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先輩、私にだけ心の音がダダ漏れです。  作者: 如月白華


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未来

 気がつくと、あたりはすっかり薄暗くなっていた。

 庭園を出た二人は、寮へと続く道を並んで歩いていた。


 誰もいない並木道。 二人の手は、自然と指を絡ませ合う「恋人繋ぎ」になっていた。

 じっとりと汗ばんでいて、少し恥ずかしい。けれど、互いにその手を離そうとはせず、むしろその熱と湿り気が、今の二人には心地よい余韻となっていた。


(……先輩)


 光莉は、隣を歩く瑠璃の横顔をチラリと盗み見た。

 頬がほんのりと上気し、潤んだ瞳はどこか遠くを見ているようで、その実、隣にいる光莉の気配を全身で感じ取っているような――。そんな微笑み。

 ただ光莉と恋人になれたことが嬉しくて、愛おしくてたまらない。

 そんな感情がうるさく、そうでなくても手に取るようにわかった。


「……ふふっ」


 光莉は、こみ上げてくる愛おしさと少しのおかしさを堪えきれず、小さく笑ってしまった。


「……な、なによ」


 瑠璃が、我に返ったように目を丸くする。

 少しムッとして頬を膨らませるが、その仕草さえも普段より幼くて可愛い。


「いえ……先輩、顔」


「顔?」


「そんな顔で歩いてたら、関係がバレバレですよ。気をつけてください」


 光莉がクスクス笑いながら指摘すると、瑠璃は「あっ」と声を上げ、繋いでいない方の手で慌てて自分の頬をペタペタと触った。


「そ、そんなに緩んでいたかしら? ……嘘」


「真っ赤ですよ、耳」


「……うぅ」


 瑠璃は言葉に詰まり、バツが悪そうに視線を逸らした。



 やがて、木々の隙間から寮の灯りが見えてきた。

 夢のような時間から、現実へと戻る境界線。


「……ねえ、光莉」


 不意に、瑠璃が足を止めたわけではないが、少しだけ声を潜めた。


「あれを、覚えていて?」


「あれ? ……なんでしょう」


 光莉が首をかしげると、瑠璃はもどかしそうに、けれど瞳を輝かせて続けた。


「噂よ。……合同生徒会の役員に与えられる、専用寮の話」


「ああ、確か……設備がすごくいいっていう」


「そう。それとね……」


 瑠璃は、光莉の手をギュッと握り直した。

 痛いほどの強さ。けれど、そこには確かな熱がある。


「あそこの寮には、『ツインルーム』があるという噂があるの」


「え……?」


「つまり、二人部屋よ。……パートナーと共に生活できる、特別な部屋」


 瑠璃が、意味ありげに微笑む。

 その言葉の意味を理解した瞬間、光莉の顔が一気に熱くなった。


「そ、それって……つまり……」


「ふふ。……わたくし、絶対に選挙に勝ち上がるわ」


 瑠璃は、夜空に浮かぶ月を見上げるように胸を張った。

 その横顔には、さっきまでの甘い微笑みとは違う、力強さが戻っていた。

 ただし、その動機は不純で、最高に甘いものだけれど。


「勝って、その部屋を手に入れるの。……そうしたら」


 瑠璃が光莉を見る。

 その瞳はまるで夢見る少女のようで。


「一緒に住みましょうね、光莉」


 それはプロポーズにも似た、重たくて、愛おしい約束だった。

 朝も、昼も、夜も。ずっと一緒にいられる未来。

 少々うるさすぎる毎日になるかもしれない、なんて光莉も夢想する。


「……はい」


 それでも、光莉は、繋いだ手に力を込めて握り返した。


「頑張りましょうね、先輩」


 汗ばんだ手のひらの感触。

 瑠璃の愛は、やっぱり少し重たい。

 でも、その重さこそが、今の光莉には何よりも心地よく、愛おしかった。

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