表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/8

一話:リベンジの始まり

 

 突然豪快な音がしたかと思うと、俺は全身水浸しになっていた。

 後ろからは不快な笑い声が聞こえてくる。


 俺は、あぁ、いつものか、と思い目をつむる。

 次の瞬間、横腹につよい衝撃と痛みが走る。

 俺は痛みに悶えながら、その場に倒れる。

 慣れたものでも痛いものは痛い。

 少しは手加減しやがれ……。


 しかし、相手の気はこんなものでは晴れないらしい、倒れた俺はいろんな方向から次々と蹴られ続けた。

 少し離れたところではスマホのシャッターを切る音と女の笑い声が聞こえてくる。

 俺は頭を抱え、その場にうずくまり、一番マシな姿勢を取る。

 俺は歯を食いしばり、俺を蹴ってくる奴らの気が晴れるまで気を失わないように耐える……。


 ******

 ……どのくらい時間がたったんだろう。俺をいじめていた奴らは気が晴れたのか、笑いながらその場を去って行った。

 俺は一人惨めに校舎の裏の壁にもたれ、痛む傷を押える。

 

 ……久しぶりに登校してみたら、この有様だ。結局俺は何も変わることができない。

 俺は右手に握るカッターを見つめる。

 刃先を首に突き立てるが、手が震えるだけでそれ以上進むことはなかった。


 俺はその場にカッターを残し立ち上がる。

 横を向くと、誰もいない理科室の窓に俺の姿が映った。

 顔も身長も体型も普通の俺、神崎与一はいわゆる、いじめられっ子というものだった。


 普段、不登校気味の俺は、担任を含め先生たちからの印象は薄く、いじめる相手としてはちょうどいいらしい。

 出席日数を守るために登校してみれば、昼休みに校舎裏に呼び出され、蹴られ、笑われ、挙句には裸にされた様子を写真に撮り、脅しに使われる。

 

 一度、担任にも相談したことがあるが、証拠がないからと、あまり調べもせず、このことはなかったことにされた。

 後日知った話では、担任はイジメのことを知っているが、めんどくさいことに首を突っ込みたくないらしい。要は、職務放棄の典型的なクソ教師だ。

 はぁ、俺はつくづく運がない。

 

「……くそっ!どいつもこいつも、死にやがれ……。」


 俺は力いっぱい壁を叩くが、壁に傷はつかず、逆に俺の手がジンジンと痛む。

 さっきほど蹴られた横腹にも響いて、腹を抱えてうずくまる。


 ……分かってる。本当に死んでほしいのは、何も変えることのできない俺のほうだ。

 今日だって、あのカッターで、あいつらに刺すことだって、もし無理でも自分を殺して、あいつらに罪を負わせることだってできたはずだった。

 ……でも、俺は何もできなかった。


「……俺は惨めだな、本当に……。」

 

 俺は教室に戻る気もないため、何も言わずに帰ることにした。

 ……足が折れているのだろうか、右足がうまく上がらない。

 俺は腰を曲げ、必死に足を引きずる。

 

 明日は休もう、次の日も、また次の日も……そして、傷が治ったら、また…………。

 …………どうしてこうなったんだろう?俺が弱いからか?俺が不登校の陰キャだからか?

 ……もし、もう一度やり直せるなら、今度は…………。


「……はぁ、俺は何を考えてんだか。漫画やゲームじゃないんだから……。」

 

 そんなこと考えていても、何も変わらない。

 現実は漫画やゲームの主人公のように、上手く物事は進まないのだから。


 今は、家に帰って傷を治療しないとな……。

 ……誰かに見つかったら面倒だし、裏門から学校を出たほうがいいよな。

 

 俺は誰にも見つからないように裏門を抜け、道路を渡った、その時だった。

 突然、その場に何かがぶつかる大きな音が響く。

 

「…………えっ?」


 気が付くと、視界が反転しており、俺は浮遊感に包まれていた。

 ……何が起きた?っていうか、なんか視線がやけに高いような……。

 突然のことで思考がまとまらないでいると、視界の端にトラックが見えた。

 そこでようやく、俺は事故に遭ったことを理解した。

 しかし、それに気づいた瞬間、俺の意識は電源が切れたように途切れた。

 

 ******

 目を開けると、俺は床も天井も分からない真っ黒な空間に浮いていた。

 自身の体に触ることができるので実体はある。

 原理は分からないが、無重力のようなもの、ということで自信を無理矢理でも納得させた。

 今はそんなことより、あの後どうなったのかを知りたい……。


「……まぁ、あの状況じゃあ、流石に助かるのは難しいよな。」


 トラックに轢かれて無事な人間はいない。

 ……ということは、ここは死後の世界なのだろうか?

 その時、俺の中で何かの感情が浮かび上がった気がした。

 ……しかし、俺はこれからどうすればいいのだろうか、そんなことを考えていると、目の前が光り出した。

 

「な、なんだ!?」


 気が付くと、俺の前には二つの光が浮かんでいた。

 光の中にはうっすらと文字が見え、俺は目を凝らして、光に浮かぶ文字を調べる。

 片方は”天国”と書かれていた。そして……。

 

「もう片方は……。”転生(てんせい)”。」


 なんでいきなり文字が現れたのかは分からないが、これがどういうことかは理解することはできた。

 これは選択肢なのだろう。

 きっと、”天国”を選べば、そういったところに行けるのだろう。その場合、”転生”とはそういうことだろう。

 ……元の世界か、別の世界かは、分からないが。


 ……正直、もうあんな目に遭うのはもうごめんだ。あんな目に遭うぐらいだったら、”天国”で安全に過ごせるかもしれないのに賭けた方がいいのだろう。

 俺は光に手を伸ばす。


「……でも、ここで諦めたら俺は絶対に後悔する。俺は、自分を変える!!」


 俺は”転生”と書かれた光をつかむ。すると、俺の視界は閃光に包まれた。

 光に包まれた俺は、不思議な感覚を感じながら、目を閉じた……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