表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先輩、私にだけ心の音がダダ漏れです。  作者: 如月白華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/88

電子の迷宮

 日差しにまだ厳しさが残る八月の後半。

 試験の会場となる「天穹理数化学研究学院」の敷地に、各校の代表ペアが集結していた。


「……うわぁ。全然雰囲気が違う」


 光莉は、初めて足を踏み入れる他校の様子に、キョロキョロと視線を巡らせた。

 優雅な校舎が並ぶ白嶺とは違い、ここは無機質なガラスとコンクリートの建物が整然と並んでいる。行き交う生徒たちは皆、白衣を羽織り、タブレット端末を片手に早口で議論していたり、分厚い専門書を読みながらブツブツと数式を呟いていたりする。漂う空気までもが、どこか薬品と金属の匂いがするようだった。


「……よそ見をしている場合じゃないわよ、光莉」


 隣を歩く瑠璃が、凛とした声で注意を促す。二人が案内されたのは、普段は体育施設として使われている巨大なアリーナだった。

 しかし、今の光景はスポーツとは無縁だ。薄暗い空間には、鈍く光る銀色のカプセル――「コクーン」と呼ばれるシミュレーター装置が、墓標のように静かに並んでいた。


「――注目」


 アリーナの前方にあるステージに、一人の生徒が登壇した。

 白衣の襟を正し、黒縁メガネの奥から冷ややかな視線を向ける彼女は、手元のマイクを調整した。


「合同生徒会・書記、天穹学院二年の山城だ。今回の試験の立会人を務める」


 山城の声は、機械音声のように抑揚が少なく、アリーナによく響いた。


「ルールは事前に通達した通りだが、改めて確認する。……今回の試験『双星の演算』は、情報の非対称性を克服するミッションだ」


 彼女は背後の巨大スクリーンに図解を映し出した。


「ペアのうち一名はコクーンに搭乗し、仮想空間内の迷宮を探索する。そこには各種パズルや障害が待ち受けている」


 画面が切り替わる。


「もう一名はオペレーターとして、外部の端末からその迷宮の構造、ギミックの解除方法、法則性を参照する。……ただし、互いの視覚情報は共有されない」


 つまり、中にいる人間は何をすればいいか分からず、外にいる人間は中の状況が見えない。

 頼りになるのは、音声通信のみ。


「制限時間内に、パートナーを最深部のゴールへ導け。……なお、今回の試験結果に基づき、下位二組のペアはその時点で脱落とする」


 会場にざわめきが起こる。ここからが本当のサバイバルだ。


「それでは、各ペア、役割を決定し、コクーンへ向かえ」



 白嶺のペアである光莉と瑠璃は、指定されたコクーンの前で向き合った。


「……予定通りでいいわね、光莉」


「はい。私が中に入ります」


 事前の作戦会議で決めていた。

 膨大なデータを瞬時に処理し、論理的な指示を出すのは瑠璃が得意だ。

 そして、予期せぬ事態に直感で対応し、指示を実行するのは光莉が適任だろうと。


 光莉はコクーンのハッチに手をかけ、緊張で生唾を飲み込んだ。

 中に入れば、外の世界とは遮断される。頼れるのは耳元のインカムだけ。


「……大丈夫よ」


 震える光莉の手を、瑠璃がそっと握った。そして、誰にも見えない角度で、光莉の右耳の髪を払い――あの星のイヤリングを、親指で優しく撫でた。


「っ……」


 冷たい金属の感触。そして瑠璃の指の熱がそのまま伝わるかのように光莉の心に灯る。


「必ず、わたくしが正解を届けるわ。……あなたは、わたくしの声だけを信じて進めばいい」


 瑠璃は光莉の耳元に顔を寄せ、祈るように囁いた。


「……頑張って、光莉」


「……はい!」


 光莉は力強く頷き、コクーンの中へと身体を滑り込ませた。

 排気音とともにハッチが閉じられる。完全な暗闇。そして静寂。


『システム、起動』


 電子音が響き、光莉の視界が仮想世界を映していく。

 青白いモニターの光が、瑠璃たちオペレーターの顔を照らし出す。


「試験、開始!」


 山城の号令とともに、知性と絆を試す試練が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