3.「なろうテンプレ」とは「詰み回避」の型である
前回は「なろうテンプレ」とは「詰み回避」のフォーマットであると述べました。
詳しく解説を進めていきます。
巷間でなろう小説が語られる際には、主人公が目的意識を持たないこと、努力をしないことが頻繁にやり玉に挙げられます。主人公は一切努力せず、ピンチにも陥らず、それなのに強くてモテる。このような小説が好まれるのは読者が軟弱だからだ、けしからん、という言説が良く見られます。
しかし実際にはこれは読者の要望とは無関係に、Web小説という特殊な媒体の発展に必然的に伴うことになった構造なのです。
Web小説は作者・読者共に参入のハードルが低く、広大な裾野の広がるジャンルです。
それでいて漫画やイラストとは異なり、ぱっと見の差別化が困難で、その手軽さと裏腹に新規開拓に非常に大きな労力の必要なジャンルと言えます。
よって設定や展開よりも、高い更新頻度による単純な露出の多さでの差別化が重要となるため、スピード命であまり書き溜めをせずどんどん更新する連載形式が好まれます。
同時にWebの世界においては作者はアマチュアであり、技術的に未熟であることが多い。
これらが意味するのは、小説がどんなに面白くともストーリー展開に悩んで更新が滞った時点で人気作への道が閉ざされてしまうということ。
なろうテンプレとは、Web小説が必然的に求められる次の展開を矢継ぎ早に提供することに特化したフォーマットなのです。
なろう主人公が往々にして無敵の存在で困難な状況に直面しないのは、経験に乏しい未熟な作者が主人公を困難な状況に直面させると、更新が滞ってしまう可能性が高いから。
なろうテンプレの多くが物語の終点を想定しないのは物語の終点を設定すると次の展開がエンディングに制約されてしまうからで、レベル制度やステータスが存在するのは、困ったときにレベルを上げてステータスで殴って解決するため。
他にも物語が
・謎の空間でスキルを獲得する。
・ゲームのキャラになったことに気付く。
・パーティーから追放される。
といった同じスタート地点から始まるのも、物語が軌道に乗って選択肢が雪だるま式にどんどん広がっていくまで既成のよくある展開を利用できる利点がとても大きいです。
とにかくストーリー展開の「逃げ道」を広く持ち続けられ、作者が次の展開に迷わずにすむこと。これがなろうテンプレの最大の長所なのです。