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小さな国の大きなひと  作者: Quantum
贄の姫君
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再開と作戦会議

 昼過ぎにはピガール要塞に到着した。決死隊だけではなく、後方部隊(魔力が少ないだけで、通常なら主力の戦士たち)も手前に陣を張っていた。要塞の手前には東ピガールと呼ばれるかなり大きな宿場町があり、通常なら大賑わいだが今は住民を強制退去させているので(指示するまでもなく大半は自主的に避難した)、軍人だけの駐屯地となっている。ただ街のインフラが使えるので何かと便利なようだ。お父様とお母様は要塞に最も近い代官屋敷に寝泊まりし、昼間は要塞に詰めているのだという。とりあえずイバービラは駐屯地にいてもらい、私と戦士長だけで要塞に行くことにした。


 本来の川幅の半分の距離、それでも4連アーチを持つ石橋を渡り、城門をくぐって要塞内部に入る。過去の関所だった時代も含めて初めてこの島に来た。全体が高い城壁で囲まれたほぼ真ん丸の陣地は、たぶん本来は大きく二つに分かれ、入国、出国それぞれが混ざってしまわないように施設が並んでいたと思うのだが、今は内部の施設や障壁は取り払われ、ほぼ更地になっている。敷地の隅に小さな石造りの建物と城壁の上の見張り台があるだけだ。馬を降り、建物の中に入る。その瞬間抱きしめられた。


 「サリュー!よかった、本当に良かった!よくも無事に……」


 それ以上は言葉が出ないようだ。お父様だった。まあそれ以外ありえないのでびっくりしたが驚きはない。だがやっぱりうれしくて、顔は笑っていただろう。


 「はい。おかげさまで無事に要塞にたどり着くことができました」


 わざとちょっと意味を取り違えて返事をしたのだが、お父様は気づかなかったのかどうでもいいのか抱きしめたまま話を続ける。


 「ああ、やっぱりおまえが生きてくれているほうがずっといい。あとは私が何とかするからお前はどこか安全な場所で」

 「「だめでしょう」」


 お母様と声が揃ってしまった。


 「マグリナ……」


 お父様が咎めるような、すがるような声音でお母様に顔を向ける。


 「安全な場所にいてほしいというのは同意しますけれど、ちゃんと事情を聴いてからの話でしょう。……サリュー、思ったより元気そうでよかったわ。慌ただしくて申し訳ないのだけれど、早速いろいろ教えてもらえるかしら?」


 いつものお母様だった。


「つまりお前は」


 お父様が眉間を指でほぐしながら私に問いかける。


「そのイバービラ(ぶーちゃん)とかいう魔獣と」


「魔獣ではなくたぶん異界の人間です」


「……そのなんとかと死ぬまで一緒にいるという約束をしたと、そういうことか?」


「……ふぁい(イェール)


 大して広くもない部屋の、隅に置かれた机に向かい合い、ここに至るまでの説明をし終わったところで最初に確認されたのがそこだった。


「……斬っていいよな?」

「「だめです」」


 いつものお父様だった。


「最低限、今回の戦いが終わるまでは絶対にだめですし、戦いが終わったとしたらその時は勝ったということですからイバービラは救国の英雄です。やっぱり絶対だめです」


「そいつ抜きで勝てばよいのだろう?」


「まじめに話をしてください」


「……」


 この状況でも、心底、渋々という顔ができるお父様のぶれなさは、ここまでくると尊敬できると思う。こういうところ以外は以前から尊敬しているけれど。


「話を聞く限り、確かにクゥ・ザイダレングにすれば最も相性が悪そうな相手ではあるわね。できれば事前に本当に〈支配〉が効かないか確かめたいけれど、わが軍で〈支配〉の遣い手はいないからぶっつけ本番になってしまうわね。そこがうまくいくという前提でも、可能な限り有利な状況をつくる必要はあるわ。なんとかクゥ・ザイダレングを単独で城内に引き込んで、そのうえでイバービラに戦ってもらいましょう」


 お母様もぶれていない。こちらは安心感が強い。


「私も参加したいのですが」

「絶対だめだ」

 即座に却下されてしまった。


「でも、何でもするって約束したんです。イバービラが独りで戦うのに私が安全なところにいるというのは嫌です。もしイバービラが殺されるようなことがあれば誓約に則り私も死にます」


「……それでもだめだ」


「誓約のことはともかく、まずあなたがいるのは不自然なのよ、サリュー。あなたのことをクゥ・ザイダレングがどの程度知っているかにもよるけど、知っていればなぜ生きているのかで怪しまれるし、知らなければ知らないで、30過ぎたばかりの小娘が戦場の最前線にいることに疑問を持つでしょう。無駄に警戒されると却ってイバービラの危険が増すわ」


「……」


「とはいえ、時間がない中で何ができるか、という話ね。基本的には小細工しかできないわ。クゥ・ザイダレングを独りにする、イバービラに〈支配〉が効かないことをぎりぎりまで気づかせない、そのためのあれこれをサリューにも手伝ってもらいましょうか」


「だめだ危険すぎる!」


「子供の危険は親が何とかするものではなくって?頼りにしてるわ、『お父様』」

「む……」


 お父様の方が珍しく正論だと思ったが、私にも役目がもらえそうなので黙っていた。そして相変わらずお父様を転がすのがうまい。


 そこからいくつかの『小細工』が検討され(すごく揉めた)、基本案が作られた。これで、クゥ・ザイダレングを迎え撃つ具体的な準備に入れる。


「ところでそのイバービラ(ぶーちゃん)はどこにいるの?見てみたい・・会いたいのだけど」


「そうだな、どんなツラした奴か、まずは見てみないとな」


 どうやら侵略軍は一分一秒というところまでは来ていないようで、戦士長に代理を頼み、喧嘩腰のお父様と興味津々のお母様を連れて、駐屯地に戻ることにした。

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