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先輩、私にだけ心の音がダダ漏れです。  作者: 如月白華


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ペア成立

 週明けの月曜日。

 夕方のホームルームが終わった直後の教室は、けだるげな日常の空気に包まれていた。

 光莉は教科書を片付けながら、ふと窓の外を見た。この時間でもまだ春の陽光は穏やかなだ。

 けれど、光莉の「耳」は、廊下から近づいてくる、聞き馴染んだ足音を捉えていた。


 カツン、カツン。


 正確無比なリズム。

 教室の扉がガラリと開く。


「失礼するわ」


 凛とした声が響く。

 西園寺瑠璃が、教室の入り口に立っていた。その瞬間、教室中の視線が一斉に彼女に集まる。

 どよめき。驚愕。好奇。無遠慮なノイズが、彼女に向かって殺到する。


 光莉の耳には聞こえていた。

 入り口に立った瑠璃が一瞬、そのノイズの圧に晒され、無意識に呼吸を止め、全身の弦をギリギリと張り詰める微かな音を。

 彼女はまだ、完璧という名の窮屈なドレスを纏っているのだ。


 けれど。

 教室内を見渡していた瑠璃の視線が、窓際の光莉を捉えた、その瞬間だった。


 ――ふっ。


 瑠璃の周りの空気が、緩んだ。

 まるで、オアシスを見つけた旅人のように。張り詰めていた弦が、そこだけ軽い音色を奏でる。

 彼女は、安堵の色を瞳に宿し、迷うことなく光莉の元へと歩き出した。 


「行きましょう、光莉」


 瑠璃は、光莉の机の前で足を止め、当然のように言った。


(……わざわざ教室まで来なくても、メッセージで済むのに)


 光莉は、心の中で「やれやれ」と呟いた。

 この人は、こうやって「私たちがペアである」という事実を、周囲に見せつけずにはいられないのだ。不安だから。本当に、面倒な人だ。


「……はい。瑠璃先輩」


 光莉は、短く答えて席を立った。


「え、光莉ちゃん……?」


 隣の席で、智香が目を丸くしている。光莉は智香に向かって、小さく、しかししっかりと頷いてみせた。

 大丈夫、と伝えるように。


 光莉は、瑠璃の隣に並んだ。

 教室中の視線が突き刺さる。嫉妬、羨望、困惑。

 その中を、二人は並んで歩き出した。背中を丸めることもなく、瑠璃が切り裂いた風の中を、光莉もまた、堂々と歩いていく。



 特別棟への廊下を歩きながら、光莉は隣の瑠璃を盗み見た。

 彼女は前を向いたまま、完璧な表情を崩していない。

 けれど、その肩の力が以前よりも抜けていることを、その口角がわずかに上がっていることを光莉は感じ取っていた。


 執行委員会室の重厚な扉の前に着く。

 瑠璃はノックもせず、慣れた手つきで扉を開け放った。


「入るわよ」


 部屋の中には、いつものようにデスクに向かう和泉純がいた。

 純は、入ってきた二人を見ても、眉一つ動かさなかった。

 まるで、こうなることが最初から決まっていた未来であるかのように、静かな瞳で二人を迎える。


「こんにちは。……いい顔になったわね、二人とも」


 純がタブレットを置き、満足げに口元を緩めた。

 その言葉に、瑠璃はふいと顔を背け、バツが悪そうに純を睨んだ。


「……余計なことを吹き込んでくれたわね、純」


「あら、何のこと?」


「とぼけないで。あの日、光莉に私の過去をバラしたでしょう。……おかげで、わたくしはとんだ恥をさらしたわ」


 瑠璃の口調は責めているようだが、その声色には棘がない。

 むしろ、自分の重荷を下ろしてくれたことへの、不器用な感謝が滲んでいる。


「結果オーライでしょう?」

 純の視線が、瑠璃の隣に立つ光莉へと移る。

 その瞳は、以前の「値踏み」するような冷たさはない。ただ、友人を救い出してくれたことを感謝する暖かな眼差しだった。


「小林さん」


 純が、改まった口調で名前を呼ぶ。


「確認させてちょうだい。……あなたは、西園寺瑠璃と共に、統合生徒会選挙に出るのですね?」


 部屋の空気が、静かに澄み渡る。

 かつて、この場所で「邪魔になる」と断った時の、あの重苦しい空気とは違う。。

 光莉は、隣の瑠璃を見た。瑠璃もまた、光莉を見つめている。その瞳には、一抹の不安と、それ以上の強い信頼が揺らめいている。

 光莉は、小さな不安を拭い去るように、力強く前を向いた。


「……はい」


 迷いのない声が、部屋に響いた。


「出ます。……先輩のパートナーとして」

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