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六ヶ月ぶりの連載です!
「ごほっ、ごほっ」
母の部屋から聞こえる咳き込んだ声。
「お母さん…」
心配だが、感染の可能性があるからと、近寄らせてもらえない。
「ハンナ、お母さんの病気を治す方法が見つかったぞ!!」
母の部屋の近くで沈んだ顔でうずくまる私ところへお父さんが駆け寄ってきた。
「俺らは今から異世界に行く」
当時、祖父がまだ王として即位していて、王太子だった父は、第一王位継承権を半ば無理やり自分の弟に押し付けた。
そして準備が整うとわたしが15歳の時、私たち三人と、私の姉のような、親友のような存在である獣人のナナは、地球、と言う異世界へ向かった。
◆◇◆
幼い頃の夢を見た。毎年開かれる隣の帝国のパーティーに家族で行った時の夢だった。
パーティーをこっそり抜け出した私は、パーティー会場の裏庭でうずくまって泣いていた男の子と仲良くなった。
顔はぼんやりとしか覚えてないけど、整った顔立ちをしていた記憶がある。
「君は何してるの?」
男の子は恐る恐る私に尋ねた。
「私?パーティー嫌で抜け出してきちゃった」
えへへ、と笑うと、男の子は自嘲気味に
「君はいいね。自由そうだ」
という。能天気に生きてきた幼い私には同い年くらいの彼が何をそんなに背負ってるのか、全く見当の差がつかなかった。
「当たり前じゃん!怒られても何度も挫けずにこっそり抜け出して、自由を勝ち取ってるんだから」
胸を張って得意げにいう。
「自分で勝ち取る、か、そうだよね」
蹲っていた男の子はすくっと立ち上がる。
「そうだよ、ほら、涙拭きなよ、泣いてもいいけど一回泣いたらその分笑わなきゃ!」
男の子は花が咲いたように笑った。とても綺麗だった。その後たくさんお話をした。
しばらくすると
「ハンナー!!」
と、父の声が聞こえてきた。
「ごめん!怒られてくる!ばいばい!またね」
「また会える?」
「会えるよ、だってわたしが会いたいもん。来年もここで会おうね」
そういうと、また少年が花のように笑った
それから毎年開かれる帝国のパーティーに行くたびにそこで少年と会った。最後に会ったのは私が12歳の時、彼はその年以降、裏庭に来なくなった。
◆◇◆
3年後、移住して2年ですっかり元気になった母と一緒に四人で暮らしていた。
元の世界に戻る時間も近づいてきていた。
「はなああ、遅刻するよおお!」
すっかり元気になった母の声で目が覚める、眠い目をこすりながら時計を見る、
「んーー、え?やば遅刻する」
ドタドタと身支度をする。朝の身支度の早さはJ Kの中ならギネス世界記録に入れる自信がある。
「じゃぁ、お母さん、いってきまーす、ナナも行ってくるねー」
母と友達に声をかける
「まったく、卒業したら国に戻るんだから、もう少しお淑やかさを身につけて欲しいわ」
「わんわん!」
呆れながら、私を眺める母と、母に同調するナナ。
「帰ったらそんときはそん時だよ、いってきまーす!」
「全くその行き当たりばったりは、誰に似たんやら、いってらっしゃい!」
確実に私の行き当たりばったりは両親に似た。お母さんはまるで自分は計画性があるみたいな物言いだが、そんなわけがなかろう。
この一年間で、朝4:00とかに起こされてネズミーランドに、急遽行くありがた迷惑なサプライズをされたことか。
しかも、計画性があったサプライズなわけではなく、両親が私が寝た後に急に決めたことだ。
全力でチャリを漕ぎ、なんとなくぼーっと授業を受け、友達とわちゃわちゃ喋り、コンビニで寄り道をしてアイスを買い、家に帰ると、
「ごめん、明日帰るわ。卒業式出れないけどいい?」
母が申し訳なさそうに聞いてきた。
「うん、別にいいけど急にどうしたの?朝、私に計画性のなさをといてた人とは思えない言葉だけど、お母さん」
