市街地戦闘
「不敗神話」
1月11日
1000陸上自衛隊東富士演習場市街地戦闘訓練場
静岡県富士山東麓の御殿場市、小山町、裾野市にまたがる陸上自衛隊東富士演習場にある市街地戦闘訓練場。約3万平方メートルの市街地訓練場内には2本の大きな道路に沿って、官公庁舎、テレビ局、学校、銀行、テナントビル、ホテル、マンション、アパート、レストラン、スーパーを模した鉄筋コンクリート造りの施設計10棟と管理棟を合わせた計11棟が建つ。地下鉄などを想定した地下道とヘリポートも設けられており、本格的に都市が再現されている。建物の屋上や屋内には可動式のテレビカメラが設置されており、管理棟のモニターで1度に40ヶ所の訓練状況を確認できる。夜間の使用も可能な国内最大規模の市街地訓練場ができたことで全国で唯一、中隊規模での市街地戦闘訓練が行える。
しかし、これでも諸外国の訓練施設と比べると小規模なものである。
そんな訓練場に民間軍事警備会社、防人の部隊がいた。
今回は陸上自衛隊訓練評価支援隊評価支援隊との市街地における演習だった。彼らの第1普通科中隊、第2普通科中隊、90式戦車で編成されている戦車中隊と。防人の桜、黒豹、松の部隊が参加する。ちなみに、松はM1A2エイブラムスSEPV2の2個戦車小隊だ。
戦車の小隊は、戦車が4台で編成されている。松は2個小隊なので、指揮官が乗る戦車を合わせて9台。逆に、評価支援隊は中隊。3〜4個小隊で編成され、中隊長の戦車を含めて合計13台となる。
陸上自衛隊側は戦車4台ずつ。防人側は2台ずつの参加だ。
M1A2エイブラムスSEPV2は、M1A2 SEPをベースとした改良型。砲塔上にM153 CROWS II RWS と呼ばれる、遠隔操作式機銃。装填手用機銃へのシールド設置。車外有線電話ボックス設置。AN/ULQ-35 デュークIED起爆妨害装置。従来のM250発煙弾発射機に加え、最新の発煙弾発射機。各種電子装備の更新。高性能エアコンの設置などがされている。なお、M1A2 SEPV2はドイツ、韓国などに配備。
現在は演習前の準備を行っている。
現代の演習には、自衛隊でレーザー交戦装置、交戦用訓練装置と呼ばれる、通称「バトラー」を用いる。
バトラーは、銃器に取り付けたレーザー光線発射装置により、実弾を使用することなく実戦同様の交戦訓練が可能な訓練機材。小銃などに取り付けられたレーザー発射機から発振されたレーザー光線をディテクターが感知し、命中弾を判定する。発射機を装着可能なのは、小銃、機関銃、無反動砲、戦車、攻撃ヘリコプター、対戦車ミサイル発射機までが含まれる。戦車などは、射撃時に擬似的発射音や煙を発生させる補助装置を使用。弾数は訓練内容によって制約があり、無限というわけではない。
自衛隊では統裁室と呼ばれる指揮司令部を設け、リアルタイムで訓練部隊や隊員の位置、死亡者、負傷者数などの被害を統計・記録される。
この導入により、上官への配慮など左右されていた命中判定が厳格なものとなり、演習時や訓練時の行動における戦術行動がより現実に即したものに助けとなっていった。
「にしても、エイブラムスは見た目がゴツいですね。90もゴツく、カッコいいですがね。」
装備品を最終確認している評価支援隊や、統計や記録をする本部の隊員達を後ろに、既に確認を終えた自衛隊の90式戦車、防人のM1A2エイブラムスを前に見ている、防人の作戦運用指揮官の新井美郷と、部隊訓練評価隊隊長の松本治。
2人は演習前であるため、他とは違いゆっくりとしていた。
「エイブラムスは、どの仕様で? これは......SEPV2ですか?」
「えぇ、よくお分かりで。」
「前に一度、ヤキマ演習場で見たことがありましてね。」
日本ではヤキマ演習場と呼ばれる、ヤキマトレーニングセンター。 そこは、13万2332ha。東京都23区の2倍という広大な面積を誇る軍事演習場であり、大部分は乾燥した砂漠地帯の荒野。主にアメリカ陸軍の機甲部隊や航空部隊などが射撃訓練に使用している。 また、同盟国の自衛隊やカナダ軍などにも提供。
おそらくこの人はそこで見たのだろう。日本では味わえない学びや経験をきっと、したのだろう。
