提案
「さて、と」
パン、と手を叩いて場を仕切り直したのは純だった。
「本題に戻りましょう。……交流会の内容についてだけれど」
そこからは、純と美月を中心とした実務的な話し合いが進んだ。二人の提案は、白嶺と彩苑の間にある公道を通行止めにし、そこをメインストリートとして出店やアート展示を行うというものだった。
「いいねいいね! お祭りだ!」
美月が身を乗り出して笑う。
「白嶺の出店は、いつも利益率ギリギリまで攻めたクオリティだもんね。うちの生徒も遊びに行くって聞くよ」
「ええ。会場の装飾はそちらのセンスに任せるわ。……派手にお願いね」
話はスムーズにまとまりかけた。だが、美月はそこで腕を組み、「うーん」と唸った。
「でもさぁ。それだと生徒全体のお祭りにはなるけど……合同生徒会の言う『候補者同士の交流』って意味では、ちょっとパンチが弱くない?」
「……確かに。当日はお互いに運営で忙しいでしょうし、深く関わる時間は取れないかもしれないわね」
純も同意する。美月はしばらく天井を仰いで考えていたが、不意に「そうだ!」と叫んでソファから跳ね起きた。
「ねえ、いっそのこと体験してみればいいじゃん!」
「……は?」
「『体験入学』だよ!」
美月は目を輝かせ、光莉たちと霧子たちを交互に指差した。
「お互いの学校に数日間、実際に通ってみるの! 授業を受けて、その空気を吸って、生活してみる。……それが一番、相手のことを理解できるでしょ?」
その突拍子もない提案に、全員が目を白黒させる。しかし、美月は止まらない。
「まずは、瑠璃ちゃんと光莉ちゃんが彩苑に来る! ……で、その次は霧子と恵夢が白嶺に行く!」
美月は悪戯っ子のような顔をした。
「もちろん、ホスト側は全力でゲストのお世話をすること。……どう? これなら文句なしに『交流』でしょ?」
純が、隣に座る瑠璃へと視線を向けた。
「……どうかしら、瑠璃。負担が大きいなら断ってもいいけれど」
瑠璃は少しの間、沈黙した。視線を落とし、湯気の立つ紅茶を見つめる。 今日見てきた彩苑のカオスな空気。理解不能な価値観。自分が入れる場所なのだろうか。けれど――。
「……いいえ」
瑠璃は顔を上げ、凛とした瞳で美月を見据えた。
「受けましょう。……満足に振る舞えるかは分かりませんが、『外の世界』を見るのも、悪くないかもしれない」
「霧子だちは?」
瑠璃の返事を聞いて、美月が顔を向ける。
霧子は深く腰掛けたソファにもたれかかると、小さくつぶやく。
「いやだ、って言っても聞く耳持たないんでしょ。いいよ。これでさっきの件は帳消しにしてよね」
「霧子様が行くのであれば、私が行かない理由はありません」
恵夢は目を閉じたままつぶやいた。
「決まりだね」
美月がパチンと指を鳴らす。こうして、波乱必至の「体験入学」企画が決定した。




