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小さな国の大きなひと  作者: Quantum
サリューと怜士
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最後の後始末

 西ピガールの後始末とは別に、もうひとつ、始末に困っているもの?があった。クゥ・ザイダレングが乗っていた魔獣である。


 怜士はもちろん、アングレックの者たちも知らなかったが、〈支配〉を最も強く受けてきたのがこの魔獣だった。クゥ・ザイダレングの〈支配〉、特に後半多用した範囲魔法の〈支配〉は、完全に力技で、要するに目標を定めずに無理やり魔法を放っていた。あきれるほど効率が悪く、でたらめな量の魔力が必要で、しかも対象を選べない。馬(?)上から発動した〈支配〉は、かならずこの魔獣にぶち当たり、そのたびに魔獣の精神が黒く塗り固められていった。クゥ・ザイダレングが死んだとき、倒れた兵たちと同様、魔獣も失神した。そして次の日になっても目を覚まさなかった。


 怜士たちが西ピガールで死者の墓を作り終わっても、まだ目を覚まさなかった。衰弱した様子は特に見られない。気絶というか、寝ているというのが正しそうだ。


 本当は、東ピガールに運び込み、もっと安全かつ快適な場所で寝かせてやりたいところなのだが、巨大すぎて荷馬車に積めない。積めるサイズの荷馬車は、もともと国境であり、防衛の視点から、決して大きくないピガール要塞(すでに関所として復活させることが決まっている)の城門を通過できない。己の脚で立ってもらえばぎりぎり何とか…、という大きさなので、見守るしかなかった。


 怜士は一日一回、必ずこの魔獣の様子を見に来た。サリューもついてきた。帰り際、サリューは必ずこの魔獣に〈治癒〉の魔法をかけた。〈治癒〉の魔法は、病には効果はないと言われている。精神、心の傷も同様である。ただ、〈治癒〉の魔法を受けると、少しだけ気持ちがよくなることは知られている。なので、慰めるつもりで、サリューは〈治癒〉をかけていた。


 戦いから、失神してから10日後、そろそろ怜士たちも王都に帰らなければならないという日になって、ついに魔獣が目を覚ました。大暴れした。なにしろ巨大な魔獣である。兵士数人がかりでも抑えられない。とにかく『重石(おもし)』が必要ということで、怜士が呼ばれた。それでも暴れて振り回される。


 魔獣の側からすると、パニックの極みだった。突如今までいた場所と違うところにやってきて、ずっと脳に鎖を巻き付けられたような状態で操られてきた。そして、それが突然断ち切られてショックで気絶し、ようやく目覚めた。自分の意思で動けるようになったが、まだまともに思考が定まらない状態、本能でとっさに逃げようとした。だが逃げられない。小さな生き物が自分を繋いでいる。脳は繋がれていないが、身体はまだ繋がっている。実は知能的には人間ほどではないが相当高い生き物なのだが、〈支配〉の後遺症ですべてが悪い方向に行きかけていた。


 サリューが奇跡を起こした。当然のように怜士についてきていたサリューだが、さすがに危険ということで、少し距離を置いたところで護衛(兼、最悪の場合魔獣を殺すための要員)とともに見ていた。そして、暴れる魔獣の視界に、サリューが入ったとき、魔獣が暴れるのをやめた。


 この魔獣は、人間も含めたこの世界の生物にできないことができた。魔力が視えるのである。といっても視覚で見るのではなく、脳が感じるのだが、人を外観で見分けるように、人ごとに異なる魔力の形を個別認識できる能力があった。サリューの魔力を『視た』とき、なぜか心が安らいだ。毎日かけていた〈治癒〉が、魔獣の心に、形にならない、いい意味の傷あとを残していた。


 魔獣と目が合ったサリューは、一瞬、びくっとしたが、それまで暴れていたのが収まったこともあり、用心しつつも魔獣に近寄って行った。魔獣も、歩み寄って来るサリューをじっと見ていた。目の前に来たサリューに、魔獣は顔を寄せた。サリューは魔獣の顔に手を触れた。


「元気そうね?」


 さすがに言葉はわからないが、それでも魔獣は嫌がりもせずサリューを見ている。


「怪我とかがなくてよかったわ。たぶん、〈治癒〉で治せるとは思うけど。あ、毎日〈治癒〉をかけてたの、ひょっとして覚えてるのかしら?」


 ためしに今日も〈治癒〉をかけてみた。完全にサリューに懐いてしまった。


 こいつまさか女好きか!?


 怜士を含め、その場にいた全員がそう思った。誤解といえばそうなのだがまんざら嘘でもなかった。


 魔獣はサリューに連れられて、東ピガールの街に移動した。


 姫様は『癒し手』じゃなくて、『使役士』か『召喚士』を目指したほうがよかったのでは?と陰で言われるようになった。


 魔獣がいちばん懐くのが遅かったのは怜士である。見た目ではなく、これも魔力が視える故のことだった。魔力がまったくない怜士は、魔獣からすると、ゾンビか幽霊(実体があるけど)にしか見えなかったからだ。毎日世話をされ、その高い知能によってそういう人間だと理解がされるのに、かなり時間がかかった。最終的には怜士の愛馬となるのだが、2年後のことである。


 名前は怜士によってポニーと名付けられた。

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