......日本では味わえないことだらけだったろう。
日本では撃てなかった装備品が撃てたこと。
アメリカ軍は先を進み、自衛隊が遅れていたこと。
それでも、自衛隊の練度は向上していくことを。
「ヤキマでは色々学びましたよ。エイブラムスの、カッコいい姿も。まぁ、90には及びませんがね!!」
「あはは。」
負けず嫌いなのだろうか。この人の一面が感じた気がする。
後ろから一人の自衛官が走ってきた。
「失礼します。演習の準備、完了しました。」
「よろし! 予定通り、1030より演習を開始する。」
1030
『状況開始。』
統裁官が状況開始を宣言した。演習開始だ。
今回の演習設定は、自衛隊評価支援隊 対 防人チーム(桜、黒豹、松)
乙女地区という市街地に敵勢力(防人)が占領。威力偵察により敵勢力は、歩兵小隊と戦車隊がいることが判明。これを受けて、普通科中隊と戦車小隊を派遣し、敵勢力を確認、制圧し、地区を奪還する。地区には民間人が残っている可能性が大いにあるため、敵の制圧と同時に民間人の救出が任務だ。
戦車中隊 第1小隊 90式戦車
「小隊前へ!」
戦車第1小隊は普通科中隊の援護及び敵戦車の対応が役割だ。
90式戦車は冷戦時にロシア(旧ソ連)のT-80に対処するため、61式、74式戦車に続いて戦後3番目に開発された第3世代戦車。1990年に制式採用。ちなみに陸上自衛隊の公式で「キュウマル」という愛称がつけられている。
冷戦時代の北方防衛を目的として開発されているため北部方面隊第2師団、第7師団、第5旅団、第11旅団に配備。他には、富士学校や武器学校などの教育部隊のみ。
90式戦車の重量は約50トンまで増加されており、砲塔や車体前面には新素材による複合装甲を使用。90式戦車では主砲に120ミリ滑空砲を搭載。自動装填装置の搭載や、走行中でも移動目標を捉えて砲身が追いかける赤外線画像の自動追尾システムは、世界初搭載。パッシブ式赤外線暗視装置の搭載で夜間でも昼間同様の射撃が行え、不整地走行中でも砲安定装置で精度の高い安定射撃も可能などと、ハイテクに。エンジンの出力も約2倍にまで強化。また、複雑な地形でも最大70km/hの速度で走破可能になっている。
『戦車はゆっくり前進してくれ。銃撃からこちらを守ってくれ。』
「了解した。小隊長より各車へ。普通科の中隊と歩調を合わせて前進するぞ。このまま維持だ。」
地区には土嚢が積み上げられ、鉄条網が設置されていた。他にも普通自動車やコーン、看板がある。本当の市街地に来たようになっている。
戦車4台の後ろには普通科隊員と普通科隊員や民間人の輸送を担う軽装甲機動車や高機動車が続いている。また、ドローンも展開しているため、偵察をしつつ前進している状態だ。
今のところは敵影もなし。
そろそろ接敵するだろう。そう、思った時だった。
『敵戦車!!』
コンテナが置かれた影から姿を現した。森林に溶け込みやすい塗装と偽装がされている、防人のM1A2エイブラムスだ。
指示を出そうとした時、バトラーが音を発した。2号車が大破の判定を受けた。
こちらのシステムだけでなく、ライトや煙、音でも分かる。
「各車、前方のコンテナを狙え!! 砲手、弾種徹甲、撃て!」
俺が乗るこのキュウマルと、3号車はコンテナに発射した。
しかし、自分が弾種を言うタイミングで敵戦車1台がコンテナの影から離れて、再度こちらに砲塔を向けた。そのため、命中してない。
やられる。
しかし、小隊で撃っていなかった4号車が敵戦車の横っ腹に撃ち込んだ。
今回の防人、M1A2エイブラムスは、T-80を想定している。そのため、弾薬庫に被弾、爆発したという判定で、敵戦車を撃破したとなる。
「4号、ナイス!」
偵察であった敵戦車は残り1台。
2号車は大破し、搭乗している隊員3名は死亡判定だ。実戦だったらと思うと、自分にも落ち度があった。
反省はすぐに終えて、引き続き警戒しながら前進する。
すると、前方の角から普通自動車がゆっくり接近してきた。
「な、なんだ!?」
「逃げてきた民間人では?」
砲は普通自動車に向けられる。
アンノウンである目標には警戒しなければならない。もし、この車両が、爆弾を積んでいる自爆車両だったら?
