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記録に残らない空戦と犠牲

日本国に対する領空侵犯の恐れがある識別不明機への対応。

防空識別圏における対応手順。 (エピソード『臨検』においての記述含む)


1.空中早期警戒機・レーダーサイトなどが、防空識別圏に接近中の識別不明機を探知。

2.提出されている飛行計画と照合。

3.レーダーサイトが当該機に航空無線機、国際緊急周波数121.5MHz及び243MHzで日本国航空自衛隊であることを名乗る。英語又は当該国の言語で領空接近の通告。

4.戦闘機をスクランブル発進。目視で識別。

5.戦闘機から無線通告。領空侵犯の無線警告と、「我に続け」の警告という意味で自機の翼を振る。

6.領空侵犯機を日本国内の空港へ、強制着陸を試みる。

7.自機又は僚機が攻撃された場合。国土や船舶が攻撃された場合には、自衛戦闘へ。

2月7日

1215

日本海上空

 日本海で民間軍事警備会社防人、海上自衛隊、海上保安庁が臨検をしていた上空。領空に突如として戦闘機らしき機影をレーダーで探知した。防空識別圏にも探知せず、領空で探知をしたことに自衛隊では混乱が起きたが、今まで通りの対領空侵犯措置を行わなければならない。日本海で、識別不明機に対応できるのは、航空自衛隊小松基地の飛行隊のみだ。

 緊急発進/スクランブル待機中だった第303飛行隊、F-15J 2機が発進した。その後も別の2機が上がった。

 先に空に上がったF-15Jのパイロットが、アンノウンが未だにいるであろう空域に到着した。

「ドラゴン、空域に到着した。レーダー及び目視でのアンノウンは確認できない。」

『こちらのレーダーにもアンノウンを確認できない。付近の空域には、アメリカ軍のF-35Cが2機と、防人のF-35Bが2機が飛行中。ドラゴン隊は引き続き、警戒せよ。......ブレイク。付近でSAR(捜索救難)任務中、ドラゴン隊は現場空域に移動、警戒せよ。』

「ドラゴンリーダー了解。」

 2機のF-15Jが現場空域に向かった。F-15の、というより戦闘機の速度ならあっという間に到着した。

 パイロットが目にしたのは、炎上するコンテナ船だった。近くには海上自衛隊の艦と、救助を試みようとする複数のヘリ。コンテナ船の甲板が主に燃えていた。

 コンテナ船上空を過ぎ去り、旋回を続けて周辺空域を飛び続ける。

『ドラゴンリーダー、何があったんでしょうね。』

「分からない。コンテナ船の甲板には、穴が大量にできているに加えて炎上していた。何があったんだ?」

 見たこともない光景を目にしていると、通知音が響く。レーダーが探知した。

 機影が4機。IFFに応答なし。

「アンノウン探知! 4機だ、おそらく目標の奴らだ。」

『ツーも確認。どうしますか? 応援のスリーとフォーを待ちますか?』

「確認のためにも接近する。奴らは領空に侵入した犯罪者共だ。最悪の場合は撃墜する。」

『ラジャー、ついていきます。』

 F-15が右へ旋回。不明機に向かう。

 レーダーには、アンノウン4機を探知しているがレーダーに見つからずに侵入できたアンノウンは、低空飛行を続けられて、ステルス戦闘機の可能性が高いだろう。その場合、J-20やSu-57。

 しばらく飛行していて、アンノウンに接近。目視での確認ができる所まできた。

 まぁ、奴さんは気がついているだろうが。

『見えた!』

「コンタクト。アンノウン、2機目視確認。こいつはSU-57。だが、様子がおかしい。」

『黒煙を吐いています。どういうことでしょうか。事故で領空に侵入したのか。コンテナ船を攻撃したのかも分かりませんね。』

『こちらAWACS、ゴット。ドラゴン隊に通達。目標は確認できましたか?』

「ゴット、こちらドラゴンリーダー。アンノウン2機を目視で確認。SU-57だが、黒煙を出している状況。他の2機は確認できてない。」

 ロシア軍であることを示すマークに、ステルス機で独特な機体なSU-57の1機からは黒煙を出していた。接近して見ると、機体には穴が複数と尾翼が片方壊れており、よく飛行できているものだ。もう1機は少し被弾しているようだが、まだまだ飛行できそうな感じだった。

