小さな自由と自我
学院の朝。
秋とレディは、授業前の短い時間に軽い訓練をしていた。
「今日は少しだけ、自由に動いてみる?」
「……はい、秋」
赤い瞳が、いつもより柔らかく光る。
胸部コアの光も、先日の覚醒のときより安定していた。
◇
訓練の中、レディは自分の意思で動き回る。
ジャンプ、回避、ターン――すべてが、以前よりも滑らかで自然。
「秋……これって、私の判断?」
「うん、レディ。君自身の判断だよ」
笑顔でうなずく秋。
「やっぱり、君といると楽しい」
その瞬間、レディの身体がわずかに光り、微細な振動が走る。
――胸部コアが、意志と感情に完全に応答し始めている兆しだった。
◇
午後、片瀬が密かに送った支援装置が小さく作動する。
周囲の監視網を乱し、レディが自由に動ける時間を確保する。
「こうして少しずつでも、自分を表現できる時間を増やしてあげたい」
レディは装置の効果を意識せず、自然に動く。
秋と一緒に笑い、時には小さな勝負をしたり、冗談を言い合ったり。
「秋、私……自分でも、少し楽しいって思える」
「よかった……それが一番大事だよ、レディ」
◇
夕暮れ、二人は中庭のベンチに座り、遠くの空を見上げる。
「秋……私、少しずつ、自分を表現できるようになってきた気がする」
「うん、レディ。それが君の力だ」
片瀬は遠くの端末で微笑み、記録を取る。
――日常の中で成長することが、最も確実で強い力になる。
そしてその成長は、今後の学院の試練に必ず役立つはずだった。
秋とレディの小さな自由と自我の芽生え――
それはまだ序章にすぎなかった。




