八話:誇り
「えぇっと。だいじょうぶなのか?」
「あぁ。この馬鹿がお前に、そして、このギルドに迷惑をかけたからな。これぐらいの罰は必要だ。」
それにしても、さっきの一撃は、すごかったな。
体の大きい男だけでなく、周りのものまで吹き飛ばすとは。
なにより、その一連の動作が、全く見えなかった。気が付いた時には、目の前の光景につながっていた。
出会った時から、たたずまいから、強いと思っていたけど……
カイが槍を背中に戻すと、金髪の女性がこちらに近づいてきた。
「あ、あの!助けていただいて、ありがとうございます!」
金髪の女性はそう言うと、俺らに頭を下げた。
「いや、俺は特に何もできなくて……、ほとんど、カイさんが……」
「謙遜することはない。私も見ていたが、あの場で動いたのは、お前だけだ。自分の行動に誇りを持て。お前は確かに、正しい行いをした。」
……俺は、役に立ったのだろうか。それなら、少しは自分に自信が持てる。
カイは後ろを振り向き、倒れた男の方へ歩み寄る。
「さて、ガダン。お前の処分は、追って伝える。早急に、この場から立ち去れ。」
カイの冷徹な声が、男を突き刺す。
男は、俺を睨むも、カイのほうが威圧感があるので、そこまで怖くない。
渋々と立ち上がり、舌打ちをしながら、男はその場を去った。
ギルドに扉の閉まる音が響くと、カイは俺に頭を下げた。
「私の部下が、お前に迷惑をかけた。許してやってくれ、とは言わない。ただ、一人の騎士として、お前に謝罪がしたい。本当にすまなかった。」
「ちょ、カイさんが謝る必要はないって!あの酔っ払いが悪いんだし。」
そうだ、元はあの男がこのギルドの従業員に、失礼なことをしたのが悪い。
そのことで、カイが謝るなんて、間違ってる。
なんなら、今すぐにでも、あの男を謝らしてやりたいぐらいだ。
「……わかった。お前が何か、困ったら、その時は、私が助けよう。」
「お、おぉ、それはありがたいな。」
この世界に、頼れる人がいるのは、それだけでも、ありがたい。
それが、カイみたいな、頼れる人なら、なおさらだろう。
「ところで、お前は、冒険者登録をしに来たのだろう?」
「あぁ、そうだった。それじゃ、早速行くとするか。」
確か、金髪の女性が言うには、あっちの受付で、冒険者登録ができると言ってた。
俺はそれらしい場所を見つけ、歩み寄ることにした。
近寄ってみると、そこには何人か、列になって並んでいた。
列の先には、受付嬢らしき女性が、なにやら羽ペンを持って、何かを書いていた。
……もはや、当然のごとく、受付の人もかなりの美人だ。
さっきは、失態を見せてしまったが、今回はカイもいる。
一対一ではない分、まだ落ち着いて話せるだろう。
「おっ、あそこは、誰もいないな。それでは、行こうか。」
カイが指さしたところは、不思議にも、人ひとりいなかった。
他のところには、人が列を作るほど、いるというのに。
俺たちはその受付に行くと、そこには、びくびくと震えている紫髪の塊がいた。
これ人だよな?なんか、新手のモンスター、みたいなんだが……
「あ、あの、冒険者登録をしに来たのですが……大丈夫ですか?」
「ひっ!す、すみません!ぼ、冒険者登録ですね。」
その女性は、紫色の癖のある長髪から、顔をのぞかせる。
長い髪で輪郭は分からないが、顔の部位だけ見ると、紫色の瞳孔に、幽霊のように白い肌をしている。
その動作の一つ一つが、まるで小動物のようだが、体はとても、小動物と言うには、発達しすぎている。
……しかし、この人からは、俺と同じ、陰キャの匂いがする。
「あ、そ、それでは、あなた様の手続きを手助けさせていただきます。ミルです。」