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遭遇~高校編~

作者: 雨音 しずく

「好きです」


放課後、夕焼け色の教室に二人の男女が、開いた教室のドアの前を通った時に見えてしまった告白シーン。

思わずドアの陰に隠れてしまった私は、その男子の方を知っていたからだ。

葉月 亮太──私のクラスメイトである。

彼は人当たりがよく裏がない性格だからクラスの人気者で、テニスで全国ベスト8まで行ったつわものだ。そんな葉月君はそれは女子にとって好奇の元で、恋愛事情に疎い私にも分かる位にモテる。


「ありがとう。嬉しいよ…けど俺、彼女いるから、ゴメンな」


ゴメン、と言った葉月君の声が本当に申し訳なさそうで、彼の誠実さが分かる。


「そっか…でも、どうしても言いたかったから、聞いてくれてありがとっ」


涙ぐむ彼女を見て辛そうに顔を歪める葉月君に、彼は優しいのだと思う。だけど、そんなの痛いだけだと端から見ていてそう思った。


「ゴメンな」


そうもう一言呟いて、教室を出てくる葉月君。このままでは私は彼と鉢合わせてしまう。慌てて足音を起てない様に私は来た道を戻っていた。


(あー、暫く教室には戻れないなぁ)


定期を机に忘れてしまったから、このままでは帰れない。だけど、きっとあの子はまだ泣いている。

ふぅ、と立ち止まって溜息を吐いた所で後ろから来た人がぶつかってしまった。


「あっ、すみません」


反射的に謝って相手を見れば、先程見た葉月君だった。思わず体が緊張で強張ってしまった。


「いや、俺こそごめん。ぼーっとしてて…」


そこまで言って、私を見た時の葉月君の顔は、何だか泣きそうな顔で…、泣いたのは、彼女だけかと思ったのに、どうやら葉月君も困ってしまった様だった。


「だ、大丈夫?」


「へ?」


あれ、私いつもなら通り過ごしてしまう筈なのにと思うのに、何故か放っておけなく心配になって、口から出てしまった言葉。葉月君もびっくりした様で、言葉を発した後固まってしまった。


「ご、ごめん!何でもない。気にしないで」


恥ずかしくなったのと、相手に不快を与えてしまったかもと思って、私は勢いで前言撤回をして逃げようとした。


「都築、もしかして見てた?」


が、失敗に終わった。しかも、ばれてしまったという、葉月君の勘の良さは、素晴らしい。


「ごめん。聞くつもり無かったんだけど…」


これ以上は言い訳だと分かるので、なんと言って良いか解らず、私は目を逸らす事しか出来ない。


「いや、態とじゃないのは分かるよ。俺こそゴメン、驚いたよな」


「あの…謝る事じゃ、ないと思う。私こそ、ごめんね。声掛けちゃって…」


葉月君の気遣いに、私は罪悪感が生まれた。あまり深く突っ込んで良い程話した事もないクラスメイトに、いきなり言われれば、そりゃ迷惑だろうと、思って謝った。


「んや、いい。心配してくれたんだろ?サンキュ」


「あっ、ううん。お礼言われる事でも無いよ」


「ははっ、わりっ、都築が声掛けてくれるなんて、初めてだからさ、ただ、嬉しかっただけだから、気にすんなよ…」


さっきまで泣きそうな顔だったのに、笑ってそんな風に言われてしまえば、私だって嬉しくなってしまう。ああ、声掛けて良かったと思ってしまう。


「…なぁ、ちょっと、時間いい?」


突然、笑顔を崩した葉月君が私を誘う。

え、っと、正直、戸惑ってしまう。

女子からの告白を断った後、彼女でもない子と話すって何だろう、と。それでも、私は特に用事がある訳でもなく、そんな縋る様な顔をされたのでは断る事なんか出来る訳無かった。