普通科隊員がLAVを盾にしつつ、普通自動車に接近する。
まずは車両から降りるように指示。その後、LAVを盾にして身体検査を行う。
『異常なし。スマホだけだ。車両の検索を行う。』
その時だった。
『ピィーーーーーーーー!!!!!』
バトラーの音が鳴り響いた。
身体検査を行っていた隊員、LAVは死亡判定。民間人も死亡判定。この民間人は敵だったのだ。
車両が爆発したと同時に、前方の建物から攻撃を受けた。
第1小隊 第1分隊
「うお!?」
「撃たれている! 前方の建物から撃たれている!!」
第2小隊が2つの建物を検索中、第1小隊は戦車と共に行動をする予定だった。
しかし、戦車1台大破、LAV1台と身体検査を行っていた隊員4名もやられ、今は制圧射撃を受けている。
「分隊、前方の建物に制圧射撃!!」
銀行3階と4階に敵がいる。
機関銃手がいるのだろう、こちらが動けないようにしている弾幕を張っている。
「おい、3階に機関銃を使って、こちらも弾幕を張れ。」
『小隊長より各分隊へ。煙幕を張り。各分隊の機関銃手は、3、4階に制圧射撃。煙幕と機関銃の射撃下において前方の銀行に接近せよ。』
スモークを展開させつつ、機関銃手らは敵のいる3、4階に向けて後方や制圧した建物からは狙撃手がスタンバイしている。
戦車は戦車で、主砲以外にも搭載されている機関銃で援護してくれている。
『前へ!!』
銃声が響く中、実際には銃弾が飛び交っていることだろう。
そんな中を各隊が前進する。
死ぬ気で走り、銀行の入り口に到着する。すぐに隊列を組み直す。
ドアは開いている。カッティングパイの要領でクリアリング。安全を確認後、建物内に入っていく。
一つ、一つの部屋をクリアリングしていく。
「ドア、開いている。」
「行け、行け!」
前の隊員達が突入した。
ほぼ突入と同時だった。明らかに俺達とは違う銃声と、バトラーの音が鳴り響く。
「ぐっ!!」
部屋には機関銃を持った敵が一人いた。
「出てこいよ! 弱虫!」
敵が煽ってくる。他にも挑発してくる。
挑発に乗らずに、待つ。後ろの隊員がフラッシュバンを見せて、確認。合図でフラッシュバンを投げ込まれる。
そして、突入して無力化する。
仲間の隊員は2人が死亡判定、1名が重傷という判定だ。
1、2階は制圧。民間人数名を保護。
第2小隊第2分隊 小銃手
『テレビ局及びレストランを制圧。安全を確認した。民間人なし。』
残りは、安全が確認されていないのは、学校のみになった。
『本部管理中隊から全部隊へ。民間人は全員救出されたことを確認。残りの敵部隊を制圧せよ。』
第1小隊の残存分隊と共に学校に突入する。
近くには敵戦車を無力化した、残存90式戦車1台や、LAVが待機している。
学校は2階建てであり、分担して制圧していく。
「行け行け!」
屋上から銃撃が加わるが、確保した別の建物に陣取っている狙撃手が無力化してくれた。
ドアを爆薬で爆破させて、突入する。
下駄箱には靴が置かれていた。歩きにくいように靴や、傘立てなどが置かれていた。
一階の小部屋や、教室、事務室を制圧する。カーテンが閉められていたり、机や椅子があったり、部屋ごとに様々な間取りや、物があった。
「トイレに突入する。」
ここも防人の連中が置いたのだろう。ロッカーや、バケツなどがあった。
死角で見えにくい個室なども確認。
「ロッカーを確認し......。」
言い終える前に、バトラーが反応した。撃たれた。
判定は、死亡。他にも小銃手1名、機関銃手1名がやられた。また、一人が負傷。
「衛生!」
トイレは大混乱になっていた。
どこだ?
