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4話 エントの真実

夜の騒がしさとは真逆の静寂に包まれた昼の荒野の大地を二人の少年少女が歩いていた。二人の間に会話はなく手を繋いだまま、ただただ重たい雰囲気がその場を支配していた。


行く場所は言われてなかったが大方の想像はついている。きっと彼女の家があったところだろう。そこで最後に両親や兄弟とのお別れをする。それが『弔いに』という意味だろう。心優しいリサのことだから『次は君のところへ』なんて言ってくると思うけどあいにく俺の両親や兄弟はもう死んでるし、今更弔う義理もその感情も残ってない。リサにはなんて言えばいいのかな。


「着いたよ。」

数分歩いた後、リサの口がやっと開いた。

「ここは・・・」

恐らく家があった場所なのだろう。ただ、爆弾が家を貫き爆発したのか、もはや家とは呼べない瓦礫の山だった。だけどわかる。この場所、この感じ、この道。ここは・・・

「そう、エント君が最後にいた場所。」

「なんで・・・この場所に?」

俺は今変な顔をしていると思う。不思議と疑問と違和感とを覚えたようなそんな顔。到底人に見せれるもんじゃない。

「君の家なんでしょ。ここ。ごめんなさい。私が見た時にはエント君しかいなくて。君しか救えなかった。そのあともいろいろ探したのだけど・・・ここらへん一帯の生存者はゼr」

「違う。」

俺はリサの話を遮った。

「・・・確かに認めたくない気持ちもわk」

「違う、そうじゃない。」

俺はまたリサの話を遮り、話し始めた。

「俺の両親はとっくに死んでるし、この家も俺の家なんかじゃない。」

俺の言葉を聞いてリサは驚いたような顔をしていた。

「・・・じゃあなんでエント君はこの家に?」

「・・・!」

俺が一番恐れていた質問が飛んできた。本当のことを言って引かれないだろうか。罪人と一緒にはいられないと言ってどこかに消えてしまわないだろうか。それならどうにか適当に誤魔化した方がいいのでは。

そんなことを考えていたのに、

「俺は・・・この家で盗みをしていたんだ。」

気づけば俺の口は勝手に真実を話し出していた。

「俺はもう疾うの昔に家族なんていうものは失って一人で生きてきた。」

そうだ。俺はずっと一人だったんだ。リサがいなくなっても前と同じに戻るだけ。ただそれだけの事。いつも通りの生活に戻るだけ。


そこからは立っている気力もなくなり座って話していた。

孤独な俺に対しての周りの目。政府の対応。俺が生きたほんの僅かな時の全てを話した。


ほとんどの家がなくなっているから食料調達は前よりも難しくなったかな。


「だから俺はみんなが空襲で逃げた後の家を狙って食べ物とかを探していたんだ。もちろん爆弾が近くに落ちたらそのまま死ぬ。一か八かだけどもうこれしか生きる道が、んぐっ。」

話の途中でいきなりリサに抱き着かれた。

「ん、なに」


「よく、頑張ったね。」

「え・・・」

「辛かったよね。大変だったよね。こんな理不尽な世の中を一人で耐え抜いてきたんだね。」

気づけばリサの目からは涙が溢れていた。

「えらいよ、エント君。生きててえらい。」

それは俺が一番求めていた言葉だ。俺がしてきたことを肯定してくれる。そんな言葉。

いつの間にか俺の目も涙が溢れていた。

「そうだよ。辛かったんだよ。何もかもが理不尽で不条理で。」

「大丈夫だよ。これからは私も一緒だから。」

「・・・うん。」

リサが抱き着いた手を離そうとしたけど俺はそのままリサを離さなかった。

「エント君?」

「もうちょっと、このままでいさせて。」

「・・・いいよ。」

その声は今まで感じた何よりも温かかった。


俺はその日初めて声を荒げて泣いた。

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