七話:冒険者ギルド
《冒険者ギルド》
それは転生系のゲームや漫画には必ずと言ってもいいほど、存在している大きな組織の一つ。
基本的には冒険者に依頼を斡旋したり、情報提供や資金の貸し出しなど冒険者の支援をしている。
……この世界に前世のような命の安全を守るような法律はない。
それはさっきの男の件もあって理解した。
この世界では自分の力で生き延びるしかない。
そのためにも、まずは自分でお金を稼ぐために冒険者登録をしなければ!
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……そう思ってたはずなのに、なんでこうなった?
ざわざわと多くの人が俺たちの周りに集まって来る。
俺の視界には、倒れた椅子と酒のグラス、机に倒れて気絶している鎧を着た男……
そして、黒色の柄に青く光り輝く穂の槍を持ったカイが倒れた男を睨んでいた。
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……少し前、俺はギルドの中に入ると……
中には予想通り、受付や酒場らしきものがあり、多くの冒険者らしき人たちが酒を飲んだり、依頼のかかれた掲示板に仕事を探す人たちがたむろしていた。
おぉ!これぞ異世界ってやつじゃねぇか!
俺が夢にまで見ていた光景に感動していると。
「ようこそ。冒険者ギルドへ。あれ?見ない顔ですが、冒険者希望の方でしょうか?」
金髪のウェイトレスの背の小さい女性が、にこやかな表情で話しかけてきた。
うおっ!カイとはまた別の、幼さのある容姿。いわゆる、可愛いという種類の美人だ。
俺は少し緊張したが、落ち着いて深呼吸をする。
……よし!
「そうでしゅっ!」
あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!噛んだぁぁぁぁ!!恥ずかしすぎる!
なんで、俺はいつも、いつもぉぉぉぉぉ!!
恥ずかしさで顔に熱がこもるのが分かる。俺は自身の顔を手で隠す。
「ふっ、ふふ。面白い方ですね。」
「いえ、お恥ずかしい限りです……」
まぁ、変に気を使われるよりは笑われた方がまだましだろう。
はぁ、幸先が不安すぎる。
すると、彼女は笑うのをやめて、さっきと同じにこやかな表情に戻る。
「ふう、冒険者登録でしたら、あちらの受付ですることができますよ。」
「あっ!いえ、少し人を待たないといけなくて。」
後から、カイが合流する予定があるため、俺は少し待たないといけない。
俺は入って来た扉のほうを向くが、そこにカイの姿はまだなかった。
「そうでしたか。それではあちらの待合室で待たれるのがよろしいかと思います。あそこからなら入ってきた人が分かりやすいでしょうし。」
彼女は、扉とは反対側にある椅子がたくさん並んでいるところを指さす。
確かに、あそこなら、あの目立つ容姿であるカイを見逃すことはないだろう。
「ありがとうございます。……あっ、あの~、できればさっきのことは内緒にしてもらえるとありがたいのですが……」
「ふふっ、分かりました。それでは、私は他にやることがございますので。」
そう言うと、彼女はお辞儀をして、その場を去った。
しかし、カイもそうだが、この世界にもいい人はいるんだな。
オタクに優しいギャルとは違うが、俺にも優しく接してくれるのだ。嬉しいことではある。
俺は言われたところに座ると、ドアのほうを見つめる。
「ふぅ、それにしても、人が多いな。皆、冒険者なのか。」
「いや、そういうわけではないようです。」
……この声、ペルソナか。
さすがに驚かなくなってきたな。しかし、冒険者だけではない、とは一体どういうことなのだろうか?
「それはどういうことだ?」
「あそこの酔っ払いの男、さっきの槍使いと同じ匂いがします。」
「………前から思ってたんだが、お前、口や鼻がないのに、なんで普通に喋ったり嗅いだりできてんだ?」
「くふふふふ、それは企業秘密です。」
納得はしないが、こいつに何かを要求すると、契約を結ばれそうで怖い。
しかし、カイと同じ匂いってことは、あの男も警備隊ってことか。
なるほど、町の人の憩いの場としても需要があるのか。
俺が再び、入り口を見ようとした、その時。
「あ、あの!やめてください!!」
この声は、あの親切な金髪の女性!?
ギルド中に金髪の女性の悲鳴が響く。俺は声のしたほうを振り向く。
そこには、金髪の女性の手を警備隊の男が強引に引っ張っていた。
あいつ!!何やってんだ!!
周りの人たちも彼女たちを視認しているはずなのだが、何故か誰も助けに入ろうとしない。
このまま見過ごすわけにはいかない、と思った俺は椅子から立ち上がり、騒ぎの中心へ近づく。
「へへへへ、ちょっとぐらい、いいじゃねえか。ちょうど一人で寂しくしてたんだ、付き合ってくれてもいいだろ。」
「おい!あんた何やってんだ!!」
俺は無理矢理、男の手をつかみ彼女から引き剝がす。
男のほうは酒を飲んでいるからか、俺の突然の行動に反応が遅れていた。
俺は男のほうを睨むが、その瞬間、顔につよい衝撃が走った。
どうやら、男が俺の顔面目掛けて殴ったらしい。俺のは頬を押さえて痛みに耐える。
「なんだぁ?このガキ、せっかく気持ちよく飲んでたのに、お前のせいで台無しじゃねぇか!」
「知るかよ!酔っ払い!もとはと言えば、お前が……」
「これはどういう状況だ?」
俺はその声を聴いた瞬間、背筋が凍るような感覚を感じた。
後ろにいるその人の鋭い視線がまるで、槍のように突き刺してくる。
……この声……いや、まさか……
俺は恐る恐る、振り向くと、そこには黒い柄と青く輝く穂の槍を片手に持ったカイが立っていた。
「おぉ!カイじゃねぇか。いや、こいつがな。俺がこの姉ちゃんと酒を飲むのを邪魔しやがってよ。だから、躾けてやっただけだよ。」
「お前!このお姉さんは嫌がってただろ!」
「……そうか。」
カイはそう言うと、俺のほうまで歩いてきた。
まさか、こいつの言うことを信じたのか?
「すまない。少し下がっていてくれ。」
「あぁ、何言って……がはっ!!」
「えっ?」
何が起きた?カイが男に近づいたかと思うと、気が付いた時には男は吹っ飛び、その場に椅子と酒のグラスと一緒に倒れていた。