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先輩、私にだけ心の音がダダ漏れです。  作者: 如月白華


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side:すず_断罪者とスコープ

 執行委員会室を出た直後の、長い廊下。

 カツ、カツ、カツ。

 私の前を歩く御鏡聖良様の足音は、今日も時計の針のように正確で、美しい。


 すれ違う生徒たちが、怯えたように道を開ける。

 その刺すような視線が、後ろを歩く私にも向けられている気がして、足がすくむ。


「あ、あのっ、聖良様……! ま、待ってくださいぃ……!」


 私は、小走りでその背中を追いかける。

 大きなファイルを胸に抱き、キョロキョロと視線を彷徨わせながら。

 怖い。

 聖良様が歩くのが速いからじゃない。

 私には、「見えすぎて」しまうからだ。


(……2年C組、高橋先輩。スカート丈、規定より3センチ短い)

(……隣の佐藤先輩。昨日、寮の門限を違反した)


 眼鏡の奥、私の視界に入った生徒たちの情報が、勝手に脳内のデータベースとリンクする。

 私が風紀委員の特権で頭に叩き込んだ、規則と、そして全校生徒の個人データ。

 顔を見ただけで、その人の情報や交友関係が、タグのように浮かんで見えてしまう。


 みんな、表向きは普通の顔をして歩いている。

 でも、私にはその裏にある「嘘」や「秘密」が見えてしまう。

 情報量が多すぎて、頭が痛い。

 知りたくもない他人の秘密に押しつぶされそうで、私はいつも視線を地面に落とすしかない。



 人気のない渡り廊下まで来たところで、聖良様が足を止めた。

 振り返りもせず、低い声が降ってくる。


「……どう見た、五十嵐」


 その声を聞いた瞬間、私の背筋が伸びる。

 聖良様の前でだけは、この疎ましい目は「武器」になる。

 私はファイルを抱き直した。


「……手強いです。二組とも」


 私は、脳内の情報を整理し、淡々と報告する。


「まず、1位通過の『九条・常盤ペア』。……九条ねね先輩は、おそらく自分すら騙している仮面をかぶっていました。指先の動き一つまで計算された振る舞い。隙が見当たりません」


「ほう?」


「ですが……あれは、常盤先輩というパートナーがあってこそです。九条先輩が常盤さんを従えているように見えますが……私には、常盤さんが九条先輩を制御しているように見えました」


「……道化師の手綱を握っているのは、従者の方だと?」


「はい。あくまで私の主観ですが……常盤先輩というフレームがあるからこそ、九条先輩はあそこまで奔放に振る舞える。……常盤さんを引き剥がせば、九条先輩のバランスは崩れるはずです」


「なるほど。興味深い分析だ。……次は?」


「2位通過、『西園寺・小林ペア』」


 私は眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。

 ここが、一番の不可解な点だ。


「西園寺先輩のデータが、以前と一致しません。以前は『孤高』でしたが、今は精神的な支柱を外部……パートナーの小林さんに委ねています。プライドが薄まり、柔軟になっている。……以前より、ずっと厄介です」


「あの紛い物が、磨かれたということか」


「はい。……おそらく要因は、小林光莉。ですが……」


 私は眉をひそめた。

 私のデータベースに、彼女の情報だけが極端に少ないのだ。


「小林さんは、あまりに『普通』すぎます。成績も、素行も、何もかもが平均的。……なのに、あの西園寺先輩を変えてしまった。データで測れない『何か』を持っています。……警戒レベルを上げたほうがいいです」


 報告を終えると、聖良様は満足げに頷き、私の元へ歩み寄ってきた。

 そして、その大きな手で、私の頭を無造作に撫でてくれた。


「上出来だ、五十嵐。……お前が私の『目』である限り、白嶺の秩序は揺るがない」


 ――ああ。

 頭の芯が、痺れるように熱くなる。

 この手のひらの温度だけが、嘘のない真実。


「は、はいぃっ……! 聖良様ぁ……!」


 私は思わず、その場にへたり込みそうになった。

 

 私は、ずっとこの力が嫌いだった。

 人の嘘や秘密ばかりが見えて、誰も信じられなくて、ずっと教室の隅で震えていた。

 入学当初、不良の先輩に絡まれた時だってそう。相手の悪い噂が見えてしまって、怖くて動けなかった。


 でも、聖良様は違った。

 私を助けてくれた時、あの方からは「一点の曇り」も見えなかった。

 裏表のない、研ぎ澄まされた正義。

 嘘つきだらけのこの世界で、あの方だけが、私にとって唯一信じられる「秩序」だった。


 だから、私は決めたのだ。

 この目は、聖良様ために使うと。

 気味悪がられてもいい。あの方の役に立てるなら、私は喜んでこの身を捧げる。


「……行こうか」


「は、はいっ! お供しますぅ……!」


 聖良様が歩き出す。

 私は再び、ファイルを強く抱きしめてその背中を追いかけた。


 見ていてください、聖良様。

 あなたの邪魔をする敵は、私が全部丸裸にしてみせますから。

 だ、だから……私を置いていかないでくださいね。

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