「31だ」
「それなのに、覚えていてそんな顔をしているの?」
「それは、あいつがポテトLサイズを・・・・・・・」「なんだって一緒よ」
「私、帰る」
「・・・・・・・」
「なにも言わないのね」
「ちょっと、2人とも待て!」まったく手のかかるやつらだ。
「おい、飼い主。素直になれ。おまえは冴子ちゃんが好きで、どこか遠くへ行ってしまうのが怖いんだろ」
「冴子ちゃんももっと素直になれ。飼い主のことが好きなんだろ。でも自分が飼い主のことを傷つけたくはない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・思いだした・・・・・・・・・・・なぁ、知っとるか。喧嘩というのは目を合わせたその瞬間に、勝敗がほとんどが決まってしまうんや。飼い主も冴子ちゃんと目を合わせればいい。いろんなことがわかる・・・
「冴子、まだオレのことが好きか?」
「あたりまえよ」
「ぼくちゃんは、私のことが好き?」
「あたりまえだ」
「私がお見合いして結婚しようとしたことに、わだかまりがあるんでしょ」
「この先君を幸せにできるかどうか、あのとき僕は自信が持てなかった」
「わたしもそう。あのままであなたと幸せに生きていけるか自信がなかったの。だからわたしはお見合いをした」
ここはオレの出番だ。「あのときキミらは同じことを考えていた。キミらは似たものどうしだ。だから同じように傷つけあった」
「あのころの僕は寂しかった。君との間に溝ができたようで、一緒にいることができなくて。自信がなかった。君は僕を避けているように感じた」
「寂しかったのよ。いつもあなたのそばに居てやれなくて、溝が埋まらなくて自信がなくなった。あなたが私を避けているように思った」
「僕はずっと君と一緒にいたかった。いたい」
「ずっとあなたと一緒にいたい」
「ぼくの中の寂しさに、温かい水を注いで満たしてほしい」飼い主、恰好いいじゃないか。
「私の中の寂しさにも、同じもので満たしてほしい」冴子ちゃん、いいぞ。
もういいだろう。2人とも合格だ♪
エピソード7
ただっ広いこの家に家族が1人増えた。冬にはもう1人増えるらしい。
でも、この家はまだまだ広い。
完




