1
ルルルーン ルルルーン
電話が鳴っている。
ガチャ
送受機が取られ、門馬一央が声を発する。
「はい、こちら国家広域安全対策室ですが?」
「あなたは門馬さんですね」
「はい、そうですが、わたしに何か?」
「あなたに直接な恨みはありませんが、こちらの安全のために、あなたの奥様を誘拐しました。もちろん危害は加えておりません。奥様に関しては、牧場で飼われる羊たちのように丁重に扱っております。それがまず一点」
「なんだって、おい。いま何て言ったんだ?」
「たったいま、あなたに聞こえた通りですよ。ですから繰り返しません。そして二点目。いまから三日以内に日本国内で大規模な人的破壊活動が行われます。その破壊活動が行なわれた後の世界はきっと、いまよりずっと静かになっていることでしょう。その二点を門馬さんにお伝えしたかったのです」
門馬は広域安全対策室に掛かってきた電話には必ず仕掛けられる逆探知の解析結果が映し出された壁面の大スクリーンに素早く目をやる。同時に同室の数名がそれをチェックしていることを確認する。だが――
「無駄ですよ。あなた方のお仲間がここに現れるずっと前に、わたしは行方を晦ましています。だから通話の逆探知は意味がありません」
そのときすでに会話の内容は対策室に据え置かれた複数のヘッドフォンから対策室員たちに流れている。スピーカーが使われないのは、電話をかけてきた相手にそれが漏れ聞こえる場合があるという配慮からだ。対策室員たちの表情に緊張が走る。門馬に話をもっと聞き出せと身振り手振りで伝えている。
「誰だか知らんが、何故我々にそんなことを報せた」と門馬一央が電話相手を威圧するように問いかける。「昔の義賊の真似事か?」
それに答えて相手が言う。
「実はわたしたちの仲間の数名がその昔あなたのお父上にお世話になったことがあるのですよ。だから最初はフェアプレーとしたのです。以上」
ガチャン
それだけが門馬に告げられて、電話が向こうから一方的に切られる。国家広域安全対策室員たちの顔に一様に面食らったような表情が浮かんでは消える。
だがそれが、この先の展開を暗示すると知るものは、まだ誰もいない。