「うん、良いよ」



場所は、近くにあった空き教室。葉月君は椅子に腰掛けて、私にも座る様に言った。何処に座れば良いか迷って、結局机を挟んだ向かいの椅子に座った。


「都築…はさ、彼氏とかいんの?」

「!?」


いきなりの質問に、思わず赤面してしまう。普段男子とは殆ど話しなんかした事ないのだ。色恋の話し等、免疫なんて、無い。


「ははっ、顔真っ赤」


そんな私の反応に、葉月君は笑って指摘した。ヤバい、帰りたい…物凄い羞恥に、目を合わせられず、でも無視する訳にもいかないので、正直に言った。


「い、いないよ」


「あはは、だよな」


何なんだ、この人、私をからかいたいのか、ああ、でもそうだよなぁ、私、告白現場見ちゃったし。仕方ないのかもしれない。そう思うと、逃げたいけど、ちゃんと向き合わなければいけないと、思った。


「私、どうすれば良い?」


「え?んーそうだなぁ」


償わなきゃ、と言う気持ちから発した言葉なのに、葉月君は意味を履き違えて、何やらアドバイスを言い始めた。


「都築はさ、笑うと可愛いし、男子にもっと積極的になった方がいいと思うよ」


「へ?」


予想外な答えに、私はついて行けずに、首を傾げるしかなかった。


「なんだよ、彼氏欲しいんじゃないのか?」


「ちがっ…私は、葉月君がさっきの事怒ってるんだと思って…」


ぶはっ


噛み合わない会話に、先に折れたのは葉月君だった。


「だから、怒ってないよ。都築ってなんかウケるな」


そう言って笑い続ける葉月君に、もう、これ以上恥をかきたくなくて黙る事にした。

すると、ひとしきり笑い終わったのか、葉月君は急に俯いて、先程の泣きそうな表情に変わった。


「俺さ、彼女に振られそうなんだよね…」


話題が突然変わったと思えば、言われたその言葉に、私はどうしたら良いのか解らず、だけど真剣な内容何だとは分かるから、姿勢を正した。


「原因は嫉妬かな。部活優先だし、女子の友達も多いから、って…でも俺、部活や友達よりも、彼女を優先するのがどうしても回らないんだよなぁ」


成る程、女子として、意見が欲しいって所かな。でも、ごめん。私彼氏居たことないから良くわかんないんだよ。


「本当に彼女の事好きなの?」


「え、そりゃ…好きだよ」


本気じゃないのかな。とはその時何となく思った。困ったように即答ではない答えは、彼女を傷付ける。


「一度、離れてみたら良いんじゃないかな」


「!」


驚く葉月君は、きっと私の言葉が予想外だったに違いない。だけど、私はアドバイス出来る程、経験があるわけじゃない。だけど、私に声を掛けてくれた以上ちゃんと私なりに意見しようと考える。


「葉月君は、彼女を本気で好きじゃないんじゃない?だから優先できないし、私のさっきの質問にも平気な顔して答えられるんだよ。好きなら、話したいとか、会いたいって思えるんじゃない?だから、暫く離れてみて、平気なら、それは恋じゃないんだと思う」


本気の恋だなんて知らない。だけど、小説や恋愛漫画で読む本気の恋は、もっと楽しい筈で、好きだと相手の事を思い浮かべて言うなら表情が弛む筈なんだ。


「都築は、分かってないな」


葉月君は不快に感じたらしい。ああ、嫌われるのは、キツイ。だけど、恐らくこれで関わる事もないからいいやと思う。


「分からないよ…私、誰かと付き合った事もなければ、好きだって感じた事だってまだだよ?」


経験上アドバイス出来ないのは仕方ないとは思うけど、真剣な相手に適当なんて言えない。だから、私は思った事を正直に言った。


「そ、そう言う意味じゃないよ」


すると突然葉月君は慌てて、私の言葉を否定した。なんで…


「都築は、女の子だから分からないって事。男子って、女子と違ってあんまり積極的にはなれないんだよ。だから、都築は知らないから分かってないって意味で…」


「ゴメン、葉月君の言ってる意味がよくわからない」


はぁ、とため息を吐かれた。いったい何だって言うのだろう?


