表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/15

第6話:カワイイの墓標 ――N国のガラパゴス進化

挿絵(By みてみん)


 世界がNT国家連合の提供する「洗練された美」に統一されつつあった頃。東方の島国・N国だけは、主流派とは全く異なる、理解不能な進化を遂げていた。


 当時の容姿スキンは、まだ「素の顔」をベースに、鼻筋を整え肌を滑らかにする程度の「デジタル整形」が主流だった。過度な加工は不自然だと忌避される、かつてのSNS文化の名残がそこにはあった。


 しかし、N国のユーザーたちは、そのリミッターを軽々と踏み越えた。

 彼らが発明したのは、生身の自分とは完全に無関係な虚像をまとう『アバタースキン』という狂信的な文化だ。


 ある朝、通勤電車のドアが開くと、そこには正気を疑うような光景が広がっていた。

 吊り革を掴んでいるのは、無機質なスーツを着たビジネスマンではない。

 身長二メートルの巨大な二頭身キャラクターであり、瞳の大きな美少女アニメの偶像アイドルであり、あるいは発光するスライムのような不定形の「ナニカ」だ。


「……おはよう、ミク」

「おはよう、キティ」


 可愛らしい合成音声もちろんボイスチェンジャーによるものだが車内に飛び交う。だが、そのスキンの内側にいるのは、加齢臭を漂わせ、充血した目で現実の不満を飲み込む中年男性だったりする。


 ネット上では、この現象を指して『スカマ(スキン・オカマ)』という蔑称が生まれた。

 外見も、性別も、年齢も、声さえも好きなキャラクターに差し替えたまま、満員電車に揺られて会社へ向かう。その光景が世界に同時配信ブロードキャストされると、NT国家連合の幹部たちは「認知の自殺だ」「彼らの精神性を疑う」と辛辣しんらつなコメントを寄せた。


 だが、N国の人々にとって、これは切実な『救済』だった。

 ボロボロのインフラ、低迷する経済、出口のない閉塞感――。そんな「一階」の泥臭い現実を生き抜くために、彼らは人間であることを辞め、記号アイコンになることを選んだのだ。


「誰が本当の俺かなんて、どうでもいい。可愛ければ、それでいいじゃないか」


 新宿の街角では、巨大な恐竜のスキンを被った若者が、仮想のキャンディを空中で弾きながら笑っている。

 他セクターの住民たちが「より美しい人間」を目指していたのに対し、N国の人々は「人間からの脱却」を目指した。


 この『N国のガラパゴス進化』は、後にNT国家が個性を完全にマニュアル化し、管理下に置くための貴重なサンプルケースとなった。

 人々が自ら進んで「自分」を捨て、安価なキャラクター・テンプレートの中に立てこもる姿は、究極の統治モデルを提示していたからだ。


「カワイイ」のヴェールの下で、N国の本来の顔は、誰にも思い出されないまま静かに朽ち果てていった。




第6話解説:重い回が多いVeillenseヴェイレンスなので、少し趣向を替えてコメディ回的な内容にしてみました。N国(日本)で起きた、ガラパゴス携帯ならぬ独自の【アバタースキン】文化。中年男性さえも記号化された美少女として通勤する、面白おぞましい世界です。



★面白そう、頑張ってるねと思っていただいた奇特なアナタ!

そうアナタのことです。ブクマや期待を込めて☆☆☆☆☆を

押して頂けると執筆の励みになります。宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