未来
気がつくと、あたりはすっかり薄暗くなっていた。
庭園を出た二人は、寮へと続く道を並んで歩いていた。
誰もいない並木道。 二人の手は、自然と指を絡ませ合う「恋人繋ぎ」になっていた。
じっとりと汗ばんでいて、少し恥ずかしい。けれど、互いにその手を離そうとはせず、むしろその熱と湿り気が、今の二人には心地よい余韻となっていた。
(……先輩)
光莉は、隣を歩く瑠璃の横顔をチラリと盗み見た。
頬がほんのりと上気し、潤んだ瞳はどこか遠くを見ているようで、その実、隣にいる光莉の気配を全身で感じ取っているような――。そんな微笑み。
ただ光莉と恋人になれたことが嬉しくて、愛おしくてたまらない。
そんな感情がうるさく、そうでなくても手に取るようにわかった。
「……ふふっ」
光莉は、こみ上げてくる愛おしさと少しのおかしさを堪えきれず、小さく笑ってしまった。
「……な、なによ」
瑠璃が、我に返ったように目を丸くする。
少しムッとして頬を膨らませるが、その仕草さえも普段より幼くて可愛い。
「いえ……先輩、顔」
「顔?」
「そんな顔で歩いてたら、関係がバレバレですよ。気をつけてください」
光莉がクスクス笑いながら指摘すると、瑠璃は「あっ」と声を上げ、繋いでいない方の手で慌てて自分の頬をペタペタと触った。
「そ、そんなに緩んでいたかしら? ……嘘」
「真っ赤ですよ、耳」
「……うぅ」
瑠璃は言葉に詰まり、バツが悪そうに視線を逸らした。
*
やがて、木々の隙間から寮の灯りが見えてきた。
夢のような時間から、現実へと戻る境界線。
「……ねえ、光莉」
不意に、瑠璃が足を止めたわけではないが、少しだけ声を潜めた。
「あれを、覚えていて?」
「あれ? ……なんでしょう」
光莉が首をかしげると、瑠璃はもどかしそうに、けれど瞳を輝かせて続けた。
「噂よ。……合同生徒会の役員に与えられる、専用寮の話」
「ああ、確か……設備がすごくいいっていう」
「そう。それとね……」
瑠璃は、光莉の手をギュッと握り直した。
痛いほどの強さ。けれど、そこには確かな熱がある。
「あそこの寮には、『ツインルーム』があるという噂があるの」
「え……?」
「つまり、二人部屋よ。……パートナーと共に生活できる、特別な部屋」
瑠璃が、意味ありげに微笑む。
その言葉の意味を理解した瞬間、光莉の顔が一気に熱くなった。
「そ、それって……つまり……」
「ふふ。……わたくし、絶対に選挙に勝ち上がるわ」
瑠璃は、夜空に浮かぶ月を見上げるように胸を張った。
その横顔には、さっきまでの甘い微笑みとは違う、力強さが戻っていた。
ただし、その動機は不純で、最高に甘いものだけれど。
「勝って、その部屋を手に入れるの。……そうしたら」
瑠璃が光莉を見る。
その瞳はまるで夢見る少女のようで。
「一緒に住みましょうね、光莉」
それはプロポーズにも似た、重たくて、愛おしい約束だった。
朝も、昼も、夜も。ずっと一緒にいられる未来。
少々うるさすぎる毎日になるかもしれない、なんて光莉も夢想する。
「……はい」
それでも、光莉は、繋いだ手に力を込めて握り返した。
「頑張りましょうね、先輩」
汗ばんだ手のひらの感触。
瑠璃の愛は、やっぱり少し重たい。
でも、その重さこそが、今の光莉には何よりも心地よく、愛おしかった。




