新・ドゥヱレラ
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新・ドゥヱレラ 猫崎
日が暮れているの確認して外に出る。自分の影を見ていたらふと追い抜かされそうな気がして小走りになる自分をばからしく思う。彼のお通夜が終わり、親戚からしたら他人でしかない私は、一人家に帰った。
そのままベットに行ったら泣いてしまう気がして、手を洗いに洗面所に行った。
ハンドソープがきれた。確かこの棚の下に詰め替えを買っておいたはずだ。私は洗面所で空になった容器に液を注ぐ。詰め替えの袋が空になりかけた頃、ふわっとハンドソープがシャボン玉のように宙を舞った。なんだか懐かしくなり、私は微笑んだ。つもりだった、洗面所の鏡に映った私は泣いていた。泣いている私と目が合った瞬間、彼と同じことで笑いあったことがふと浮かんだ。私にはもうあんな小さな幸せを過ごすことすらできないのだ。
母は私が物心つく前に亡くなり、18才になった今日父が亡くなった。最近は出張ばかりでろくに一緒の時間を過ごせていなかったため、しばらく待っていれば帰ってきてくれるのじゃないかと期待してしまう。もう今は彼が灰になることしか待つことはできないのに。
しかし、私にはまだ家族がいる。父の再婚相手とその連れ子である。義母は写真でしか存在に触れられない実母よりよほど感謝している。しかし、馬が合わない。双子の弟はほとんど私が面倒を見たはずなのに懐くわけでもなく思春期に入ってしまった。最近は口もきいてくれない。
そんな彼女たちは、寝ずの晩で今夜は葬式場で過ごすらしい。私が一緒に残れば、父や私の良くない話が耳に入るだろう。今も実父との最後の夜を過ごさなかった親不孝者と言われてるかもしれない。どっちを選んだって変わりない。知らぬが仏である。せっかくの一人の時間を彼との最後の時間を過ごすほかないのだ。私が何をしたというのだ。しかし、私の生きる世界とはそういうものだ。何を抱えて生きてもしょうがない。社会が私を大人としてみる前に私は子供として生きる方法を忘れてしまった。
最近気になる子がいる。彼女は意味だけ塗りつぶされた辞書みたいだった。なんだって知っている。いわゆる優等生だ。でも、何の意味も見いだせていないような顔をしていた。そして、久しぶりに来た彼女はいつもより悲しげだ
「もーもちゃん!おはよ!」
俺は彼女の肩を組む。華奢な体が折れてしまいそうだった。
「ごうくんおはよ。」
そう俺の名前を呼ぶ声はいつもけだるげだ。俺の名前は、林檎と書いてはやしごう。彼女と初めて話した時「さっぱりしてそうな感じなのに熱い名前なのね。」と言われてから俺は彼女に心惹かれている。
いつめんに呼ばれて彼女からはなれた。
しまった。いつもの八方美人で担任からずいぶん多い仕事お引き受けてしまった。父のこともあったし、まっすぐ帰るよりいいか、と思う。気を紛らわしてでも笑わなきゃ。にしても、担任はどうも仕事が雑なものか。すればするほど仕事が増える。どうせお母さんたちは今日も帰ってこないだろうし、案外うれしいと思ってる私が悔しい。
ごうくん今朝も話しかけてくれたな、いつもあいさつそてくれる。人気者だし、優しいし、私なんかに話しかけてくれるのは、貴方くらいよ。
「もーもちゃん!なにしてんの?」
後ろから声がして驚いた。
「あ、ごうくんお疲れ様。先生に頼まれて。」
「うっそ!谷ちゃん全部ももちゃんひとりに頼んだの?ひでぇ!俺手伝うよ。」
「え、でも帰るのおそくなっちゃうよ。」
「ももちゃん一人でするのも大変そうだし、遅くなって一人で帰るのも心配だよ。」
「やさしいね、ありがとう。」
ももちゃんかわいい。谷ちゃんはひどい。でも、ありがとう。俺、ももちゃんと帰れるって確約されたよ。明日お菓子あげるからね。Kissしてやろ。
「ももちゃんやっぱ賢いよね!仕事早いし!進路とかどこ行くの?」
「就職するつもり、社内恋愛で結婚する算段です。」
「えー絶対進学すると思ってた。俺、どうしよっかなー」
「ごうくん手止まってる。」
「はい!」
帰る頃には18時を過ぎていた。危なく警備の人に見つかるところだったが、なぜか逃げるように出てきた。ももちゃんの住んでる家か、楽しみだな。
「私ここまででいいよ。」
「いや、ここら辺暗いからついていくよ。」
「いつも大丈夫だから。」
「こんなに暗いなら俺、毎日送るよ。」
「知らないよ、ごうくんだけだからね。」
彼女は、そういって暗い路地裏に入っていく。ついたのは、トタン屋根の最近では見ない建物だった。窓ガラスには、お花のシールを無理やりはがした跡があった。
「ここ私の家。」
「ごめん。なんかさ、ここでももちゃんが育ってももちゃんになったことも、ももちゃんが育ったここも全部素敵だね。俺、今感動してるんだ。なんでだろう、」
「よくわかんないけど、ありがとう。」
なぜかわからないが、おれは泣きそうだった。そして、ももちゃんもすこし泣きそうだった。ふたりで涙をこらえ終えるまで見つめあった。
「また明日ね、おやすみ。」
「ばいばい。」
彼女が手を振る。ずっと見ていたくて、背を向けるのを忘れていたら突然目の前に電柱が入ってきて驚いた。まぬけだ。そう、俺は今、浮かれている。俺は無理だと思った。
「ももちゃん」
「どうしたの?ごうくん声おっきいよ。」
「人生山あり谷ありかもだけど、一緒に生きていきませんか。」
「山も谷にも越えるの大変だよ。」
「山は削って、谷は埋めてあげるよ!だめかな。」
「よろしくお願いします。」
「ねえ、あの日のこと覚えてる?」
「俺、ちょっとダサかったかな。」
「そういうとこ好きだよ。私の王子さまはこんなところにいたのねって思ったわ。あのさ、私たちに許可を取る親とか祝ってくれる友達はいらない。結婚式はこの小さなアパートであげよう。おっきいケーキを焼いて、ふたりで飾りずけをするの。ブーケトスは、ベランダから見える川にいっしょになげましょう。ふたりだけの幸せをいっぱい守っていこう。」
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