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先輩、私にだけ心の音がダダ漏れです。  作者: 如月白華


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任務

 放課後の執行委員会室には、いつもとは違う、張り詰めた空気が漂っていた。 いつものメンバー――純、瑠璃、そして光莉の三人に加え、今日は珍しい来訪者がソファに座っていたからだ。


「……それで、話とはなんだ」


 不機嫌さを隠そうともせず、腕を組んで尋ねたのは、風紀委員長の御鏡聖良だ。その隣には、書記の五十嵐すずが控えている。すずは膝の上でファイルを抱きしめ、おどおどと視線を彷徨わせていた。


「そう急かさないで、御鏡さん。……紅茶が入ったわ」


 執行委員長の純が、カップを置く。漂うアールグレイの香りが、少しだけ部屋の緊張感を和らげた。  純は自分の席に戻ると、手元のタブレットを操作し、壁に広げられたスクリーンに資料を投影する。


「単刀直入に言うわ。……合同生徒会から、新たな通達が来たの」


 純の声は淡々としていたが、その瞳にはどこか面倒事を予感させる色が滲んでいた。


「『各校の交流を促進せよ』とのことよ。本格的に選挙戦に入るところで、殺伐とした空気を緩和したいというのが表向きの理由ね」


「交流会、ですか?」


 光莉が資料に目を落とす。そこには、神輝島内の地図と、指定された交流相手の学校名が記されていた。


 『彩苑芸術学院』。


「……よりによって、あそこか」


 聖良が眉間に深い皺を刻み、忌々しげに吐き捨てた。純は軽く肩をすくめた。


「ええ。地理的にも近いし、合同生徒会としては私たちのような『お堅い』学校を『自由奔放』な彩苑と混ぜ合わせることで、化学反応を期待しているのかもしれないわね」


「化学反応どころか、爆発しかねないわよ」


 瑠璃が呆れたように溜息をついた。


「あそこの生徒たちは、常識というものが欠落しているもの。……以前の懇親会でもひと悶着あったじゃない」


「まあ、そう言わずに。これは決定事項よ」


 純は瑠璃をたしなめると、聖良に向き直った。


「今回の交流会は、私たち執行委員会が主導して先方とすり合わせを行うわ。私も出向くし、副委員長である瑠璃にも同行してもらう」


「……待ってください」


 そこで、光莉がおずおずと手を挙げた。


「あの……お二人が行くのは分かりますけど、どうして私が呼ばれているんですか? 私はただの……」


 ただの一般生徒だ。執行委員でもない自分が、なぜこの場にいるのか。純は、光莉を見て涼しげに微笑んだ。


「今回の通達には続きがあるの。『次代を担うリーダー候補たちも、積極的に交流に参加させること』……つまり、合同生徒会選挙の候補者同士の顔合わせも兼ねているのよ」


「あ……なるほど」


 だから、瑠璃のパートナーである自分も当事者というわけだ。


「そして――」


 純の視線が、聖良とすずへと移動する。


「風紀委員のお二人に来てもらったのも、同じ理由よ。あなたたちも選挙の候補者であり……何より、あ交流会の開催に向けて風紀委員の協力は必須だと私は考えているわ」


「協力、だと?」


「ええ。彩苑は自由な校風が売りだけれど、裏を返せば無秩序よ。……我々白嶺の生徒が交流するにあたり、現場の風紀が乱れないよう、目を光らせてほしいの」


 純の説明に、聖良はフンと鼻を鳴らした。


「……なるほど。警備のために事前偵察についてこい、ということか」


 聖良は背筋を伸ばし、厳しい眼差しで純を見据えた。


「本来なら、あのような秩序のない場所になど足を踏み入れたくもないが……執行委員長からの正式な要請とあれば、断る道理はない」


 聖良にとって、組織のヒエラルキーと命令系統は絶対だ。個人的な感情よりも、役職としての義務を優先する。それが彼女の「正義」だった。


「承知した。風紀委員長として、徹底的に監視・指導を行わせてもらう」


「私も……、同行します」


 すずも小さく頷き、眼鏡の位置を直した。


「助かるわ。……では、日取りは追って連絡するわね」



 会議が終わり、解散の流れになる。 聖良は立ち上がり、窓の外へと視線を向けた。

 その瞳の奥には、以前、霧の深い森で目撃した光景が蘇っていた。


(……彩苑)


 極彩色の絵具。露わになった肌。恍惚とした表情。 真白霧子と藍染恵夢。あの二人も出てくるのだろうか。


「……嘆かわしいことにならなければいいが」


 聖良は誰に聞かせるでもなく呟くと、翻るようにして部屋を後にした。

 その背中からは、これから向かう「敵地」への警戒心と、揺るぎない使命感が立ち昇っていた。

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