片耳ずつの約束
島の外のショッピングモール。
行き交う人々は誰も、瑠璃を特別気に留めたりしない。ここでは、二人はただの、仲の良い女子高生の二人組だった。
「……これ、光莉に似合いそうよ。合わせてみて」
「ええっ、こんな可愛いの私には無理ですよ」
「わたしが選んでいるんだから、間違いないわ」
洋服店を巡り、互いに服を選び合う。瑠璃は終始楽しげで、昨夜の布団の中での切羽詰まった様子は微塵も感じさせない。
(……先輩、昨日のことはもう気にしてないのかな)
光莉は、瑠璃の明るい横顔を見ながら、安堵と、ほんの少しの寂しさを感じていた。
あの時の熱、あの時の瞳。それは夢だったんじゃないかと思うほど、今の瑠璃はいつも通りの「完璧な先輩」に戻っていた。
*
歩き回って少し疲れた二人は、モール内のカフェに入った。
アイスティーで喉を潤していると、瑠璃がふと席を立った。
「少し、席を外すわね。お手洗いへ」
「あ、はい。行ってらっしゃい」
瑠璃が去り、光莉は一人残された。
周囲の喧騒が、遠くの波音のように聞こえる。
ストローでグラスの氷をつつきながら、光莉の思考はまた昨夜へと戻ってしまう。
(……悔しかった、って言ってたよね)
ねね先輩に嫉妬して、キスしようとして、でも思いとどまって。
あれは、一時の感情の昂りだったのだろうか。それとも――。
悶々としていると、コツコツというヒールの音が近づいてきた。
「お待たせ」
瑠璃が戻ってきた。
その手には、小さな紙袋が握られている。
「先輩、それは……?」
「……これ」
瑠璃は席に座ると、少し視線を泳がせながら、その袋をテーブルに置いた。
中から取り出したのは、小さなアクセサリーケース。蓋を開けると、そこには銀色の、小さな星をあしらったシンプルなイヤリングが入っていた。
「あ……これ」
光莉は驚いた。
さっき雑貨屋を覗いた時、光莉が「可愛いな」と思って手に取り、でも値段を見て棚に戻した商品だったからだ。
「見てたんですか?」
「……ええ。あなたがずっと見ていたから」
瑠璃はケースから、二つあるイヤリングのうちの一つを取り出した。
そして、躊躇うことなく自分の左耳に着けた。銀色の星が、黒髪の間でキラリと揺れる。
「せ、先輩? それは両耳用じゃ……」
「知っているわ。……だから」
瑠璃は、ケースに残ったもう片方のイヤリングを、そっと光莉の方へ差し出した。
「こっちは、あなたの分」
「えっ……」
「……これだけじゃ、嫌だったの」
瑠璃は、自らの左手の薬指にはまった、学園指定の指輪型デバイスを見つめた。
「これは、学園のシステムに強制された『ペア』の証でしょう? ……そうじゃなくて、わたくしたち自身の意思で選んだ、お揃いのものが欲しかったの」
瑠璃の頬が、みるみるうちに赤く染まっていく。
昨夜の嫉妬も、独占欲も、全部ひっくるめた上での、彼女なりの精一杯の愛情表現。
「……だから、受け取ってくれる?」
上目遣いの、少し不安げな瞳。光莉は、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
この人は、なんて不器用で、愛おしいんだろう。
「……はい。ありがとうございます」
光莉はケースを受け取ると、小さく震える手で右耳にイヤリングを着けた。
銀色の星が、光莉の耳元で揺れる。瑠璃とお揃い。世界でたった一つの、二人だけのペア。
光莉は髪を耳にかけ、真っ赤になっているであろう耳を見せながら、照れくさそうに笑った。
「……どう、ですか?」
小さな声で問いかける。瑠璃は、光莉の右耳と、自分の左耳の星を見比べ、嬉しそうにほほ笑んだ。
その笑顔は、どんな宝石よりも輝いて見えた。
「……ええ。とてもよく似合っているわ、光莉」
カフェの喧騒の中、二人だけの甘い沈黙が流れる。
言葉はなくても、揺れる小さな星が、互いの心をしっかりと繋ぎ止めていた。




