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5話 住む場所と生活

どれだけの時間こうしていたのだろか。いつの間にか空は青から赤へと変わり始めていた。

俺は泣き疲れ、いつの間にかそのまま寝てしまっていた。

「あ、起きた?」

「うん。ごめん、もう大丈夫。ありがとうリサ。」

「いいよいいよこれぐらい。」

やっぱりリサは優しい。俺の隣りにいるのがもったいないくらいに。

「やっぱりあのとき助けてくれたのはリサだったんだ。」

「ごめんね。隠しているつもりはなかったんだけど。」

「いいよ。それより助けてくれてありがとう。」

お礼を受け取ったリサは驚いたような嬉しさに満ち溢れているような表情をしていた。

「どういたしまして。でもそろそろ雨露を凌ぐところを探さないとね。」

確かにその通りだった。もうすぐ夜が来る。そのまま雨でも降ろうもんなら確実に凍え死ぬ。

「そうだけど、この辺にそんなところある?」

辺りは文字通り荒野の大地と化している。そんなところで雨露を凌ぐ場所なんてそうそうあるわけがない。

「んー確かにそうだね。」

リサも途方に暮れていた。

「あ!一つだけいいところあるかも。」


リサの案内の元、ある場所にたどり着いた。

「確かにここなら雨露を凌げるな。」

陸を縦断した川の上に作られた陸と陸を繋ぐ橋の下。橋自体は恐らく昨日の空襲のせいで真ん中あたりがポッカリと崩れ落ちて橋としての機能は完全に失っていた。だが、雨露を凌ぐには問題なかった。

「でもよくこんな場所知ってたね。」

「これでも地理には結構詳しいからね。」

橋の下は少し雑草が生い茂っていたが、住む分には問題ない程度だった。それよりも食料の方が問題だった。

「後は食料だな。ただ、もう家もないしどうやって調達しようか。」

「ねえねえエント君、あの川にほぼ沈んでるのって・・・」

リサが指差した方を見たら川の中から水面に四角い大きな物が沈んでいた。

「あれは・・・電車?」

「ワンチャンあの中に食料とかってあるんじゃない!?」

「確かに。行ってみるか。」


電車の大方が水に沈んでしまっているから期待はできないかもしれないけど、この世界に比べたらまだ期待はあるように思えた。

そもそも川の中への電車にまでなんて行けるかという疑問もあったけど水面から露出していたところまでは案外浅瀬が続いてそこまで無理な話ではなかった。

そして奇跡的に電車の入口が水面から露出していて電車の中へ入ることができた。

「あ!エント君!これ食べれそうじゃない?」

「いけそうだな。他にもあるか探してみよ。」

リサが持ってきたのは駅弁だった。中身はまだ新しく食料としての質はこれでもかというほど優秀だった。ただ、量が少なかった。

電車内を隈なく探したが結局見つかったのは駅弁が九つ。それだけだった。このままでは一日一つずつ食べたとして二人いるから4日と少しで食料が尽きてしまうだろう。


「とりあえずいったん外に出ようか。あたりも暗くなっちゃったし。」 

いつの間にか辺りは暗くなり夜を迎えていた。昨日とは真逆の静かな夜だ。

「そうだね。」

これから先、ご飯があるかという心配はずっとあるが、この暗さではこれ以上の探索はできない。だとしたら今からすることは体力温存のために寝ることくらいだ。

駅弁を持って来た道を戻り橋の下へと向かう。 


「暗いな。」

「暗いね。」

橋の下に着いた第一声がそれだった。

昨日の空襲で施設や設備は壊滅し、本来あるはずの街灯も頼りなくただそこに暗闇と同化して突っ立っているだけだった。最低限の住む場所と最低限の食料を手にしたが明かりがないということがこれほどまで苦痛とは知らなかった。