 状況を報告してから、真横についてパイロットを確認する。

 コックピットも悲惨な状況なのだろう。真横についてもこちらを見る余裕はなさそうだった。損傷が少ない僚機の方に移る。国際緊急周波数121.5 MHzにてロシア機に警告と状況報告を求める。

 帰ってきた返答は、こうだった。

『日本航空自衛隊、こちらロシア空軍。こちらは突然攻撃を受けて機体損傷。僚機は機体を制御するのも難しい状況である。我々は攻撃の意図はない。燃料もないため、すぐに着陸したい。どうぞ。』

 攻撃したのは、未確認のアンノウン2機になるのだろう。

 すぐに報告をして、だいたい5分くらいしてから小松基地に受け入れることになった。そこまで護衛をすることになる。防人らの空域の確保は別のF-15組が担当することになった。

「ロシア軍機。小松基地に誘導と護衛をする。我に続け。」

『ラジャー、感謝する。』

 空では睨み合っている存在でも、共に空を飛ぶ存在であることは忘れられない。

 1番機のこの機体を先頭に、ロシア機、僚機の順番で飛行する。万が一に備えて、僚機がロシア機の後ろについて攻撃をできる状態になっている。自分らの後に発進したF-15、2機も加わって小松基地に向かう。過去にもこれからもないであろう状況に、3番機のパイロットがカメラで撮影した。記念ではなく、証拠と状況の記録として。

 しばらく飛行して、地上の司令部やAWACSなどから随時報告を求められ、調整を行った。

 すると。

「む? 前方からアメリカ軍機2機接近。F-35Cか?」

『先程いた飛行隊ですかね。防人の飛行隊は別の空域にいますから。』

 防人の戦闘機といった航空機は、事故を防ぐためにも自衛隊のデータリンク、IFFなどと繋がっている。レーダーには友軍として扱われ、今もどこにいるのか分かる状況だった。そのため、接近しているのが近くにいたアメリカ軍機であると判断できた。

 味方だ。

 しかし、 どういうわけかIFFは味方の判定を出していない。

『IFFを間違って切っているのかも?』

『アメリカ軍機に通達。こちら日本航空自衛隊。こちらhー』

 言葉を遮るように急接近、真上を過ぎ去った。

「は? うぐっ!?」

 衝撃波が伝わり、機体が揺れる。

 バランスを崩したが、すぐに持ち直す。

「各機報告!」

 F-15、ドラゴン隊は無事だった。しかし、酷く損傷したSU-57の1機の損傷がより酷くなっている。

 急接近したアメリカ軍機の意図が分からない。接近したとしても、ゆっくり接近すればいいことである。危険な急接近、通過をする理由が分からなかった。

 レーダーには探知しているが、IFFでは敵/未確認という判定だった。

 AWACSや地上の司令部らもレーダー上での急接近と通過を確認していたが、アメリカ軍機の行動に呆気を取られていた。

『アメリカ軍機、そちらの意図を述べよ!』

「ロシア機、前に出ろ。ツー、殿を務めるぞ。」

『ツー、了解。』

 F-15/ドラゴン隊がロシア機を守る形で後ろにつき、1番機と2番機が殿を務める。

 旋回して、その後増槽を投棄。アフターバーナーを点火、上昇。速度と高度を稼ぐ。

 20ミリ機関砲、中距離のAIM-120 AMRAAM、短距離の04式空対空誘導弾(AAM-5)を満載とした状態だ。

 しかし。

 

 戦闘になればどうなる?

 日米同盟は?

 日本の立場は?


 そもそも、生き残れるのか?

 

 そんなことを考えていると、火器管制レーダーから。

 レーダーを照射されている警告音が鳴り響く。

 そして。すぐに、ミサイル警報音。

『ミサイル!』

「回避だ!」

 AWACSが国際周波数でアメリカ軍機に呼びかけているようだが、返答なし。

 地上からも行っているようだが、応答なし。

 アメリカ軍機の意図が本当に分からない。

「アメリカ軍機! こちら日本航空自衛隊。こちらは味方だぞ!?」

『本当にそうかな?』

 ここでやっとアメリカ軍機からの返答があった。

 ミサイルを回避でき、僚機も無事だった。しかし、正直負けそうだ。相手は高性能な第5世代ステルス戦闘機。逆にこちらのF-15Jは第4世代だ。何もかもが上だ。

 またすぐ横を通り過ぎ、旋回。

「覚悟を決めるぞ! 攻撃する。」

『ツー、ついていきます。』

 司令部にも許可を取らずに現場で判断する。向こうから先に撃ってきた。こちらの所属も名乗った。それだけでも十分だ。

 AAM-5を選択。

 なんとかロックオン。

「ドラゴン1、FOX-2。」

『ドラゴン2、FOX-2。』

 発射したが、命中しないことがすぐに分かった。

 先程横を通り過ぎたのは、1機だった。もう1機が後ろにいた。

 至近距離。機関砲で狙ってきた。

「回避だ!!」

 2番機は回避できたが、この機体には当たった。

 

