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先輩、私にだけ心の音がダダ漏れです。  作者: 如月白華


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2度目の初登校

「……先輩。歩くの、速いです」


光莉が苦笑しながら声をかけると、前を歩いていた西園寺瑠璃がハッとして足を緩めた。


「……ごめんなさい。つい」


 繋いだ左手。 そこから伝わってくる瑠璃の体温は、いつもより少し高く、そして湿っていた。

 ぎゅう、と締め付けられるような握力。痛いほどではないけれど、そこには彼女の余裕のなさが如実に表れている。


「先輩、その服。とっても綺麗ですよ」


 光莉は、瑠璃の強張りを解くように、努めて明るく話題を振った。 今日の瑠璃は、深いネイビーのブラウスに、膝下丈のフレアスカート。白嶺の制服ではないが、佇まいはいつもと変わらず上品だ。


「秋っぽくて、すごく似合ってます。髪型も、いつもよりラフな感じで……」


「ありがとう。あちらの生徒は一応制服はあるけど、あまり着ていないと聞いたから」


 瑠璃は短く答えたが、その視線は光莉を見ていなかった。

 まっすぐ見据えた視線。その先にはきっと、これから訪れることになる学園の姿が浮かんでいるんだろう。


「……変ではないかしら。わたくし、浮いていない?」


「全然変じゃないですよ。素敵です」


「そう……なら、いいのだけれど」


 上の空だ。 光莉の言葉が、瑠璃の鼓膜を滑って落ちていくのがわかる。 光莉の耳には聞こえていた。瑠璃の心臓が刻む、不規則で速いリズム。


「……光莉」


 不意に、瑠璃が足を止めた。 繋いだ手に、さらに力がこもる。


「わたしたちは、今日、ただの体験入学生として行くわけではないの」


 瑠璃は、祈るように光莉の手を両手で包み込んだ。


「白嶺の代表として……生徒会選挙候補者として見られるわ。わたしが隙を見せれば、それはこの先の試験に関わる。……あの無秩序な場所で、わたしたちの姿がどう映るのか……」


 瑠璃は震えていた。ふたりきりの時だけ見せる本当の姿。

 誰よりも脆く、失敗を恐れるその姿を見て、光莉は、包まれた手を下から握り返した。


「……大丈夫ですよ」


「光莉……?」


「私が保証します。……もし向こうの人が変なことを言ったら、私が怒りますから」


 光莉は、瑠璃の潤んだ瞳をまっすぐに見つめて微笑んだ。


「それに、もし不安だったらこうして手を握ってくれていいですから」


 その言葉に、瑠璃の張り詰めていた糸が、ふっと緩んだ気がした。 頭の中に響いていたノイズが静まり、代わりに安堵の吐息が聞こえてくる。


「……ふふ。頼もしいわね、あなたは」


 瑠璃はようやく、光莉の顔を見て、力なく、けれど確かに微笑んだ。


「……行きましょうか。あなたがいてくれるなら、なんとかなる気がしてきたわ」


 二人は指を絡め直し、再び歩き出した。



極彩色の校門が見えてくる。 そこには、対照的な二人の少女が待っていた。


「あ! 来た来たー! おーい!」


 校門の横からパーカー姿の赤木美月が手を振る。


「おはよう瑠璃ちゃん、光莉ちゃん! 私服も可愛いじゃん!」


「……おはようございます、美月さん」


 瑠璃が、すっと背筋を伸ばし、完璧な笑顔を作って挨拶を返す。その切り替えの速さは流石だった。

 そして、美月の後ろ。門柱の影に、もう一人の少女が佇んでいた。


「……おはようございます」


 藍染恵夢。 今日の彼女も前、顔を合わせたと変わらず彩苑の白い制服を身にまとっていた。 飾り気はなく、どこか無機質さを感じさせるが、それがかえって彼女の「人形めいた美しさ」を際立たせている。


「……ようこそ、彩苑へ」


 恵夢は、感情の読めない瞳で二人を見つめ、深々と一礼した。 その真っ白な姿は、これから何色にでも染まるキャンバスのようだった。


「さあさあ、入って入って! 歓迎するよ!」


 美月が手招きをする。

 瑠璃と光莉は、混沌渦巻く「芸術の庭」へと足を踏み入れた。

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