理解者
呼び出されたのは、学院の研究棟。
白い壁に囲まれた無機質な廊下を歩きながら、秋は胸がざわついて仕方がなかった。
(まさか……レディを取り上げられたりしないよね……)
重い扉をくぐると、中には一人の女性が待っていた。
白衣を身にまとい、肩まで伸びた黒髪を後ろでまとめた研究員。名札には――片瀬 美智と書かれている。
「来てくれてありがとう、一条秋さん。そして……ロイド-02、いえ、レディ」
彼女の声は思いのほか柔らかかった。
「……あなたは?」
レディが警戒を解かぬまま尋ねると、片瀬は微笑んで言った。
「私は研究員の片瀬。あなたの存在を“危険”とだけ見ている人間じゃないわ」
秋は思わず身を乗り出す。
「え……じゃあ、レディを壊したり、制御したりするために呼んだんじゃ……?」
「そんなこと、私にはできない」片瀬は静かに首を振った。
そしてスクリーンに映し出されたのは、過去の記録映像。
無数のアンドロイドが起動と同時に暴走し、制御不能に陥る姿。
しかしその中で、ひとりだけ異なる反応を示した存在がいた。
――それがロイド-02、つまりレディ。
「彼女は特別なの。制御できないわけじゃない。人と心を通わせることで、未来を救う力に変わる……私はそう信じてる」
秋の胸が熱くなる。
レディの赤い瞳も、わずかに揺れていた。
「だから、私はあなたたちを裏から支える。表立っては動けないけど……。どうか、彼女を信じ続けて」
片瀬の声は切実だった。
秋は強く頷く。
「……はい! 私、絶対にレディを信じます!」
その瞬間、研究棟の奥で赤い警報灯が点滅した。
片瀬の表情が凍りつく。
「……まずいわ。ここにも“監視の目”が入ってきた。早く戻って!」
◇
秋とレディが研究棟を後にする背中を、片瀬は見送った。
心の中でひとり呟く。
――彼女たちこそが、この世界の未来を変える鍵になる。




