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先輩、私にだけ心の音がダダ漏れです。  作者: 如月白華


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テスト終わり

 キーン、コーン、カーン、コーン……。


 試験終了を告げるチャイムが、スピーカーから流れ出した瞬間。

 教室の空気が音を立てて抜けたような気がした。


「……終わったぁ……」


 光莉は、机に突っ伏して、液状化するように脱力した。

 三日間続いた期末試験。脳みその皺という皺から絞り出した数式や単語が、今はもう霞の彼方に消えていく。残っているのは、ただただ圧倒的な「解放感」だけだった。


「光莉ちゃーん! 生きてるー?」


 近づいてきた智香が声をかけてくる。彼女もまた、魂が半分抜けたような顔をしているが、目はキラキラと輝いている。


「ねえ、帰りに商業エリア行こうよ! 新作のアイス食べたい! 脳が糖分を求めて暴動起こしそう!」


「あはは……。うん、いいね。冷たいもの、食べたい……」


 光莉はふにゃりと笑って頷いた。

 けれど、ふとポケットの中のスマホを思い出し、動きを止めた。


(……あ。でも、今日は)


 画面をタップする。そこには、朝のうちに来ていた瑠璃からのメッセージが表示されていた。


『試験お疲れ様。終わったら、少し顔を見せなさい』


 たった一行。でも、その一行が持つ意味は重くて、甘い。

 試験期間中、お互いに集中するために会うのを控えていた。久しぶりに会える。その事実に胸が躍る反面、目の前の智香を無下にするわけにもいかない。


(どうしよう。……智香ちゃんには、勉強も付き合ってもらったし……)


 光莉が答えあぐねて、視線を泳がせていると。

 教室の入り口付近が、にわかにざわつき始めた。


「かーなでちゃんっ」


 甘く、よく通る声が、喧騒を切り裂いて飛んできた。


「……げ」


 窓際の席で帰り支度をしていた常盤奏が、露骨に嫌そうな声を漏らす。

 光莉と智香がつられて入り口を見ると、そこには信じられない光景があった。


「お迎えに来たわよぉ~」


 手を振っているのは、九条ねね。

 そして、その隣には――。


「……早くしなさい、目立つわ」


 腕を組み、不服そうに、しかし凛と佇む西園寺瑠璃の姿があった。


「えっ……!?」


 教室中がどよめく。選挙戦のライバル同士。その二人が並んで立っているなど珍事だ。


 二人は、光莉と奏、そして智香がいる席まで、ズカズカと歩み寄ってきた。


「せ、先輩? どうしてここに……それに、九条先輩と一緒に?」


 光莉がどぎまぎしながら問いかけると、瑠璃は深々とため息をついた。


「……たまたまよ。執行委員会室を出たところで、この女に捕まったの」


「人聞きが悪いわねぇ。寂しい者同士、一緒に行こうって誘っただけじゃない」


 ねねはクスクスと笑い、奏の肩に抱きついた。


「ほら奏ちゃん、荷物は? もう行くわよ」


「……どこへですか。私は寮に帰って寝たいんですが」


「だーめ。今日は『打ち上げ』なんだから」


 ねねは強引に奏を立たせると、光莉の方へ向き直り、悪戯っぽくウインクをした。


「というわけでぇ。試験も終わったことだし……『ダブルデート』しましょう?」


「は、はいっ!? だ、ダブル……!?」


 光莉の声が裏返る。


「……九条さんが、四人でというからよ」


 瑠璃を見ると、彼女は顔を赤らめてそっぽを向いていた。


「えぇぇぇーっ!?」


 そこで、今まで空気になっていた智香が、素っ頓狂な声を上げた。


「す、すごい……! ダブルデート……!? なにこの状況、神イベじゃん!?」


 智香が興奮して震えていると、ねねが「あら」と智香を見下ろした。


「あなたも、一緒に行く?」


「えっ!?  私もいいんですか!?」


「もちろんよぉ。二人のお友達でしょう。人は多いほうがいいしねぇ」


「行きます! 行かせてください! 荷物持ちでも何でもします!」


 智香が即答し、荷物をまとめる。


「はぁ……。頭が痛い」


 奏が天井を仰ぎ、瑠璃がまたため息をつき、ねねが楽しそうに笑い、光莉はおろおろと視線を彷徨わせる。


 こうして。 奇妙な五人組――敵対する最強の二組と、智香による、放課後の商業エリアデートが幕を開けたのだった。

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