ちっさいひとたち
ここから第2章、レイジーサイドのスタートです。
よろしくお願いします。
工藤怜士はその日、第1志望の会社から内定をもらった。
某地方国立大工学部の土木科の学生が、エンジニアとしてゼネコンに就職できるのだから上出来だろう。ずいぶんと走り回り、それなりの苦労もしたがどうやら報われた。これで安心して卒論に集中できる。
外は夏の夜の蒸し暑さで、暑さに弱い怜士にはつらい季節だ。とはいえその理由は怜士の並外れた巨体にあり、そして自業自得である。
身長180センチ、体重130キロ、少なくとも大学の中で自分より太っている人を怜士は見たことがない。
「すごい身体してるな君!柔道でもやってたのか!?」
「はい、高校の時に。二段です」
「ほー!」
「まあ、そのころは今より40キロぐらい軽かったんですけど」
どっかーん(爆笑)
までが、面接のつかみのデフォである。進学校の柔道部なので、部としての強さは大したことなかったが、かなり本気で打ち込み、3年の夏のインターハイ予選は、運良く個人戦の決勝に進んだ。そこで秒殺で負けてしまったので全国には行けなかったが。そこで部活は引退し、柔道も一区切りつけて大学に進学したのだが、高校生の頃の食欲が収まらず、いっきに肥満体になってしまった。引退した体育会系あるあるである。
だが、暑くても今夜の怜士の心は軽い。実家の両親に連絡したら向こうも安堵した様子で祝福してくれた。今年の帰省は今まででいちばん気楽なものになりそうだ。すっかり緩んでいるが、明日もふつうにゼミがある。エアコンのタイマーをセットし、短パンタンクトップで眠りについた。
エアコンよりも明らかにひんやりした空気と、背中に当たる固い感触で目が覚めた。
あれ?どうした?ふとんは?と思い、起き上がって見回すとそこは3年暮らしたアパートではなかった。なにやら薄暗い、直径10メートルほどの石の床の丸い部屋、壁も石で、かなり高さがある。天井は暗くてよく見えない。照明はない。なにやら床に線が引かれ、それがほのかに光っている。ていうか、自分も少し光ってる!?
そしてさらに自分の周りに何かがいることに怜士は気付いた。ぎょっとしてよく見ると、目の前に美幼女がいた。色素が薄い白い肌、ふわふわの腰近くまで伸びる金髪、目は濃い青、白い足元まであるワンピース、っていうかドレス?を着ている。整った顔立ちで、すごい可愛い。そしてちっさい。身長120センチもあるかな?小学校低学年ぐらい?
さらに周囲を見回すと、ちっさいおじさんがいっぱいいた。美幼女よりもやや背は高いが、拳一つ分ぐらいだろうか。なにやら革の鎧のようなものを着て槍を構えているおじさんや、コート?みたいな服をひっかけたおじさんが、怜士を見ていた。
……なんだ?
まったく理解が追い付かない状態で、ちっさいおじさんのひとりが怜士に向かって腕を向け、何か叫んだ。
??なに?、と思った直後、美幼女が自分の首を、手に持ったナイフで切りつけようとしていた。
うぉっ!!
とっさに手が出た。幼女の細い腕は怜士が全力で掴むと折れてしまいそうだ。手には力を入れず、腕の力でナイフの刃を首から離す。うおお、焦ったああ。なになに、どういうこと?目は一気に覚めたが、全く理解できない怜士である。
ちっさいおじさんと美幼女がなにやら言い合っている。言葉は全く理解できない。いったいどういう状況?ていうか、ここどこ?体格差があるせいなのか、恐怖感のようなものはあまりないが、得体が知れなさ過ぎて声を出すことができない。
と、そのとき、自分を囲む人の輪の外から別の声がした。女の声だ。美幼女以外にも女性がいたことに、怜士はその時初めて気が付いた。なにやら美幼女に声をかけている。それを聞いていた美幼女が、怜士の方に向き直り、自分が持っているナイフに目を向け、ゆっくりと手からナイフを放した。そのままナイフが床に落ちた。
怜士はほっとして美幼女の手を離し、改めて美幼女を見た。
……幼女じゃないな?ちっさいから子供かと思ったが、なんかおかしい。膝立ちしている怜士よりもまだ背は低いが、頭身のバランスが子供っぽくない。周囲のおじさんたちとのバランスを考えても、美幼女ではなく、ちっさい美少女のように思える。
なにがなにやらわからんが、ちっさい人の国にいるの俺?
なんで!?叫びたいが怜士は声が出ない。
そのとき美少女が怜士に向かって跪いた。神に祈るように指を組み、ひどく真摯な顔つきで怜士を見ている。
「私の名はサリュー。サリュー・ゴゥ・アングレック。アングレック王国の王女です。今この国は未曽有の国難に直面しています。侵略者、クゥ・ザイダレングを倒すため、どうかお力をお貸しください。その対価として、私自身を差し上げます。我、誓願するものなり」
異世界転移ハードモード:言語チートなし
せめてもの武士の情け:全裸転移はなし(書きたくなかった)