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小さな国の大きなひと  作者: Quantum
贄の姫君
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移動二日目

 ……はずかしい。目が覚めたらイバービラといっしょに毛皮にくるまっていた。イバービラはまだ寝ていた。周囲はまだ静かだが、不寝番だった補給隊の面々は、少しずつ出発に向けて準備を始めているようだ。


 えーと、たしか泣いちゃって涙が止まったあたりでうつらうつらしたんだったか。そのまま寝てしまったのか。うーーー・・


 イバービラは熟睡しているようだ。そろそろと毛皮から抜け出し、野営の輪の縁の方を歩いてみる。夜明けにはもう少し時間があるだろうか。かなり寒いがローブのおかげで快適だ。冷たい空気を吸い込むと頭の中までクリアにしてくれる。近付きつつあるピガール要塞と決死隊のことが、そしてクゥ・ザイダレングとの戦いがいよいよ目前の大事として意識から離れなくなってきた。


 ピガール要塞とは言うが、実は要塞としての機能はあまりない。もともとは隣国との国境をなす大河ターリの川中に浮かぶ小島の関所で、当然隣国の人間も詰めていた。クゥ・ザイダレングの侵略で隣国の軍が壊滅して国境の兵も維持できなくなり、友好国として国境を『いったん預かる』体で占有し、大急ぎで軍事拠点化したものだ。そこにお父様とお母様が戦士たちと共に籠り、敵を待ち受けている。〈支配〉の魔法をを受けても抵抗できるレベルの魔力量と戦士としての技量の両方を持つ者はそう多くはないが、結果的に少数精鋭の軍となった。魔獣を〈召喚〉し、戦場に投入するための時間を稼ぐ。勝つことではなく時間稼ぎが目的の軍隊だ。最悪全滅の可能性もある、というよりも半ば以上『全滅前提』の部隊で、文字通り『決死隊』なのだ。だからこそ誰もが一刻も早く魔獣を送り込むために奔走した。


 あと二日侵略軍が来ないでほしい、そうすれば、たぶんお父様もお母様も死なずに済むはずだ。決死隊の出発前にふたりに挨拶したとき、二度と会えないと思っていたからお互いぼろ泣きになってしまった。だからまた会えることは気恥ずかしいがうれしい。お父様とお母様が生きて王都に帰れればもっとうれしい。私も一緒に帰れればなおうれしい。イバービラもいっしょなら言うことないな。


 ・・あれ?私、イバービラ怖くなくなってるな?というか結構好きな感じだ。まだ、まる二日しかたってないのに。見た目はすごく怖いはずだが。慣れちゃったのだろうか?……まあいいや。ずっと一緒にいるって約束したから怖いよりはそうじゃないほうがいいに決まってるし。


 夜明けにはもう少し時間がありそうだが周囲は少しずつ騒がしくなってきた。朝食用だろうか、新たに薪を入れたところもあるようだ。イバービラのところに戻るとまだ寝ていた。うーーん、怖くはなくなったけど、この大きさと見た目はやっぱり人っぽくないなあ、とか考えていたら戦士長がやってきた。


「おはようございます姫様。ゆっくり休めましたか?」

「……おはようございます。寝る前に私を天幕に連れて行ってくれてもよかったんですよ?」

「(ぷぷっ)イバービラにしがみつく体勢で寝ておられたので」

「……イバービラ、起きませんね」


 無理やり話をそらさざるを得なかった。うぅ、恥ずかしいよう


「(ぷぷっ)あー、一昨日があまり寝てなかったみたいですからね。ちょっと疲れていたのかもしれませんね。……いよいよ人ですねやっぱり。魔獣が疲れるとか聞いたことないですし。とはいえもう起きてもらわないと出発が遅れちまいますね。起こしましょうか」


「イバービラー、起きなさいー」


 体をゆすろうとしたが、ほとんど動かなかったので頭の方に廻り、髪の毛を両手でつかんでぐいぐいと動かす。


「いばーびらー、おきてー、あさよー」


 イバービラがようやく目を開けた。焦点が定まっていないようだが、私を見つけると目を細め、そしてはっきりと私の方を見た。よし、起きたね。


「おはようございます、イバービラ。もうすぐ朝食ですよ」


「・・おあおーおらいあす、姫様(るぴとーり)


 挨拶も覚えてるんだなぁ。


 二日目も順調に進み、最後の野営地に入った。もう明日はピガール要塞だ。どうやら無事に到着できそうだ。二日とはいえ、終日馬上に揺られているせいか、イバービラではないが疲労が蓄積している。逆にイバービラはすこし元気なようだ。休憩時に戦士たちと軽く訓練?をしていた。兵器廠で作ってもらった槍より長くてすごく太い棒(あえて言うなら棍という武器らしい。ふつうはもっと短くて細いそうだ)を片手で、あるいは両手で振り回している。鉄の芯を槍の柄の素材で包み、鉄の環をはめてさらに手元には革を巻いてある。ただ全力で打ちつけると軍有数の実力の戦士たちでも受けられなさそうで、やりあうときは受けに徹しているようだ。確かに素人っぽくは見えない。あと、なぜか地面を転がったり寝そべってじたばたしたり?していた。


 訓練の時は毛皮を脱ぎ、変わった形の上着を見せている。なんだか形はバスローブ?みたいだがズボンと同じく帆布のようで、これもズボンと同じくかなりぶかぶかだ。これを布のサコッシュ?ベルト?で留めている。戦士長曰く、職人にあれこれ注文を出して作らせたようで、棍よりも時間がかかったのだそうだ。


 正確には伝わっていないはずだが、自分が『戦わされる』ことを理解しているようだ。見ていると胸が痛むが、がんばって何でもないふりをした。


 何事もなく二日目の夜が(自分用の天幕の中で)明け、いよいよピガール要塞に入るという日、出発してすぐに、要塞からの迎えがやってきた。どうやら補給隊の一部がさらに足を延ばし、要塞のお父様とお母様に知らせたようだ。

口頭で『どういうことか説明しろ』という伝言を受け取った。行く気が幾分か失せた。


 

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