二話:理想の世界で
最初に映ったのは、レンガで造られた壁だった。
耳を澄ますと、どこからか多くの人が喋る声が聞こえる。
あたりを見渡すと、右側はゴミ箱があるだけでただの行き止まりだが、左には薄暗く先が見えない道が続いていた。
どうやら、俺はどこかの路地裏に転生したらしい。
俺は自分の頬をつまむ。どうやら、夢ではないらしい。しかも、幽霊でもない。
とりあえず、俺は壁に沿って道なりに進んだ。
しばらく進むと、光が見えた。俺は自然と歩く歩幅が大きくなる。
気が付くと、俺は薄暗い路地裏を抜けていた。
「お、おぉぉぉぉぉぉ!!」
路地裏を抜けた先の景色を見て、思わず俺は興奮して大きな声を上げてしまった。
そこには、石造りの道に、レンガで造られた建物が並んでおり、中世時代のヨーロッパのような街並み。音を立て目の前を通ったのは、車ではなく馬車だ。
まさに、ファンタジーに出てくるような理想の町だった。
「……本当に転生したんだ。……しかも、異世界に。ほ、本当の、本当に!転生したんだ!」
俺は周りに行き交う人々を観察する。
服装は現代のようなものとは、まるで違う。
まさに、異世界!!
俺はこれからの冒険に胸を躍らせる。
さて、まずは何から始めようか。
やっぱり、定番に習えばギルドで冒険者登録をするべきだろう。
しかし、ギルドはどこにあるのだろうか?そもそも、ギルドと言う存在があるのだろうか?
俺は誰かに教えてもらおうと、あたりを見渡した、その時だった。
突然、視界が暗闇に包まれた。
「ちょっ!何が起きてるんだ!?」
俺は咄嗟に頭にかぶせられているものを取ろうとするが、何者かに抑えられていて取ることができない。
すると、何者かに両手をつかまれ、急に体を引っ張られる。
俺は尻もちをつき、ズルズルと引きずられていく。
必死で抵抗するが、俺には空気を蹴ることしかできなかった。
しばらくすると、俺は壁にたたきつけられた。
背中の痛みを我慢しながら、俺は頭についている袋を外す。
やっと光を見れると思ったが、そこには先ほどの薄暗い路地裏だった。
そして、目の前には、いかにもな感じのガラの悪い男が立っていた。
……もしかしなくても、この状況、絶体絶命なのでは?
誰がどう見ても、カツアゲの現場なんだが……。
すると、男は急に笑い出した。
「おいおい、お前、珍しい服、着てんじゃぁねぇか。大人しく金目の物を置いてけよ。」
……おいおい、まさかの初盤、チンピラのカツアゲイベント系かよ。
こういうのって、最強のスキルを覚えて、それを試すためのイベントじゃねぇのかよ!
俺まだ剣すら持ってないんだが。
……しょうがない、ここは穏便に話し合いで解決しよう。
「あのぉ、申し訳ないんですけど、俺今お金になるようなものは持っていないんですよ。」
「……そうか。」
おっ?意外と話し合いで解決できるのか?さすがに、二、三発は殴られるの覚悟してたのに。
しかし、話し合いで解決できるのなら、それが一番だ。
俺は尻の汚れをはたきながら、立ち上がる。
「そ、それじゃぁ、俺はこの辺で失礼しま、……えっ?」
俺がその場を離れようとすると、頬に何かがかすめる。
頬に熱と何かが垂れる感覚が伝わる。
俺は頬に触れると、手には真っ赤な血がべったりと付いている。
そして、男の手には血の付いた本物のナイフがあった。
俺はだんだんと斬られたということを認識して、現実感と焦りを感じ始めてくる。
「くっ!いたぁぁぁぁぁぁ!!」
「はははははははは!金がねぇならお前の臓器を売ってやるよ!」
まずい!完全に油断してた。こっちの世界があっちの世界みたいに法がしっかりしているとは限らない。相手が武器を持っていたっておかしくないだろ!
俺はよろけながらも、斬られた頬を押さえる。
男はそんな俺にとどめを刺そうと近づいてくる。
くそっ!とりあえず、ここは逃げるしかない!
俺は咄嗟に足に力を込めて走る。
しかし、それと同時に後ろから俺を追ってくる音が聞こえてくる。
俺は必死に走るが、足音が離れることはなく、むしろだんだんと近づいているようにも思える。
「なっ!?行き止まり!」
差をつけようと、角を曲がった先には、ゴミ箱があるだけで、道はそこで途切れていた。
……というか、ここ転生した場所じゃねぇか。まさかこんなに早くに最初のところに戻って来るなんて。
しかし、後ろからはあの男の足音が聞こえてくる。
……まじか、これ本当にやばくないか?俺の異世界人生こんな早く終わんのかよ。
……また俺は、何も変えられないのかよ。いや、一か八か、あいつが来た瞬間に突っ込んで、武器を奪えれば……。
俺はせめてものの抵抗をしようと構えた、その時だった。
『……い、……おい!そこにいる人間、あなたですよ!』
「……えっ?」