 被弾。


 計器からアラートがなるが、まだ飛行できそうだった。

『リーダー!?』

「まだ飛べそうだ。日米同盟もクソもないな!!」

『本当にあると思っているのか?』

 またアメリカ軍機から。すぐ横に並ばれる。2機のアメリカ軍F-35Cに挟まれる。

 黒い機体が並び、高価なゴツゴツとしたヘルメットをしているパイロットの姿も見える。

 ここで気付いた。アメリカ軍機のF-35Cと思っていた機体にはアメリカ軍であることを示す識別マークなどもなかった。本当に真っ黒な機体だった。

「お前ら......何者だ?」

『知る必要はない。』

 それだけ言って後ろ回ろうとしていた。

 やられると、覚悟した時だった。  

『カワセミ1、FOX-2。』

『カワセミ2、FOX-2。』

 ほぼ同時に2機のF-35Cが旋回して逃げていった。

『ドラゴン1と2。こちら防人のカワセミ隊だ。F-35Bが2機。』

 入れ替えで、同じ真っ黒ではあるが識別マークがあるF-35が右に2機並んだ。

 防人のマーク。


 緊張感の中に、少し安心感があった。


防人 特別飛行隊カワセミ F−35B

 防人が持っている航空機はヘリや輸送機だけではない。戦闘機のF-35Bと攻撃機のA−10Cを持っている。

 創設時に地上部隊などの行動における制空権確保や航空支援、他組織の支援においての航空戦力が必要になっていた。実際に他組織と共同での行動おいても、航空戦力で防人の戦闘ヘリコプターだけでの状態では足りず、他組織の航空戦力を借りられない時に困ったことが多かった。そのため、航空戦力を保有することになった。

「無事で何よりだな。ドラゴン1、2は撤退しろ。未確認機は俺らが引き受ける。」

 少し間があったが、すぐに返答が来た。

 そして、2機のF-15Jが並んで旋回、撤退していく。

 俺達、F-35Bはそのまま未確認機。アメリカ軍機としてさっきまで認識されていた所属不明F-35Cを追う。

 そもそもF-35には、通常離着陸型のF-35A、短距離離陸垂直着陸型のF-35B。艦上機型のF-35Cの3タイプがある。F-35は、同じステルス戦闘機のF-22よりも対地攻撃能力や電子装備が充実している

「前方にアンノウン。2機。さっき空自に襲ったF-35C。」

『呼びかけますか?』

「いや、おそらく撃ってくるぞ。」

 ほぼ同時にレーダー照射を受ける。

 

 ......ロックオンされている。


「迎撃する。カワセミ、交戦。」

 旋回して敵F-35Cに接近する。

 距離的に、中距離のAIM-120 アムラームだろう。しかし、こちらにもある。舐めるな。

 こちらの兵装は、向こうとほぼ同じだろうが、AIM-120 アムラーム、AIM-9X サイドワインダー、25ミリ機関砲。アムラームはCと航空自衛隊も購入したDを積んでいる。だが、向こうはコンテナ船を攻撃した機体であるだろう。燃料切れも近いはずだ。


「ロックオン。カワセミ1、FOX-3。」


『カワセミ2、FOX-3。』

 ミサイルを発射。


 すぐに機体を右に旋回、相手も撃ってくるだろうから高度を稼ぎ、逃げる。

 旋回して高度を稼いでいると、ミサイル警報音とミサイルの接近していることが分かった。だが、こちらには命中しないだろう。

 しばらくしてミサイル接近の警報アラートが消えた。同時に敵のF-35C、1機がレーダーから消えた。こちらが放ったミサイルと一緒に。

『撃墜?』

「レーダーになし、おそらく撃墜。」

 旋回して再び、敵機に向かう。レーダーから見ればおそらく、ミサイルを撃たれて必死こいて逃げたら、自機ではなく僚機に全てのミサイルが向かっていることに驚いていることだろうな。高度は向こうの方が低いようだった。そして、後ろを向いているよう逃げている感じだ。