「あ、そういえば電車の中でちょうどいい物拾ったんだ。」

そう言ってリサは俺に拾ったものを見せつけていると思うけど、この暗闇の中ではリサが拾った物はおろかリサがどこにいるかさえ曖昧だった。

「全く見えないんだけど。」

「あ、ごめんごめん。そうだよね。えーと、ここをこうして、えい!」

カチッという音とともに周辺が淡く照らされた。リサが拾ったのはライターだった。

「綺麗。」

「役に立つかなって思って拾っておいたんだ。私お手柄?」

「もちろんだよ。これなら小枝とか拾ってきて焚き火を作れるぞ。」

「エント君それ名案!ちょっと待ってて今拾ってくるから。」

「あ、ちょっと待って。なら俺・・・も。」

リサは俺が言い終わるより先に走って小枝を探しに行ってしまった。

「こんな暗闇の中だったら小枝なんて見えなくないか?」

とは言ったもののリサが拾ってきてくれたことを考え、俺も着火剤になりそうな葉や草を探し始めた。


「ただいまーエント君。」

夜とは真逆の明るい声を放ちながらリサが帰ってきた。

「おかえり。小枝はあった?」

「うん!ほら。」

「だから暗闇で見えないって。」

「あ、そっか。えーととりあえずいっぱい集めてきたよ。」

「ありがと。なら、焚き火を作ろうか。」


そして暗闇の中での焚き火制作が始まった。

俺はこの暗闇で全く見えないのでなんか見えてそうなリサに作ってもらうことにした。

「小枝を円になるように置いてあげて、その真ん中に枯れ葉とかを置いて。」

「こんな感じかな。」

「あとはさっき置いた枯れ葉にライターで火をつければ完成のはず。」

「それじゃあ行くよ。えい!」


可愛い声とともにライターの先端から淡い火が生まれ、その火が枯れ葉へと引火していく。枯れ葉へと引火した火がさらに小枝に燃え移り火が大きくなっていく。

「できた!」

「温かい。ってかリサすごい量集めてきてんじゃん。」

焚き火により周囲が見渡せるようになってやっと気付いた。

「えへへ、すごいでしょ。」

「これなら今日の夜は大丈夫そうだな。それじゃあご飯食べようか。」

「え、いいの?」

「なんで?」

「だってご飯たったこれだけしかないんだよ。もう今日は寝るだけだから食べなくてもよくない?」

リサが不安そうな声で聞いてきた。

「でも今日リサ何も食べてなくない?」

「それは・・・そうだけど。私のことはいいよ。」

「いやよくないよ。リサがご飯のことを気にするなら俺はいいからリサだけでも食べて。」

「それはだめ。私は本当にいらないから。エントだけ食べて。」

話は平行線のまま少しの間続いた。

なぜリサは俺にだけご飯を与えようとしているかは俺のちっぽけな頭じゃわからなかった。


「じゃあもう二人で一つの駅弁を食べるってのでどうだ?」

俺が出した妥協案。二人とも食べれる上で駅弁も一つしか消費しない。これなら文句なしだろう。

「それなら、うん。わかった。」

リサも渋々納得してくれた。

「じゃあ、早速食べよ。お腹へってるでしょ。」

そして二人で一つの駅弁を食べ始めた。


「これは・・・お肉か。」

駅弁の蓋を開けた瞬間入り込んできたのは白米の上に絨毯のように敷かれた肉だった。最後に食べたのはいつだっただろうか。もはや一種の高級品にまで成り上がっている気がする。

「美味しそうだね。私二枚もらうね。」

入っていた肉の枚数は五枚。まったく誰かと分けて食べることを想定していないのか。いや、本来ならする必要もないのか。


結局リサは自分の分を少なくして俺に多く食べさせようとしていた。


「じゃあ俺も食べるか。」

箸なんてものはない。駅弁に割り箸が付いていればよかったが、あいにくそういうのはなかった。仕方がないので素手で食べることにした。

「うまい。」

こんなに美味しいご飯を食べたのはいつぶりだろか。口が舌が驚いている。つい夢中になって食べ進めてしまった。

「美味しそうに食べるね、エント君は。」

「だって実際美味しいんだもん。リサもそう思うでしょ?」

「うん。そうだね。」

そのときのリサはどこか遠い目をしていたような気がした。


ご飯も食べ終わり。遂に寝るだけとなった。あたりまえだが布団や毛布なんてあるわけもなく少し雑草が生い茂っているところがそれの代わりだった。寝心地は言うまでもないだろう。雨露を凌げる最低限の立地だ。


「それじゃあ、おやすみリサ。」

「うん、おやすみエント君。」

「前から思ってたんだけどさ。そのエント君ってやめない?」

「え?」

「なんか若干距離がある感じがして嫌なんだよね。」

「じゃあなんて呼べば。」

「普通にエントでいいよ。俺もリサのことリサって呼ぶし。」

「わかった。じゃあ改めて。おやすみ、エント。」

「うん。おやすみ、リサ。」


エントが眠った後川の方に歩いていったリサのことは誰も知る由もなかった。

ごめんね。本当にごめんなさい。私にもっと勇気があればこんな無駄なことしなくて済んだかもしれないのに。これでまた最悪な未来にたどり着いてしまったら私は今度こそ・・・。

そろそろ戻ろう。エント君・・・いや、エントが起きるまで待っていよう。

最後にもう一度、本当にごめんなさい。


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