負傷者を外に出して、応援の隊員と共に仲間がクリアリングをしていく。
再度トイレ内をチャックして、ロッカーを見た。生き残っている隊員がロッカーの中を確認していく。
「クリア。」
ロッカーには敵はいなかった。
バトラーの故障? しかし、演習の統制官は判定は死亡だと確認し、死亡だと言う。
「?」
目線を感じて、ロッカーの上を見た。
「あ。」
情けない声を出してしまった。
次の瞬間には、トイレ内にいた隊員は全員、ロッカーの上の敵にやられた。
第1小隊第1分隊
『一階を制圧。』
『負傷者が多数、後送のため、衛生車両を要請。』
残りの部隊と合流を待ち、階段の前で待機している。
階段は上からの攻撃が強いため、当然だが下から攻撃する俺達は不利だ。
機関銃手と小銃手2人が先頭に立ち、階段を上っていく。
踊り場につき、2階に向けて銃口を向けて部隊が上がるのをサポートする。
「援護。」
少しずつ上っていき、踊り場に到着。廊下をクイックピークで確認。
通路を確認し、廊下を確保する。
敵がいたが、機関銃手が覚醒しまとめて5人を無力化した。なぜなのかは分からないが、敵が接近していた所をチャンスとして撃ったそうだ。
「廊下、クリア。」
「教室を確認するぞ。」
分担して教室をクリアリングしていく。
ここの訓練場はコンクリートで基本的に作られているが、日本の小中学校、高等学校、大学や専門学校は、コンクリートだけではない。作りによっては、勿論、簡単に壁抜きも可能だ。味方も敵もやり方によっては優位に立てるが、注意をしないと、誤射などに繋がってしまう。
「フラッシュバン!」
教室にフラッシュバンが投げ込まれ、ほぼ起爆と同時に突入する。
教室には机や椅子、配膳台、ロッカーなどが散乱していた。死角などに潜んでいないか、細かく確認していく。案の定、隠れていたので無力化する。
「オールクリア。」
「次行くぞ。」
他の分隊が教室やトイレを制圧していき、最後の教室となった。
先程制圧した教室の隣が、最後の教室だ。反対側の教室を制圧した分隊と共に制圧する。
合図で壁に張り付き、突入の隊列になろうとした、その時だった。
「マシンガン!!」
最後の教室に敵の機関銃手がいたようだ。
一歩出るとほぼ同時に機関銃の音が響いた。実戦ならば、音だけでなく弾が飛んできている。
バランスを崩して後ろに倒れてしまったが、後ろの隊員が引っ張ってくれたので教室に避難できた。
「助かった!」
「何より。」
敵の機関銃は複数いるのか、攻撃が止まない。機関銃手が一人でも、おそらく敵は複数いる。
フラッシュバンを投げ込むが、射撃やリロードのタイミングがなく突入できない。
こちらの機関銃手も応戦するが、効果は薄い。
「ドローンを使って、外から中の状態を確認。近くの屋上のスナイパーに狙えるかを確認。最悪、戦車で吹き飛ばしてもらう!」
『ドローン、展開。』
小型のドローンが、敵のいる教室を偵察。カーテンの隙間から侵入して状態を確認。
敵しかいない。民間人などはいない。
「キュウマル及びLAVに支援要請。至急、2階のエコー教室に対して攻撃を要請する。」
『君達の近くに撃つのか? 』
「そうだ、撃ってくれ。目標は、2階の教室、エコーだ。」
『了解した、30秒後に攻撃する。』
外にいる90式戦車や、LAVが攻撃をする前に階段に近い教室に逃げる。
銃撃しながら後退して、俺達が敵に後退していると察することがないようにする。
後退が完了すると同時に戦車とLAVの攻撃が始まった。戦車砲が3回、機関銃による射撃音が響いた。
『状況終了、状況終了。』
無線機や外のスピーカー、統制官から状況終了が呼びかけられた。
銃器の安全装置を忘れずにして、学校から出る。
「疲れた。」
話し声や、足音、装備の擦れる音、車両の音が響く中で。
俺の声は、全員に聞こえたように思えた。




