叙爵
結婚式が近付いてくる。1年を切った。ほんとうにあっというまに時間が過ぎる。決めなければいけないことはだいたい決まったが、やらなければいけないことは次から次にやって来る。式の日取りも確定した。怜士がプロポーズをした日から数えて10年後、6月下旬となった。初秋だがジューンブライドである。怜士以外誰も知らないが。
そして、やらなければいけないことの中でもアングレック王国的にはかなりの重大事、怜士の伯爵位の叙爵が執り行われた。
ふつう、伯爵というのは領地を持つ。だが怜士に領地経営はできない。少なくとも今は。知識もスキルも持ち合わせない。
そもそも、与える領地もない。かつて、クゥ・ザイダレングに勝利した怜士だが、基本的には防衛戦の勝利である。奪われるのを阻止しただけで、奪い取ったわけではない。まさか、だれかの領地を取り上げて与えるわけにもいかない。
ではどうする、となり、ふたつの案が議論された。
①王家の領地を分割して与える
②領地は与えず、官僚貴族的な扱いにする
いずれも一長一短あり、結論が出なかった。
王家の直轄領はいずれも国内の重要拠点であり、名目上でも、縁戚とはいえ家臣である怜士に与えるのは不都合が多い。
官僚貴族はありといえばありだが、怜士の場合、ちょっと役不足が過ぎる。現時点でも出色の実績を積む怜士なので、今後も考えると王家の度量が問われそうで、ちょっとためらわれた。
煮詰まりかけたところで、他ならぬ怜士から提案があり、結局それが採用された。
③誰のものでもない土地をもらい、名目上の領地持ちになる
アングレック王国は、小国である。しかし、それ以上に人が少ない。いくつかの都市、街、集落、その周辺に農地が広がるが、大半が耕作に適さない荒野である。荒野などもらってもそこから利益は得られない。故に欲しがる貴族もいない。
そういう土地であれば有り余っているので、与えたところで誰の恨みも買わない。
それでいいのか?という問いに対し、怜士は是と応えた。
実は下心と企みがあった。
目先のことを考えると、領地も領民もいないほうがありがたい。当面は土木屋さんで手一杯なので、それ以外に余計な手間をかけたくない。サリューの病院事業も王都でやるのが効率がいい。
ただ、将来的にやりたいことがあった。
街をいちからつくりたい。
何もない場所に道を通し、水を引き、下水を作り、灌漑して農地を作り、食料を確保し、ひとが住める場所に変える-
都市設計をしてみたいのだ。
目をつけている場所があった。ベラーピ山へ至る、森林地帯の西側エリア、かつてジェロー達、草原の民を訪ねたルート沿いのエリアである。
森という資源が近く、どうやら近郊の山から水も得られそう、そして王都とルーミットの中間で、さらには温泉にも近い(私情)。
問題は『街道よりも北』、すなわち草原の民の領域ということで、怜士は改めて彼らと連絡を取り、(こっそりと)将来的にはここに街を作りたいという野望を打ち明けた。回答は
「いいよー」
とのことだった。
幸い、彼らの放牧ルートの邪魔はせず、また、彼らにとっても近くに街があることによる交易上のメリットもあったため、わりとすんなり受け入れられた。
そして叙爵式に臨み、王より伯爵位と、クドー領(特に名前がなかったので怜士の名前がそのまま地名となった)が与えられ、怜士は正式に『伯爵・レイジ・ドゥ・クドー』となった。
50年後、怜士は街を作った。己の屋敷、住民たちの家屋、それを囲む城壁、そしてその周辺を囲む農地。特に、林檎の木が多く植えられ、この人類最北の中継貿易都市は『林檎の国』と呼ばれることになる。




