始動
怜士がこの世界に来て2度目の新年、2年目がスタートした。そしてあっというまに終わった。
本格的な街道整備作業に着手したからである。
1年と言っても、地球時間なら半年にも満たない。準備で1年が終わった。本格的な作業は次年、3年目からとなる。対象は、ルーミットと王都を結ぶ軍用路、森の中の崩壊部分と橋の建設である。
距離でいえばたいしたことはないが、なにしろだれもやったことがない。事前準備も試行錯誤、トライ&エラーの連続だった。それでもなんとか手順書が作られ、計画が出来上がった。
その計画に、軍が総力を挙げて取り組む。工兵だけではなく、戦士の面々も人員に取り込まれた。彼らは体力に優れ、中には魔法で〈肉体強化〉が可能な者もいる。さらには規律もある。練りに練った計画とはいえ、何が起こるかわからない『最初の一歩』を託すのに、最適の人材だった。
軍の面々も、他ならぬイバービラの手伝いならばと、ふたつ返事で依頼に応じてくれた。
森の中に臨時の屯所、飯場が作られた。怜士も一時的にそこに住み込み、現場で指揮を執る。
出発の日の朝、王宮で国王から改めて辞令が出された。
「頼むぞレイジ。しかしお前の身のほうが大事だからな。くれぐれも気を付けてくれ」
「かしこまりました」
そして玄関でサリューと抱き合った。
「気を付けてね」
跪いた怜士の首に手をまわしたサリューが少しだけ祈るような口ぶりでささやく。髪が大分伸びて、現在はふんわりミディアムボブ美少女である。背も少し伸びて、体型も少しだけ女性らしくなり、顔も少しだけ大人びてきた。出会った時のひめさまは、まだ蕾だったんだなあ、と、最近の怜士は思う。中身はあんまり変わっていないが。
「ありがとう。…危ないから来ちゃだめだからね」
「…だったら早く帰って来て」
「かしこまりました」
笑いながら返事をし、そしてポニーに跨った。ようやく怜士に慣れて、乗せてくれるようになったのだ。今回が初お披露目である。巨大な魔馬にのる巨人は、世紀末覇〇にしか見えない。そして見送る王家の人々に軽く礼をし、怜士は東に向けて旅立った。道すがら、同行する戦士たちが声をかけてきた。
「しっかしレイジ…失礼、技術武官殿、ずいぶんと」
「別にレイジでいいよ、他人行儀な」
「あ、そう?じゃ遠慮なく。いや、やせたよねぇって」
「そりゃもう、努力したもの」
「言葉もうまくなったよねぇ…」
軍はなじみも多い。かなり気安く、それが怜士には心地よく、ありがたい。
そして確かに怜士は痩せた。体重計がないので数値は本人もわかっていないが、この2年で30kgほど痩せている。地球時間だとほぼ1年ほどなので、医者が眉を顰めかねないレベルだが、なにしろ分母がでかいので、ここまでは はちゃめちゃなスピードで落ちてきた。実はルーミットに赴いた時点でも、軽く10kg以上落ちていたが、そこから更に追い込んだ。とはいえ、ここから先はあんまり落ちないだろうな、と、怜士自身は思っている。まあ、無理のない範囲ではあるが、ダイエットは進めるつもりである。
なぜかというと、ご婦人方、城内の侍女や登城した貴族の妻や令嬢たち、が、褒めてくれるのであった。体型もそうだが、顔、頬の肉が大分削がれて、実は怜士はちょっとイケメンになった。もともとの素材はよかったらしいことに、皆が気付いた。
姫様の婿として恥ずかしくない
そいじゃあ今までは恥ずかしかったんかい!という突っ込みも入れたくなるような誉め言葉だが、褒められて悪い気はしなかった。サリューの横にいてもいいというお墨付きをもらった気がして(最初からもらっているのだが)、安心感が増した。怜士の美学として、あんまりヒョロヒョロはいただけないが、まあ、人並み、理想を言えば細マッチョになれたらいいなと思っている。
言葉も努力の賜物だが、これは王家の人々の指導があってのものだった。一番厳しかったのは王家ではなく侍女長のリハーナだったが。正しく発音しないと返事もしてもらえないので、『侍女長』という発音は、いちばん最初に身についた怜士だった。
みんなが助けてくれた
怜士の偽らざる気持である。サリューはもちろん、王家の人々、王城の人々、軍の人々、国中の人々、皆に助けられて今こうして生きている。彼らの都合で無理矢理呼ばれた怜士だが、いま、とても充実している。皆のおかげだ。そして、恩を返す時がきた。ここから俺のターンだぜ。ちょっと気合が入っている怜士である。
本編とはまったく関係ありませんが、作者はダイエットという言葉が宇宙でいちばんきらいです。
概念ごと異世界に転移して帰ってこなくても全然かまいません。




