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先輩、私にだけ心の音がダダ漏れです。  作者: 如月白華


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声の導き

 光莉が瞼を開くと、そこは上下左右の感覚が曖昧な、純白の空間だった。


「……聞こえますか、瑠璃先輩」


『ええ、クリアに聞こえているわ。……状況は?』


 耳元のインカムから、瑠璃の声が届く。

 その冷静な響きだけで、光莉の鼓動は少し落ち着きを取り戻した。


「目の前には……真っ白な一本道が続いています。壁も床も、白いタイル張りみたいな感じです」


『了解。……進んで』


 光莉は自分の手足が動くことを確認し、走り出した。

 足音は響かない。現実離れした感覚に酔いそうになりながらもしばらく進むと、行く手を阻む巨大な構造物が現れた。


「……止まりました。行き止まり……いえ、扉です」


 それは、空間を遮断するようにそびえ立つ、巨大な銀色の扉だった。

 表面には、複雑な線が絡み合う幾何学的な紋章が、溝のように深く刻まれている。


「銀色の扉。真ん中に、幾何学模様の……回路のような溝があります」



 一方、現実世界のアリーナ。瑠璃は手元のタブレット端末を高速で操作していた。画面には「KEYWORD SEARCH」の文字。

 このエンジンに与えられたワードを打ち込むことでヒントを参照できる。そういうことらしかった。。


(「白い通路」「銀の扉」「幾何学模様」)


 すると、画面に当該ギミックの設計図が表示された。


『……出たわ。第一関門は「流体回路のロック」よ』


 瑠璃は表示された情報を読み解き、即座に指示を飛ばす。


『周囲になにか使えそうなものはある?』


「あ、あります! 右側の壁に棚があって……小瓶が五つ、並んでいます」


『その中には、色のついた液体が入っているはずよ。……扉の近くに、それを注ぐための注ぎ口はある?』


「はい、あります!」


『その液体を注ぎ口に入れなさい。液体が扉の溝を流れ、先端まで到達すればロックが解除される仕組みよ』


 光莉は指示通り、手近にあった赤い液体の小瓶を手に取り、注ぎ口へと流し込んだ。

 ドロリとした液体が、扉の表面に刻まれた溝を伝って流れていく。

 しかし――。


「……ダメです、先輩! 途中で止まってしまいました!」


 赤い液体は、半分も行かないところで流れを止めてしまった。

 まるで、見えない壁に阻まれたかのように。

 しばらくすると扉にあった液体は姿を消し、瓶に戻されていた。


「どうしよう、量が足りないんでしょうか……これじゃ開きません!」


 焦りが光莉の声を上ずらせる。周りが見えない孤独な空間での失敗は、恐怖を倍増させる。

 だが、瑠璃の声は驚くほど優しかった。


『……光莉。落ち着いて』


 瑠璃は一度タブレットから目を離し、周囲を見渡した。

 他のペアの観測者たちも、頭を抱えたり、端末を乱暴に操作したりと苦戦している様子が見て取れる。


『周りを見たけれど、まだ突破したペアはいないわ。……私たちは遅れていない。深呼吸して』


「は、はい……吸って……吐いて……」


『いい子ね。……さて、もう一度小瓶をよく観察して。色は? 量は?』


「色は、赤、青、黄、緑、透明の五色です。量は……どれも同じくらい入っています」


『……量は同じ。なら、違いはどこにあるのかしら』


 瑠璃の問いかけに、光莉は小瓶を改めて一つずつ手に取ってみた。

 見た目は同じ大きさのガラス瓶。でも、持ち上げた瞬間、違和感を覚えた。


「……あれ? 重さが、違います」


 光莉は驚いて報告した。


「この青いのはずっしり重いです。でも、黄色いのは水みたいに軽い……」


『重さが違う……?』


 その言葉を聞いた瞬間、瑠璃の頭の中で回路が繋がった。流体力学。粘性。そして――比重。


(なるほど。ただ注げばいいわけじゃない)


 軽い順に、圧力をかけるように層を作らなければ、細い回路の抵抗に勝てないのだ。


『……分かったわ、光莉。入れる順番が鍵よ』


 瑠璃は確信を持って指示を出した。


『最も軽いものから順番に投入して』


「わかりました、やってみます」


 光莉は震える手で、しかし迷いなく小瓶を手に取った。

 瑠璃の言う通りに、次々と液体を注ぎ込んでいくと、扉の溝が鮮やかな五色に染め上げられていく。

 液体は滞ることなく回路を巡り、ついに紋章の最深部へと到達した。


 巨大な扉が左右にゆっくりと開き始めた。


「……開きました! 先輩、開きましたよ!」


『ええ、よくやったわ。……さあ、先へ急ぎましょう』


 インカム越しの瑠璃の声に、安堵の色が混じる。

 光莉は一つ大きく頷き、開かれた扉の向こう、次なるエリアへと足を踏み出した。

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