「良いよ、俺が今のは言い過ぎた。けど、都築はもうちょい男子と話してやって」


良く分からない話しをされたけど、結局私は頷くしか出来なかった。


「分かった…努力はしてみる。それで葉月君の問題が解決するって事なら」


「あ、いや…まあそうして」


妙に歯切れが悪いけど、頷いていたからそうしてみよう。

それからは他愛ない話をして、何か葉月君は流石と言うか、話し易い人だったので、明日から見習おうと思った。



翌日、私は葉月君に言われた事を実行するとしても、上がり性だからそんな事、直ぐにやるなんて無理だと思った。第一、苦手何だよね、男子と話すの…

と、前から来たクラスの男子に気付いた。だけど、向こうは話しをしていて、私には気付いていないようだ。このままじゃぶつかるかも、そう思って、壁側に避けようと思った矢先に、相手と目が合った。すると、向こうが先に避けてくれてどうやら通してくれるようだ。

ええっと、いつもなら会釈して通っちゃうんだけど、チャンス、かな?


「あ、ありがとう」


恥ずかしい!けど取り敢えず、お礼は目を合わせて。うぅっ、早速耳が熱い。


「!え、いや…いいって」


おお、いい人!一瞬驚かれたけど、向こうも私に言葉を返してくれて良かったって思った。や、やったよ、私。やれば出来るぞ、私。

等と勝手に賞賛して、取り敢えず、これ以上は顔が赤くなりそうなので会釈して教室へ向かう。


それからは何とか、男子とは挨拶くらいなら出来る様になった私。だけど、これで本当に葉月君の為になったのか分からなかった。



「都築!」


それから一月程して、葉月君に声を掛けられた。本当に、この人は、遠慮なく声掛ける事の出来る人なんだな、と羨ましく思う。


「あっ、葉月君」


そういえば、あれから話す機会が無かった。私からあの話しを蒸し返すのも変だし、友達でもないのに馴れ馴れしく聞きに行くなんて出来なかった。


「ちょっと、時間良い?」


「うん、いいよ。もう帰るだけだし」


そう言って、この前と同じ教室に連れて来られた。


「俺、彼女と別れたんだ」


「!えっと、それって私が言ったせい…」


葉月君のその報告に、なんだか申し訳なくなってしまった。彼女の別れ話しを受け入れたい訳じゃ無かっただろうに、私があの時、言ったせいで、葉月君は受け入れてしまったのか。


「いや、違うよ。俺、彼女の事、都筑の言う通りそこまで好きじゃ無かったみたいなんだ。いや、好きだけど…でも、何て言うんだろう。あの人は、俺にとって姉みたいなものでさ…」


そういえば、葉月君の彼女さんはテニス部の1つ先輩だって聞いた気がした。もし、それが本当なら


「自分から、別れたの?」


どう話をして良いのか、恐る恐る聞いて見れば、葉月君は笑った。


「いや、フラれた。向こうに好きな人が出来たんだって」


しかもさ、相手恵太なんだって。笑っちゃうよな。恵太って人が誰なのか知らないけど、多分葉月君にとって親しい相手なんだろう。そう言って、本当に可笑しそうに笑っていた葉月君に、この前悩んでいた様子が全くなくて、明るいのが証拠だ。


