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小さな国の大きなひと  作者: Quantum
贄の姫君
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誓願

「ふう、ご無事でなによりです。しかしどうします?〈使役〉できないとなると、どうやって戦場に連れていきます?」


 クリアト様の声も少し落ち着きを取り戻しているが、そうだ、そもそも〈召喚〉の目的は侵略への対抗と排除だ。クゥ・ザイダレングと戦い、勝ってもらわなければならない。〈使役〉であれば命令するだけでよかったが、それに失敗し、なおかつ自分たちが無事という、今の状況は想定していなかった。


「お願いしてみましょうか……」


 我ながら馬鹿っぽいというか、子供の思いつきというか、場の空気をさらに複雑なものにしてしまった。ルード様もモルドア様も、ファルまでなんだか読めない表情を浮かべている。目に入った魔獣も同じような顔で私を見ている。それを見ていたらなんだか少し腹が立ってきた。自棄(やけ)になったともいう。そのおかげで少し肝が据わった。


「私の名はサリュー。サリュー・ゴゥ・アングレック。アングレック王国の王女です。今この国は未曽有の国難に直面しています。侵略者、クゥ・ザイダレングを倒すため、どうかお力をお貸しください。その対価として、私自身を差し上げます。我、誓願するものなり(イェール)


「姫様!?」


 声を上げたのはファルだったが、どうやら全員がぎょっとした顔をしていたようだ。手を組み、右ひざをついた姿勢で口にする誓願は絶対の効力だ。果たされなければ最悪、死罪となってもおかしくない。まして国内で地位のある者たちの前で行えば、彼ら自身も証人としての立場となり、偽証も黙秘も許されない。思い付きでやっていいふるまいではないのだ。もちろんすべて理解している。


 〈使役〉に失敗した瞬間、私の心の中で覚悟の形が変わった。どうやら私は死なないらしい。『すべてをささげ』というのは死ぬ、そのときの魔力を利用するということではなかった。解釈が間違っていたのだ。


 だとすれば、別のかたちで『すべてをささげ』なければならない。思えば『死ぬ』というのは、とてもとても恐ろしいが、とても具体的でもあった。だが、どんなかたちなのか、わからない状態で『すべてをささげ』るのは、別の恐怖がある。むしろこちらのほうが恐ろしい。だから『誓願』した。自分の心の揺れや逃げをさせないために。


 あの魔獣がどのような生き物なのかまるでわからないが、とにかくこの先の私の人生はあの魔獣と共にある。知性に期待しないわけではないが、それは甘い見通しだろう。明日喰われてしまうかもしれないが、それならそれでもいい。クゥ・ザイダレングを倒し、お父様、お母様、兄様がこの国を守っていければ、ファルたちがずっと幸せに生きていければそれでいい。そういう覚悟ができた。


 魔獣は両膝をついた姿勢のまま、私を見ていた。目は見え、耳も聞こえているようだが、言葉は理解できていないようだ。まあ当然だろう。見た目が人間に近いので思い込みがあったが、そもそも一言もしゃべっていない。声が出せるのかも怪しい。同じ姿勢のまま、周囲を見回し、人々の顔を見て、改めて私の方を見た。そしてそのあととった行動を私は死ぬまで忘れない。


 左ひざを立て、私の握ったままの両手の上に自分の両手を重ね、言葉を発した。


御心のままに(イェール)

ちょっと短めですがきりがいいので。

誓願の言葉の使用を快諾してくださった支援BIS様に心から感謝を。

ちょっと拡大解釈している自覚はありますが、大事に使わせていただきます。

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