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3話 名付けと弔い

「お待たせー。ごめんねちょっと時間かかっちゃった。」

少女の声で目が覚めた。気づけば太陽がかなり上っていた。

少女の持ってきた2つの小さなお椀には少量のお米が盛ってあった。多分これで2人分なのだろう。

「私お腹減ってないから両方食べていいよ。」

「え・・・あ・・・」

俺が返答に困っていると片方のお椀にお米をまとめて俺に渡してきた。本当に食べる気がないのだろう。

「はい、どうぞ。」

「い・・・いただきます。」

俺は今、多分生まれて初めてご飯を食べるときに『いただきます』と言ったと思う。まぁ言った相手はお米を作った人ではなくてこの名も知らない少女に向けてだけどね。

覚束無い手つきでご飯を食べている最中少女が話しかけてきた。

「そういえば君、名前なんて言うの?」

「ぅえんお。」

口にお米が残ったまま言ったせいでほとんど聞き取れないような発音になってしまった。

「ん?なんて?お姉さんよく聞き取れなかったからもう一回言ってくれる?」

ほら言わんこっちゃない。前の反省を活かしてゴクッとお米を飲み込んでから話し始める。

「エント。あと年は多分同じくらいだから勝手にお姉さんにならないで。」

ご飯を食べれて、名も知らない少女に生意気な口を利くくらいには心身ともに回復していた。

見た感じ俺と同じくらいの年だと思うけどお姉さんの方がしっくりくるような気がした。

「あと、そっちはなんて名前なの?」

「私?私はヒt・・・ごめん。名前、忘れちゃった。」

そんなことあるか?とも思ったけど、実際今自分が生きている事自体不思議なことだし、まぁありうるかと謎かその時は納得してしまった。

「だから君が私に名前付けてよ。」

「え?」

「だ・か・ら、君が私に名前付けて。」

「俺でいいのか?」

「だって私にはもう君以外誰もいないから。」

多分同じような感じなのだろう、どっかの戦争で親も兄弟もなくして独り身となった俺と。

俺にこんなに優しくそして姉のようにしているのは弟でもいたのだろう。


どっかの偉い人も言ってたな。助け合いが大事だって。


「変な名前でも文句言わないでね。」

「うん!もちろん!」

少女は名前を付けてくれるとわかり満面の笑みを浮かべていた。

少し考え、再び口を開く。

「じゃあ、リサ。」

「リサ?」

「うん、リサ。」

「リサ・・・リサ、リサ、リサ。」

もらった名前を噛みしめるように少女・・・じゃないな。リサは何度も自分の名前を呟いていた。

「ありがとうね!エント君。名前をつけてくれて。」

「こっちもご飯を持ってきてくれてありがとう。」

お互いにお礼を言い合ったあと二人で笑っていた。

こんな状況下の中でも笑い合うことができたのだな。


その後リサが思い出したかのような口ぶりで話し始めた。

「そういえば、怪我とかしてない?体調は大丈夫?」

「うん、たぶん大丈夫。」

「そっかならよかった。」

そっとリサは俺に手を差し伸べてきた。

「行こう?」

俺はリサの手をとって質問を投げ返した。

「どこに?」

「弔いに。」

そうリサはポツリと呟いた。

今まであった明るい声とは裏腹に。どこか少し悲しげな声で。


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