「ごめんなぁ、華。隣のアウル帝国でちょっとしたクーデターが起きた、と報告が入ってな。元々悪政してたから、こちらとしてはいいことなんだが、グレイから問題が起きたと連絡が入ってな、すぐに、帰ってこいと言われてしまったんだよ」
グレイとは父の弟、すなわち私の叔父である。
「なんで?おじさんどうかしたの?」
「うーん、多分もう疲れたんじゃない?あいつ飽き性だし。旅行したいんだろ、子供も2人とも大きくなったしな」
私たちこの一年ほぼ遊んでたしね。
「なるほどね」
一度も会ったことのないいとこはもう、7歳と5歳らしい。
自分で言うのもなんだが、なかなか我が家は美形揃い。もちろんイケメンの父と同じ血を引くおじさんもイケメンだし、おじさんの奥さんは、正直笑顔で人が殺せるくらい美しい。きっと、いとこ2人も超美形だろう。
「ごめんなぁ、卒業式はいかしてやりたかったんだがな」
「別にいいよ。そんなに思い入れないし」
そもそも高校卒業したら元の世界に戻ることは決定していたから、後腐れがないように、深い関係は築いてきていない。特に困ったことはない。
「よし、そうと決まれば、準備するわよぉ」
楽観的な母は引っ越しが1日で終わると思ってる。
「こっちに来る時は着の身着のまま来たけど、帰る時はどうするの?」
転移した当時は母は病気だったし、私たちもそんな母が心配であまり食事ができていなかったため、魔力不足だった。だから、自分達の身以外は何も運ぶことができなかったのだが、今はみんな本調子。
何か運んだりするのかな?と思っていると、
「あれ?華蓮から聞いてなかったのか?」
「私はてっきり圭人から聞いてるのかと…」
両親は、お互い顔を見合わせ、あらら、と笑う
あらら、じゃないのよ。まったく、
「お母さん?お父さん?いつも言ってるけど、報・連・相は、しっかりね???」
「ごめんなー」
「ごめんねー」
という、あからさまに反省していない言葉が返ってきた。はぁ…。
「結局どうやって帰るの?」
「あぁ、このまま家ごとあっちに移動させる」
「それ騒動が起きない?」
「俺たちがいなくなった後だからいいかなって!」
「そんなに騒動も大きくわないわよ。華は心配しすぎよ」
まったく、怪奇現象の域に入っちゃうよ。まぁ、「こっちの」世界だと。「あっちの」世界だったら家が一見急に消えたり急に出現したりはそんなに珍しいことじゃないだけでさ…。
もう両親の中では決定事項なので仕方ない。
ナナが普段使ってた遊び道具とかを家の外から回収して家の中に入れる。家の外にあるものはもしかしたら取り残される可能性があるということだった。
そして、翌朝。机の上に特大ペヤングくらいの大きさの石にみんなで手を当てている。
側から見たらすごいシュールな光景だろうな。体育祭前の円陣じゃあるまいし…。
「よし、じゃぁいくぞ、みんなせーので力込めろよ、ってナナ何逃げようとしたんだ」
こっそり気配を消してタンスの下に隠れてるナナに父が言う。
「ダメじゃないナナ、全員平等に疲れなきゃよ」
「くぅーん」
耳を垂れ悲しそうなナナが机に登り石に手を当てる。
「気を取り直していくぞ。せーの、」
「「「モーリ王国へ」」」 「わんわん!」
キラーんと眩しく光った後、少し前まで森家と表札がかかっていた家はその場から跡形もなく消えた。地球では、原因は誰にもわからなかった。
◆◇◆
「よし、成功だ。家から出るぞ」
ゾロゾロと全員が家から出る。
「はぁかえってきたな」
「ねぇ久々だわ」
「本当だねぇ」
「そもそも私は久々の直立歩行なので目線が高くてびっくりします」
あはははは、とみんなで笑う。ナナと呼ばれていた犬は耳の生えた女性の獣人へと戻っていた。
王国から日本へ行くときは大変だったけど戻ってくるのは簡単なんだな、としみじみと思っていると、
美形の夫婦とその子供、そして、大量の兵士がこっちに歩いてきた。
私たちは、それを目にして、全員ざっと足を引き、国王への敬意を表す姿勢を取る。
父が代表して
