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先輩、私にだけ心の音がダダ漏れです。  作者: 如月白華


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片耳ずつの約束

 島の外のショッピングモール。

 行き交う人々は誰も、瑠璃を特別気に留めたりしない。ここでは、二人はただの、仲の良い女子高生の二人組だった。


「……これ、光莉に似合いそうよ。合わせてみて」


「ええっ、こんな可愛いの私には無理ですよ」


「わたしが選んでいるんだから、間違いないわ」


 洋服店を巡り、互いに服を選び合う。瑠璃は終始楽しげで、昨夜の布団の中での切羽詰まった様子は微塵も感じさせない。  


(……先輩、昨日のことはもう気にしてないのかな)


 光莉は、瑠璃の明るい横顔を見ながら、安堵と、ほんの少しの寂しさを感じていた。

 あの時の熱、あの時の瞳。それは夢だったんじゃないかと思うほど、今の瑠璃はいつも通りの「完璧な先輩」に戻っていた。



 歩き回って少し疲れた二人は、モール内のカフェに入った。

 アイスティーで喉を潤していると、瑠璃がふと席を立った。


「少し、席を外すわね。お手洗いへ」


「あ、はい。行ってらっしゃい」


 瑠璃が去り、光莉は一人残された。

 周囲の喧騒が、遠くの波音のように聞こえる。

 ストローでグラスの氷をつつきながら、光莉の思考はまた昨夜へと戻ってしまう。


(……悔しかった、って言ってたよね)


 ねね先輩に嫉妬して、キスしようとして、でも思いとどまって。

 あれは、一時の感情の昂りだったのだろうか。それとも――。

 悶々としていると、コツコツというヒールの音が近づいてきた。


「お待たせ」


 瑠璃が戻ってきた。

 その手には、小さな紙袋が握られている。


「先輩、それは……?」


「……これ」


 瑠璃は席に座ると、少し視線を泳がせながら、その袋をテーブルに置いた。

 中から取り出したのは、小さなアクセサリーケース。蓋を開けると、そこには銀色の、小さな星をあしらったシンプルなイヤリングが入っていた。


「あ……これ」


 光莉は驚いた。

 さっき雑貨屋を覗いた時、光莉が「可愛いな」と思って手に取り、でも値段を見て棚に戻した商品だったからだ。


「見てたんですか?」


「……ええ。あなたがずっと見ていたから」


 瑠璃はケースから、二つあるイヤリングのうちの一つを取り出した。

 そして、躊躇うことなく自分の左耳に着けた。銀色の星が、黒髪の間でキラリと揺れる。


「せ、先輩? それは両耳用じゃ……」


「知っているわ。……だから」


 瑠璃は、ケースに残ったもう片方のイヤリングを、そっと光莉の方へ差し出した。


「こっちは、あなたの分」


「えっ……」


「……これだけじゃ、嫌だったの」


 瑠璃は、自らの左手の薬指にはまった、学園指定の指輪型デバイスを見つめた。


「これは、学園のシステムに強制された『ペア』の証でしょう? ……そうじゃなくて、わたくしたち自身の意思で選んだ、お揃いのものが欲しかったの」


 瑠璃の頬が、みるみるうちに赤く染まっていく。

 昨夜の嫉妬も、独占欲も、全部ひっくるめた上での、彼女なりの精一杯の愛情表現。


「……だから、受け取ってくれる?」


 上目遣いの、少し不安げな瞳。光莉は、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

 この人は、なんて不器用で、愛おしいんだろう。


「……はい。ありがとうございます」


 光莉はケースを受け取ると、小さく震える手で右耳にイヤリングを着けた。

 銀色の星が、光莉の耳元で揺れる。瑠璃とお揃い。世界でたった一つの、二人だけのペア。


 光莉は髪を耳にかけ、真っ赤になっているであろう耳を見せながら、照れくさそうに笑った。


「……どう、ですか?」


 小さな声で問いかける。瑠璃は、光莉の右耳と、自分の左耳の星を見比べ、嬉しそうにほほ笑んだ。

 その笑顔は、どんな宝石よりも輝いて見えた。


「……ええ。とてもよく似合っているわ、光莉」


 カフェの喧騒の中、二人だけの甘い沈黙が流れる。

 言葉はなくても、揺れる小さな星が、互いの心をしっかりと繋ぎ止めていた。

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