六話:対価と信頼
「これが、ギルド……。」
そこには、石レンガで造られた建物とレンガと木で造られた大きな建物が並んでいた。
「それでは、私はこいつを牢にぶち込んでから、ギルドに向かう。お前は先に行って待ていてくれ。」
「あぁ、分かった。」
そう言うと、カイは未だに起きる気配のない男を轢きづり石造りの建物に入っていった。
カイが言う警備隊の事務所は石レンガで造られており、周りの家に比べると少し大きいぐらいのサイズだ。
外にある壁には、掲示板らしいボードがあり、そこには何枚か、何かの紙が貼られていた。
俺は近づいてその紙を見ると、指名手配という文字と数字が書かれ、見知らぬ人物の写真が貼られていた。
なるほど、これは手配書か。……顔がいかつい奴らしかいねぇな。
「ん?なんだ、こいつ?あんまり強そうじゃないけど……。」
「くふふふふ、見た目で判断してはいけませんよ。本当の実力など、実際に戦わなければ分からないのですから。」
「うおっ!急に喋るなよ!驚くだろ!」
俺はポッケから、ペルソナを取り出す。
うん?なんか、さっきより小さいような……。
「あなたがいきなり、私を狭いところに押し込むものですから、体を縮小させたのですよ。しかし、あと少しで、私の体が壊れるところだったじゃないですか。」
「うっ……。す、すまん。でも、お前をカイに見せるわけにもいかなかっただろ。」
もしあの場で、ペルソナがカイに見つかっていたら、ペルソナどころか、悪魔と関わってた俺まで殺されかねない。
……まじで、なんで初めに出会ったのがこいつなのだろうか?
今思うと、もしもう少し遅ければ、カイと出会って、こいつと契約せずに済んだかもしれない。
しかし、それは今更すぎるので、俺は考えることをやめた。
「それより、契約の対価の話なのですが……」
「あっ。」
そうだった。こいつはこんな仮面の姿でも、悪魔なのだ。
契約には対価が伴う。今回は仕方がなかったが、本来、あんな簡単に決めていいものではない。
対価の内容によっては、契約者の心臓や魂まで奪うかもしれないのだから。
俺は、いったい、どんな要求をされるのか、と心の中で構える。
「契約の対価は、……二つです。」
「えっ。」
ちょっと待て!そんなのありか!?確かに内容も聞かずに了承した俺も悪いけど!
「まぁ、落ち着いてください。二つと言っても、あなたの命に直接かかわるようなことでは決してありません。」
「………はぁ、なんかもう、いろいろありすぎて吹っ切れた。いいよ、もう何でも来い!」
「それでは、一つ目の対価は私の体を作ってください。」
「……えっ?お前の体って、それじゃないのか?」
ペルソナは最初の時、俺の手元に仮面の姿で現れた。
俺はてっきり、こういう姿の悪魔なのかと思ったのだが……
「えぇ、確かにこちらの姿が本体と言ってもいいでしょう。ですが、悪魔は本来、形などない魔力の塊のような存在なのですよ。私は自身の魔力を具現化させこの形に変形させたのですよ。」
「……つまり、今こうして俺が触れてるお前は魔力なのか?」
俺がペルソナを装備した時、ペルソナは自身の分身体を黒のロングコート、それもなかなか頑丈な素材でできていそうなやつに体を変形させていた。
それも魔力で作ったということだろう。
「まぁ、そうですね。極端に言えばそうなります。しかし、その能力は依り代がなければ自由に行動することができない制約の上で成り立っています。ですので例え、この能力で生物の形を作ったとしても、それは私の意志で動かすことはできないのです。」
「なるほど。要は、お前を自由に行動できるようにする、ってことでいいのか?」
「えぇ、そういうことです。」
……怪しい。こいつは考えていることが全くわからない。
何を企んでいるのかも。もしかしたら、何も考えていないのかもしれない。
……そんな悪魔を自由にさせるってのも不安だが、契約してしまったものは仕方がない。
「わかった。できれば、その後、人類に敵対しないってもの付けてほしいものだが。」
「くふふふふ。それはあなた次第ですね。」
「……えっ?どういうことだ?」
俺次第?一体、俺が何をすれば……と言うか!俺次第では、こいつが人類に敵対するってことかよ!!
……なんだろう。英雄になりたいのに、俺が人類に害をなすかもしれないって……。
「二つ目の対価ですが、私をあなたの使い魔とさせてはいただけないでしょうか?」
「……………。」
やばい、予想してないこと過ぎて、声が出ないくなってしまった。
……今、こいつなんて言った?俺の使い魔になりたい?
「……もう一回聞くが、俺の使い魔になりたい、って言ったのか?」
「えぇ、そうです。」
「……お前、一回でいいから心を読む力を貸してくれないか?」
「いいですけど。対価はあなたの命ですよ?」
「………………。」
……これが使い魔になりたい奴の態度なのだろうか?平然と俺の命を対価にしてきやがった。
こいつが俺の心読めて、俺が読めないのは理不尽ではないだろうか!
しかし、こんな頭のおかしい奴を使い魔にするなんて、危険すぎないだろうか?
「……俺の使い魔になって、お前に何の得があるってんだ?」
「くふふふふ、私はただ、あなたに希望を持っているだけですよ。この世界を楽しくしてくれそうな気がしたので。私はただそれを近くで見てみたい、と思ったんですよ。」
「はぁ、もう分かった。対価はそれでいいんだな。」
正直、まだ納得はしていない。いや、できるわけがない。
……でも、今はこいつを信じるしかない。この何を考えているのか分からない悪魔を。
「えぇ、それで十分です。私も信頼してますよ。”マイロード”。」
「……………なんだろう。お前がそれを言うと、俺が魔王みたいなんだが。」
「くふふふふ、いっそのこと目指しますか?魔王。」
「はっ、絶対ないな。俺は英雄になる男なんだから!」
そう、何も、こいつの力が使えないわけじゃない。むしろ、悪魔が味方になると思えば、心強さがある。こいつが俺を利用するなら、俺もこいつを存分に利用すればいい。
俺は俺の使えるものすべてを使って、英雄まで成り上がってやる!
「よし!そうと決まれば。早速、ギルドに行こう!」
そうだ、まだ焦ることはない、俺の伝説はまだ始まったばかりなのだから!!
俺はギルドの扉の前まで歩き、ドアの取っ手を握り、力を込めて扉を開けた。