「国王、グレイ様におかれましては、ご機嫌麗しく。此度は私たち家族の帰還を許して頂けたこと、城内に住む場所まで頂けたこと、誠に御礼申し上げます」
と言うと、グレイ、まぁ、すなわち私の叔父なのだが、は、苦虫を潰したような顔をしてポリポリ頭をかきながら、
「やぁ、兄さん、久しぶりだね。義姉さんは、病気の方はどうだい?そしてそんなにかしこまった言い方しないでよ。まるで兄さんより僕の方が立場が上みたいじゃないか」
「ご心配ありがとうございます。ご迷惑をおかけしましたが、不祥カレン、病を完治し、戻ってまいりました」
お母さんは、ニヤニヤしながらあえて堅苦しい言葉を選ぶ。
「実際そうだろ?グレイの方が今は偉いんだからさ」
父もニヤニヤしながら言う。
「やだよ。僕は義姉さんが病を治して、兄さん一家がこっちに帰ってくるまでの王代理なんだから。兄さんの方が立場が下みたいになったら王位譲れないでしょ?」
父もそれが狙いなんだろうな。本当ならおじさんは、王様になりたくなかっただろうしね。
おじさんも、のんびりしてるタイプだったし旅行好きだからきっと王様いやなんだろうなぁ。
「まぁ、兄さん、次の話を聞いて承諾してくれたら僕がこのまま王を続けるよ。でも、兄さんが一回でもこの話を断るって言った時点で兄さんは王様ね」
「ん?なんだ?」
「ハンナに、アウル帝国の皇帝に嫁いで欲しいんだ」
「断る。まだ嫁がせるような歳じゃない。そもそも、うちの国の王族は特殊能力持ちだ。おいそれと、血を外に出すことは許されたことじゃねぇ。ましてや、なんでハンナが嫁に行かなきゃいけなぁんだ?あ?」
途中から、お父さんがもはやヤクザである。
「向こうの世界がどうだったかは知らないけど、こっちの世界では十分ハンナは嫁ぐ年だよ」
なるほどね。この世界において多大なる影響を持つアウル帝国を味方につけられるというのは、小国からしたら願ったり叶ったり。というか、そもそも、大国からの申し出をこんな小国の王女が断れるわけがない。
「一応向こうは強制はしないとか言ってるけど、」
「じゃぁ、断ればいいじゃないか」
「断れるわけないだろ!強制しないとか言いつつ絶対強制だよ」
モーリ王国王家の血筋は特別な能力を基本二一つから二つ持つ。一つは王家の血筋に必ず現れる心読みの力。そして、もう一つは現れる人も現れない人もいるし、能力も人それぞれだ。そして、二つ目の能力がある場合はその能力は結婚相手とも共有される。例えば、お父さんなら『鑑定』である。
まぁ、日本でお母さんが鑑定していたことといえば野菜の鮮度とかだったけどね。
私の場合は『念話』動物とかだと双方向で話せるんだけど何故か人間には一方通行という、便利とは言い切れない代物だ。
心読みは、そのまま人の心を読む力だ。ただ、力の強弱はあるようで、お父さんは人に触れないと心が読めないし、私もその人の心の声を聞きたいと強く願わない限り心の声は聞こえない。
能力が一つ、すなわち心読みしかないと、めちゃめちゃ心読みの力が強くなっちゃうから大変らしい。
その後の父と叔父の兄弟喧嘩が長引いているのを横目に、初めましてのいとこや、久々の義理の叔母、メグさんと話す。
いとこが可愛すぎてデレデレしていると、話し合いが終わったであろう父と叔父が帰ってきた。
どうやら、アウル帝国に嫁ぐ、という話の最終決定権は私にあるらしい。別に恋愛結婚に夢を見ていたわけでもないからなぁ、
「いいんじゃない?私、いくよ?アウラ帝国に」
「はんなあああ、いいんだよ?行かなくて、気を使わなくて!!」
「あ、お父さんが王様になったら外交とか出会いやすくなるかもなぁ…」
父が目を開いた。おそらく彼は私が輿入れしたら王様になるな。少なくともおじさんが1番嫌う公式の外国訪問を進んで代わりに受け入れるようになるだろう。
お読みいただきありがとうございました!
少しでも面白いと思っていただけましたら、☆を★にしていただけると作者が小躍りします笑
また次話でお会いできたら嬉しいです!