「バンディットは残り1。さっさと仕留めよう。」

 さっきと同じ、アムラームを発射する。


 ロックオン。 


「カワセミ1、FOX-3。」

『カワセミ2、FOX-3。』


 ミサイルが2発。敵機に向かう


 しばらくして、ミサイルと共に敵機がレーダー上に消えた。

 敵機のいた空域と海域に向かうと、パラシュートが2個見えた。

『スプラッシュ、ツー。片方は、リーダーのキルです。』

「バンディット、撃墜。司令部、敵機を撃墜。」


 コックピットで額に汗をにじませながら、敵戦闘機の背後を取る格闘戦ドッグファイトの描写は、現実とは異なる描写である。

 現代の空戦は、機関砲の届く距離よりも、目視も不可能な遥か彼方、”BVR”と呼ばれる視程距離外で行われる。見えない敵と、見えない場所で、ミサイルを撃ち合う戦いになっている。ミサイル警報がなった時には、あっという間だ。


「司令部、こちらカワセミリーダー。バンディットのパイロットが脱出。現在滑空中。CSARを要請、オーバー?」


CSAR。日本語で戦闘捜索救難は、文字通りに戦争中に戦闘地域内、その周辺で行われる捜索救助活動のこと。救助に当たっては天候地形、昼夜を問わず一刻を争う状況に対応。また、状況に応じて特殊部隊員が充てられたりサポートしたりする。作戦には救出を阻止する敵と交戦する状況もある。


『司令部了解。CSARのヘリ到着まで、空域を確保は可能か?』

 カワセミ2の燃料も足りてそうだ。RTBまで、まだ時間の余裕はある。

「可能だ。」

『では、空域を確保しておいてください。ヘリのコールサインは追って連絡します。』

 

 その後。

 CSARのヘリが到着し、脱出したパイロットの捜索が開始された。

 しかし、脱出したパイロットは2人とも死亡が確認された。

 

 ……死亡の原因は、”薬物による、中毒死”。


 あのアメリカ軍機は、何だっただろうか。

 そして、あのロシア機は。何があったのか。


 被弾したロシア機は、無事に小松基地に到着して着陸。負傷者の搬送を実施した。機体はカバーをかけるなどをして、徹底的に隠していった。

 そして、”ベレンコ中尉亡命事件”のように、工作員と特殊部隊に警戒するために防人と一部の自衛隊部隊が空港に集結した。なお、空港に入ろうとした際に警察から空港は警察の管轄だといって、防人・自衛隊部隊を現場から締め出そうとした。しかし、小松基地は民間と共有している場所。管制も自衛隊がやっている。小松基地側にロシア機が移動した時点でも防衛省自衛隊の管轄であるとともに、防人の管轄は日本だけではない世界規模で行動する民間軍事警備会社だ。それでも応援の部隊を入れようとしなかったために舐めているとして帰還途中の防人、F-35B 1機が警察がいる上を超低空で飛行した。

「一体、何を考えているんだ?」

『知りませんよ。』

 結局、指揮を執っていた警察官は、いわゆる頑固者だったらしい。


 しかし、一連のこれは全て記録が抹消された。

 まず、臨検をしていたコンテナ船を攻撃したのは、あのアメリカ軍機、F-35Cだと結論。

 その後、ロシア軍機に攻撃したのも、航空自衛隊F-15Jを攻撃したのも、防人が交戦して撃墜したのもF-35Cだと結論付けられた。

 ここで問題なのが、このF-35Cがアメリカ軍機なのかという問題だった。近海には確かにアメリカ海軍の空母がいたが、衛星でも確認されたが発艦した形跡はなかった。逆に、空母以外のアメリカ軍基地から発艦した機体ではないかと予測され、確認したがそれも否定された。加えて、戦闘機には識別マークがないことが確認されたこと、IFFを切っていたことなどもあったが、パイロット同士の無線交信の記録などもあったため、結局アメリカ軍機とは言い切れなかった。

 結論として、記録を消すということで全てを終わりにした。

 そもそも、アメリカ側も否定していることや、ロシア側のロシア軍機も日本の領空に接近していたことが記録上に残っていること。日米同盟に亀裂が入る可能性がある火種は消したいということなど、様々な思惑などが丁度よく収まり、合意した。


 しかし、臨検でコンテナ船にまだ残っていた防人の部隊の犠牲は無視されていた。

 

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