白嶺の代表
休日、昼下がり。
予選を勝ち抜いた各校の代表を集めた説明会と懇親会が開かれることになり、白嶺の代表三組は、連れ立って島の中央にある合同生徒会が管理する塔へと向かっていた。
穏やかな陽気の中、並木道を歩く一行。けれど、その隊列はあまりにも不揃いだった。
「あーん、待ってよぉ~奏ちゃ~ん」
九条ねねが、常盤奏の左腕に、これでもかというほど絡みついて歩いていた。
腕を組むというよりは、蔓が樹木に絡みついているようだ。
ねねは全体重を預けるように密着し、奏の顔を覗き込んでいる。
「……九条先輩、歩きにくいです。少し離れてください」
「やーだ。奏ちゃんが私を運んでよぉ。おんぶして」
「却下します。……重いです」
「ひどーい! そこは『軽いですね』って言うところでしょ!? もう、奏ちゃんのいけずぅ!」
無表情で淡々と拒絶する奏と、それを愛情表現だと受け取ってさらに頬を摺り寄せるねね。
完全に二人の世界が構築されていた。
「――嘆かわしい」
その背後から、氷のように冷たく、硬質な声が響いた。
御鏡聖良だ。一分の隙もなく制服を着こなし、機械仕掛けのように正確な歩調で歩いている。
「ここが校内だったら今すぐ処罰しているところだ。白嶺の代表として公道を歩いているということを忘れるな」
聖良が視線だけで射抜くように注意する。
しかし、ねねは「あらぁ、風紀委員長様は相変わらず堅いわねぇ」とケラケラ笑うだけで、離れる気配はない。
聖良はフンと鼻を鳴らすと、歩きながら背後に控える影に声をかけた。
「……五十嵐」
聖良の一歩後ろ。
そこに、小柄な少女――五十嵐すずが影のように付き従っていた。
眼鏡をかけ、三つ編みにした髪。胸には大きなファイルを抱きしめている。
「……は、はい」
すずはビクリと肩を震わせ、眼鏡の奥の瞳を走らせた。
その視線は、ねねたちを通り越し、前を歩く西園寺ペアに向けられている。
「……九条ペアは通常運転、警戒レベルに変化なし。ですが……」
すずは、聖良にだけ聞こえるような小声で、早口に報告を始めた。
「……西園寺・小林ペアに、変動あり。小林光莉は見ての通り、印象が変わっています」
「ほう?」
「単純な外観の変化もそうですが、まとっている雰囲気が違います。……分析を進めるべきです」
淡々とした分析。それを聞いた聖良は、冷ややかな瞳を細め、前を行く光莉の背中を見つめた。
「……なるほど。西園寺が入れ込むわけだ」
そんな背後の気配を、瑠璃は敏感に察知していた。
スッ。瑠璃が、自然な動作で歩く位置を変え、光莉と聖良たちの射線の間に割って入った。
そして、振り返りざまに鋭い視線をすずに浴びせる。
「……五十嵐さん」
「ひっ……!?」
すずが悲鳴を上げて、聖良の背中に隠れる。
「わたくしのパートナーを、値踏みするのはやめていただけるかしら。……非常に不愉快よ」
瑠璃の声は絶対零度だった。
直接触れられたわけではない。けれど、視線が瑠璃の独占欲を逆撫でしたのだ。
「……ふん。過保護なことだ」
聖良が、怯えるすずを庇うように一歩前に出た。
「五十嵐は私の『目』だ。やましいことがなければ、見られて困ることもあるまい」
「ええ。困りませんわ。……ただ、わたくしのパートナーを、評価されるのが気に入らないだけです」
バチバチと、視線だけで火花が散る。
光莉は、そんな三組の様子を見渡して、心の中で苦笑した。
溺愛して絡みつく、九条先輩と常盤さん。
冷徹な主従関係で結ばれた、聖良先輩と五十嵐さん。
そして、私たち。
(……すごいメンバーだなぁ)
関係性も、距離感もバラバラ。
けれど、どのペアも自分たちがトップだ、と確信している。
「……着いたわよ」
瑠璃の声で、光莉は顔を上げた。
目の前には、いつもは遠くに見える白亜の塔、合同生徒会の建物がそびえたっていた。
重厚な扉の前で、全員の足が止まる。
先ほどまでのピリピリとした空気は、別の種類の緊張感へと変わる。
「行くわよ、光莉」
瑠璃が、光莉だけを見る。その瞳には、もう迷いはない。
「はい、先輩」
光莉が頷くと、瑠璃は満足そうに微笑み、扉に手をかけた。
ギィィ、と重い音を立てて扉が開く。その先には、他校の強豪たちが待ち受ける、新たな戦場が広がっているはずだ。




