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第11話:カワイイの墓標 ――N国のガラパゴス進化

挿絵(By みてみん)


世界がNT国家連合の提供する「洗練された美」に統一されつつあった頃、東方の島国・N国だけは、全く別の、そして理解不能な進化を遂げていた。


当時の容姿スキンは、まだ「素の顔」をベースに、小鼻を高くしたり肌を整えたりする「プチ整形」程度の修正が主流だった。過度な加工は「不自然だ」と叩かれる、かつてのSNS文化の名残がそこにはあった。


しかし、N国のユーザーたちは、そのリミッターを軽々と踏み越えた。

彼らが発明したのは、本来の自分とは全く無関係な虚像を纏う「サブスキン」という文化だ。


ある朝、通勤電車のドアが開くと、そこには「正気」を疑うような光景が広がっていた。

吊り革を掴んでいるのは、スーツを着たビジネスマンではない。

身長2メートルの巨大なハローケティであり、瞳の大きな美少女アニメキャラクターであり、あるいは発光するスライムのような不定形のナニカだ。


「……おはよう、ムク」

「おはよう、ケティ」


可愛らしいアニメ声が車内に飛び交う。だが、そのスキンの内側にいるのは、加齢臭を漂わせ、充血した目で現実の不満を飲み込む中年の男たちだったりする。


ネット上では、この現象を指して「スカマ(スキン・オカマ)」という言葉が生まれた。

外見も、性別も、年齢も、声も、すべてを好きなキャラクターに差し替えたまま、満員電車に揺られて会社へ向かう。その映像が世界に同時配信ブロードキャストされると、NT国家連合の幹部たちからは「彼らの正気を疑う」「認知の自殺だ」という辛辣なコメントが流れた。


だが、N国の人々にとって、これは「救済」だった。

ボロボロのインフラ、低迷する経済、出口のない閉塞感。そんな「一階」の現実を生き抜くために、彼らは人間であることを辞め、記号アイコンになることを選んだのだ。


「誰が本当の俺かなんて、どうでもいい。可愛ければ、それでいいじゃないか」


新宿の街角では、巨大な恐竜のスキンを被った若者が、仮想のキャンディを空中で弾きながら笑っている。

他セクターの住民たちが「より美しい人間」を目指していたのに対し、N国の人々は「人間からの脱却」を目指した。


この「N国のガラパゴス進化」は、後にNT国家が人間の個性を完全にマニュアル化し、管理下におくための貴重なサンプルケースとなった。

人々が自ら進んで「自分」を捨て、安価なキャラクター・テンプレートの中に立てこもる姿は、究極の統治モデルを提示していたからだ。


「カワイイ」のヴェールの下で、N国の本来の顔は、誰にも思い出されないまま静かに朽ち果てていった。

第11話解説:あまりに重たい話が続いたので口直しのつもりで、一方でその頃N国ではというお話しです。

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