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小さな国の大きなひと  作者: Quantum
贄の姫君
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イバービラとルピトーリ

「クリアト、魔獣はどのような様子だ?戦えそうか?」


 陛下の問いにクリアト様が微妙な表情を見せる。


「まだよくわかりません。あの大きさですからなすすべもなく、ということはなさそうですが、牙だの爪だのあるわけではないですし、どのような戦い方をするかも予想がつかないところがありまして」


「ふむ・・」


「ただ、どうも、戦闘の心得はあるみたいなんです」


「なに?」


「試しに槍を持たせてみたんですが、意外と様になっているというか、ちゃんと構えて見せたんです。」


「ほう」


「ただ、どうも気に入らなかったようで、職人がいろいろ話しながら専用の得物を作ってます」


「話しながら?」


「言葉はまったく通じていませんが、身振り手振りと表情で、意外とふつうに話が進むんです」


「・・ほんとに魔獣か?」


「人間ですね」


 ずばっと言っちゃうなあ。さすが戦士は割り切りが早い。


「・・人間なのか?」


「魔獣か人間か、の2択なら完全に人間です。見た目以外は人間のふるまいです。食うものも我々と同じですし」


「食わせたのか?」


「腹が減ってたみたいなので。兵舎の朝食食わせたら、ふつうに食べてましたよ。量はすさまじかったですが。不味い料理食う時、不味そうな顔するんですよね」


「・・・・・・」


「それと、食う前に、なにやら呟いて、手を合わせていました。そういう習慣がある種族です。どう考えても魔獣じゃないです」


「そうか・・、よし、会ってみよう」


 改めて皆でぞろぞろと進み、馬車で王宮から少し離れた軍司令部に向かう。


「おい、イバービラどこだ?」

「あ、戦士長お帰りなさい。やつなら改めて兵器廠に行ってもらいました。職人があっちのほうが道具が揃ってるとかで」


イバービラ(ぶーちゃん)?」


 思わず訊いてしまった。見た目とのギャップがありすぎはしないか。返事をした兵士が私がいるのに気づいてあわてて答える。


「あ、姫様、失礼しました。いや、最初に若いのがそう声かけたらなんか反応して。どうやら自分のことを呼ばれてるって途中で気づいたみたいなんです。意味はともかく」


 なるほど。よし、決定。人間、にんげん、イバービラね。そのままさらに歩いてすぐ近くの兵器廠に向かう。巨大な兵器や資材を運びこめるように大きな扉がついており、そこから入ると中に巨大な毛皮の化け物がいた。


「!!おい、クリアト!」

「あー、すいません、あれ防寒具です。ピガール要塞につくまで吹曝しですからね。ありったけの毛皮つなぎあわせてまずひっかけてみたたんです。気に入ったみたいでずっと被ってます。おい、頭だけでもちょっと外させろ。陛下が会われるそうだ」


 たぶんふつうは馬車の整備とかに使うであろう足場が組まれ、そのなかにイバービラが立っていた。足場の上にいた職人らしき男が声をかけ、身振り手振りでいろいろ指示を出している。それでこちらに気づいたイバービラが私の顔を見てちょっと反応し、毛皮を脱いでこちらに歩いてきた。


 あ、くるぶしに届く丈のズボン履いてる。やけにぶかぶかだが。あの生地は帆布かな?足は革の袋に突っ込んで外から紐で縛っているようだ。サンダルのようなものを履いている。上は〈召喚〉されたときのものだ。胴体を隠すだけの肩から剥き出しの厚手の服、下着なのかな?よく見るとすごく柔らかそうで、複雑な織り方の生地だ。ほんとうにどんな世界からやってきたのだろう。


「イバービラか。我はカーレム・ゴゥ・アングレック。アングレック王国第6代国王だ。心ならずもであろうが、国家存亡の危機に訪れてくれたことに心から感謝する。どうかその力を外敵を倒すために貸してほしい」


 じっと聞いていたが、陛下の後ろに控えていた私と目が合ったので、軽く頷くと、少し腰を曲げ、右手のこぶしを握り腕を腹に添えた姿勢で、


かしこまりました(イェール)


 と返事をした。訪れた人々はやはり相当驚いている。職人や兵士たちに話を聞くと、どうやら『イェール』という言葉だけはすでに理解しているようだという。また身振りも理解し、兵士たちの動作を見て、返答の所作も覚えたらしい。知能がどうとかではなく、ひょっとしてものすごく頭がいいの?


「・・うむ、大儀である。くれぐれもサリューをたのむ。大事な妹なのだ。どうか無事に返してほしい」

「さりゅー?」

「姫様を呼び捨てにするなど許しません。ちゃんと姫様(ルピトーリ)と呼びなさい」


  リハーナが兄様とイバービラの会話に割って入った。


「リハーナ?」

「言葉のわからぬ魔獣ならともかく、どんな姿であろうと人間の言葉を使うなら人間の礼節も守ってもらいます。姫様です。言ってみなさい、姫様(ルピトーリ)

「・・ひめさま(るぴとーり)

「結構です。以後気をつけなさい」


 つ、強いーーー!この状況で言葉遣いの指導しちゃうんだ。さすが王宮侍女長。


「う、うむ、では準備を続けてくれ。出発は明日早朝、夜明け前だ。皆、頼むぞ」


 兄様が押されつつも 場を締め、私たちは一度王宮に帰ることとなった。改めて明日の準備を急がなければ。

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