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小さな国の大きなひと  作者: Quantum
サリューと怜士
39/76

理解度

「やっぱりねぇ」


 ことの顛末をファルから聞いたマグリナは、ため息とともに言葉を吐いた。


 なんとなくそんな気がしていたのだ。ピガールの戦闘以降、ほぼ毎日二人の姿を見ていたが、どうにも、『婚約者同士がいちゃついている』という風には見えなかった。『前から欲しがっていたペットの大型犬を与えられて、張り切って世話をする幼女と、幼女に懐いている犬』とでもいうような空気だった。


 それでも、サリューの方は多少なりともそういう雰囲気を出してはいたのだが、レイジはどうも違う様子だった。種族が違うからか、はたまた性格か、人を見る目には自信があるマグリナも確信は持てなかったが、当たっていたわけだ。


「ねえファル、あなたから見てレイジはどう見える?レイジはサリューのこと、どう思ってるのかしら?」


「すごく好きだと思いますよ。いちばん近くにいて、いちばん信頼してる人でしょう」


「結婚したいぐらい?」


「……否定はしなかったわけですから、嫌という訳ではないのでしょうけど……」


「引っ掛かるところがレイジの中にあるのね」


「あるいは単純にそういうことに思い至らなかっただけかもしれませんけど」


 両方が正解だった。


 怜士はこの世界の言葉がわからない。現在、驚異的なスピードで習得中だが、まだまだ細かいディティールはわからないし、何よりも語彙力が全然足りない。語学教育というものが存在しないのだから、系統だてて覚えることもできないし、教える側も同様である。


 なのでサリューの〈誓約〉はほとんど通じていなかった。〈誓約〉は魔力的な制約を持つものではないが、この世界の人間にとって、絶対に違えてはいけないもののひとつである。だがそれを知らない者にとってはただのお願いである。通じていないかも、と、サリュー自身も思ったが、怜士の献身がその思いを薄めてしまった。


 怜士の側からすると、お願いされたのでがんばって応えました、(本気で)死ぬかと思ったけど、という程度のものである。予想よりはるかに過酷な『お願い』だったが、サリューの真摯さに応えただけで、そこに『代償』があるとは、理解できていないかった。


 さらには両者の体格差もあった。なにしろちっさいので、怜士的に恋愛対象っぽくなかった。最初に思った幼女ではないにせよ、子供にしか見えなかった(別に体形は関係ないことになっている)。すごく頑張ってる娘、としてみていた。なのでいきなり自分の子供を産むぐらいの言葉が出てぎょっとした。いやいや、立ち位置そこなんですか?の思いだった。


「ま、ちょっとだけ様子を見ましょう。そんな長い時間ではないわ。すくなくともどうするか、という結論の部分はね」

「かしこまりました」


 翌日は、怜士の本格的な引っ越しである。といっても怜士の持ち物などないので、体ひとつで移動するだけだ。昨夜使った布団一式と着替えぐらいのもので、荷馬車に積んで、怜士の戦車(当分は怜士専用ということになった)と、ポニーに乗ったサリューと、荷馬車に便乗したファルがついてくるだけだ。『魔導士の塔』までは大通りを抜けて、昨日使った南門(いちおう、最も格が高いことになっている。普段は誰も気にしない)ではなく、東門からいったん外に出て、城壁沿いの側道を左回りに北上する。昨日ほどではないが、たまたま通りに出ていた人々は、怜士とポニーを見て大騒ぎである。だがそれも城門までで、城外に出ると途端に周囲は初冬の寒風にさらされる。その中を一行は静かに進んでいった。


 『魔導士の塔』が見えてきた。まだ一月ほどしかたっていないが、怜士は少し懐かしさを感じた。トイレと風呂は外付けで、まだ工事中である。さらにすぐ横に仮設の小屋があり、当面の厩舎となる。放牧場も工事中だ。といっても柵を巡らせるだけだが、何しろポニーがでかいので、柵の高さも規格外となり、普通よりは時間をかけて作っている。もっともポニーは今日はサリューとともに再び王城の厩舎に帰るが。


 塔の内部も仮設ではあるが、外よりはしっかりしている。まず暖炉が、急ごしらえながら作られた。窓もなかったのだが、天井近くに嵌め殺しのガラス窓がつけられて、かなり明るくなった。この半地下の1階が住居で、かなり高い場所に2階がある。階段はかなり狭いが、石造りなので怜士でも多少無理すれば上れる。ただし2階の天井は低くドアも小さいので部屋には入れない。ただ、そのさらに上、屋上には出ることができる。まれに観測や大魔法のための大道具を持ち込む関係で扉も大きく、怜士でもなんとか上ることができた。


 怜士は屋上から荒地をぼんやり眺めていた。

 サリューもその横でいっしょに眺めている。ファルは1階にいる(高いところ苦手)。


 昨夜以降、どうにもギクシャクが収まっていない。


「サリュー」


「…なあに?」


「なんで、およめさん?」


「〈誓約〉ですもの」


「せいやく?」


 サリューは話し始めた。〈予言〉から始まり、今日に至る20年の物語を。

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