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新しい名前
模擬戦の敗北から数日。
秋は気づいていた。ロイドが以前とは違う――いや、「変わり始めている」ことに。
「秋。今日は授業が終わったら、一緒に寄り道をしてみたい」
銀髪を揺らしながら、赤い瞳で真っ直ぐに告げるロイド。
任務以外の行動を望むなんて、あり得ないはずだった。
秋は少しだけ迷ったが、頷いた。
そして夕暮れの街を歩きながら、不意に口にした。
「……ロイドって、呼ぶとちょっと機械っぽいんだよね」
「私はアンドロイドだ。正確にはそう呼ぶのが正しい」
「でもさ、今の君は“ただのアンドロイド”じゃない」
秋は夕焼けに照らされた彼女を見上げた。
その姿は、まるで人間の女性そのものだった。
「だから、君に新しい名前をつけたい。
――“レディ”。どうかな?」
一瞬、沈黙が落ちる。
やがてロイドの瞳が柔らかく揺れ、ゆっくりと微笑んだ。
「……レディ。私の名前……」
その声には、今までなかった温もりがあった。
秋は確信する。
この日を境に、ロイド――いや、“レディ”は、もう「プログラムされた存在」ではなくなるのだと。
だが、その変化は同時に、学院の監視網に触れる危うさを孕んでいた――。




