1話 エントの最期
今のところ投稿されているのは全体の『四分の一』ほどです。
『』内は随時更新していきますので目安感覚程度に思っていて下さい。
「カンカンカンカン!」
暗闇に包まれた町全体に鐘の音だけが嫌な響きで鳴り響いた。この音を聞くのは何回目だろうか。何回鳴っても慣れはしない。だってこの鐘の音の意味は。
「空襲だーー!!みんな逃げろーー!!!」
町は一気に騒がしくなった。子どもと一緒に家から飛び出す母親。泣き喚く赤ちゃん。大きな荷物を持って逃げようとする者。様々だった。
そんな中俺、エントは
「はぁはぁ、食べ物、飲み水、何でもいい。空腹を満たせるなら。」
がら空きとなった家で空を舞う鋼鉄の鳥の羽音など気にせず食料を求めていた。いや、違うな。そんな綺麗なものじゃない。端的に言えば盗みをしていた。
分かっている。これがいけないことということぐらい。だけどこうするしか生きる道が残されていないんだ。
親も兄弟も何もかも失った俺には周りの人はおろか政府の目すら冷たかった。
ー数日前ー
「あの子親も兄弟もいないんでしょ?可哀想に」
「でも私たちと同じだけ配給もらっているんでしょ?まったく、こっちの身にもなってほしいわ。」
「いっそあの家族全部滅べばよかったのよ。」
俺が道を歩くといつもこうだ。罵詈雑言は当たり前。今日は殴られないだけましかな。
「聞け!皆の衆!」
町の中心で台に乗った軍服姿の男性が冬眠した熊でも起きるような大声で話し始めた。
「我が国の戦況は極めて良好である。最新の戦果では占領されていた領土を取り戻し、そこを反撃への足掛かりとするとこが決定された。そしてなにより敵国の最新兵器を打破することに成功した。しかし、そのような良好な状態を保つには物資の戦線への供給が必要不可欠である。そこで我々は配給制度の見直しを検討し新たな配給制度を制定した。」
気づけば周りは人だかりになっていた。
「1つ。家族制の配給制とし、人数によって配給量を決定する。なお、家族がいないもの、独り身の者への配給は零とする。」
「1つ。現在行わ る配 では、米がおもーー」
俺の記憶はそこで消えていた。恐らくショックで気でも失ったんだろう。それもそうだ。いきなり明日から「ごはん無しね。」なんて耐えられるわけがない。生きる術を失ったも同然だ。
本当なら抗議すべきだったんだろうな、こんな制度。でもなぜかはわからない。わからないけど逆らったらそこで何もかもが終わってしまう、そんな予感がしていた。
落下物の音が大きくなってきた。
「今のは走馬灯なのか。まぁ確かに俺の人生で良くも悪くも一番衝撃的で印象にも残ったのはあの時だったな。」
死という存在を実際目の当たりにして体は何も動かなかった。それは生きることを諦めたのではなく死を受け入れたようだった。
「ここで・・・終わりか・・・人生って楽しい物じゃなかったんだな。」
気づいたら涙が頬を伝っていた。
「ただ食べ物を探して食べて、もらった配給をなんとか奪われないように頑張るけど結局ほとんどが奪われて、空腹を満たすためにまた食べ物を探して。という日々とはもうおさらばできるじゃないか。」
そう思うと少し気が楽になった。本当は自分が死ぬ意味を求めていたのだろう。
遠くから爆発音が聞こえてきた。
多分この家も爆弾が直撃する。根拠はない。けどそんな予感がした。しいて言うなら走馬灯を見たといことかな。
でも体は動かない。最愛の人を待つようにその場から動かない。
「終わりか。罪人にはこれが正しい仕打ちなのかな。」
最期はただ上を見ていた。その行為に意味はない。ただ、なんだろう?なぜだか上を見たくなっていた。
爆発音が近くなってきた。
どんなに酷い仕打ちを受けた少年も、どんなに死を受け入れた人でも最期に湧き出てくる感情は
「・・・死にたくない・・・誰か・・・助けて・・・」
平凡な感情だった。かすれてるような小さな声で助けを乞うた。
ふと家の外を見てみると俺と同じくらいの年の少女が立っていた。
逃げ遅れたのか何の意思でそこにいたのかはわからない。けど、気がついたら俺はその子に片手を伸ばしていた。なんとも情けない話だ。最期の最後まで、見知らぬ少女にまで命乞いをする惨めな少年だよ俺は。
爆弾が家を貫いたのだろう。木が悲鳴をあげたところで突風を最後に感じ俺は気を失った。