「よかったね」


「えっ?」


なんだか安心したのと、楽しそうな葉月君に私はつい、言葉がこぼれた。それに葉月君は驚いたみたいだ。


「ああ、まぁ良いのか?な。ちょい、複雑だけど」


「うん。だって、葉月君笑えてるし、哀しくはないんだよね?だから、よかったね」


そう言って、私は笑った。私はアドバイス何て無理だし、結局役にはたたなかった。でも、話を聞く事くらいできてよかった。


「……」


「葉月君?」


急に黙ってしまった葉月君。あれ、やっぱり、私おかしな事を言ったかな、と思い、首を傾げる。だけど、何だか、ぼうっとしてしまった様な感じだ。

やっぱり、ショックだったのかと心配になって、どうしようか、と悩んだ末に、机の上置かれた彼の左手を両手で包む様に握った。


「へっ!?」


葉月君は肩を揺らして驚いた声を上げた。でも、払い退けなかったので、嫌がってる訳ではないと思うことにして、恥ずかしいけど、頑張る。


「大丈夫。葉月君なら、きっといい子が見つかるよ。先輩よりずっと、好きになれる子が。だから、それまで好きな部活、頑張って」


にこりと微笑みながら、私に出来る精一杯の言葉をかける。すると、葉月君はじっと、私を見た後頬を赤くしながら頷いてくれた。


「お、おうっ!頑張るぜっ……そしたらさ、都築、試合見に来てくれるか?」


「うん?いいよ。私で応援になるなら」


ギュッと手中の葉月君の手が私の右手を握り返していた。それに伴って、最後に言われた言葉に、真剣な眼差しに、一瞬ドキッとした。それが何かは、多分、異性に免疫がないからと判断した後、とりあえず返事は了解した。頼ってくれた事が素直に嬉しく感じたから。


「っよし!んじゃ、自主練行くわ!」


立ち上がった葉月君に、元気出たみたいだねって笑って言えば、葉月君はぽんっ、て私の頭に手を置いた。


「ん、都築のおかげ」


「それは、よかった」


何だろう、このやりとり?と私は苦笑しながら習って席を立つ。じゃあ、と教室の前で別れの言葉をお互い交わし、帰ろうとした時だった。


「都築!俺さ男子と話すように言ったけど、あれやっぱ忘れて」


玄関と廊下と言う距離から葉月君が声を掛けてきた。

何でそんな事を、と思ったけど、もう葉月君の問題は解決したから必要なくなったって事なのだろう。

その言葉の意味を理解した私は、軽く頷いた。


「うん。あんまり私じゃ役にたてなかったもんね」


「…やっぱ、多少は話してくれ。それでもうちょっと男心を察してくれれば有りがたいんだけど」


私の応えに、葉月君は何故か手を額に当ててため息混じりに言葉を発した。

良く分からないけど、どうやらまだ全てが解決した様ではないみたいだった。だけど、葉月君の要望は私にはハードルが高い。


「なら、葉月君が話し相手になってくれないかな?私、男の子ちょっと苦手なんだ」


「!!」


そう言えば、びっくりした顔をする葉月君に、迷惑だったかと不安になる。


「ごめん、迷惑だったね」


大丈夫だと笑えば、顔を赤くさせて首を降ってきた葉月君。


「め、迷惑じゃない!むしろ、その逆っ…」


「逆?それって、私の話し相手になってくれるってこと?」


「そう!だけど、そうじゃないっていうか…」


最後の方は葉月君にしては珍しく歯切れ悪くモゴモゴとされて最後は聞き取れなかった。

ともかく、私の男子克服の為に協力してくれるとの事。

それから、私はクラスの男子とは葉月君経由で少しずつ話せる様になった。葉月君は、時折知らない男に着いて行くなとか、呼び出しされても自分が対応するからと過保護にしてきて友達に私のお父さん認定されていた。

そのせいか私も葉月君をお父さんみたいだとか言ってしまう事もあったりして、でもやっぱり彼は他人で、男の子だった。


優しい彼に笑顔を向けられると、ドキドキするのは、お父さんには感じない。

この頃の私は親しくても他人である異性に対する緊張からくるドキドキだと思っていたから、そのまま高校を卒業して、彼とは疎遠になって気づかなかった。社会に出てある程度関わる異性にはまるでドキドキしなかったのに、数年後、道で偶然再会できた時に彼だと気づいてドキドキした時。

これが恋だと、自覚した。


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