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三度目の正直って、転生に通用しますか?  作者: 多趣味人間君
序章
2/2

001. 人間万事塞翁が馬

「では皆さん、今年はお疲れ様でした。いろいろとありましたが、皆さんと力を合わせて開発部として何とか今年もやり切ることができました。それではご唱和ください。乾杯!!」


「「「 乾杯!! 」」」


「いやぁ、上坂君。ごめんね、準備とか全部任せちゃって。ひとまずお疲れ様。幹事の仕事はしばらくないからさ、とりあえず飲もうや。」


そう言い、部長が俺のグラスにジンジャーエールを注いでくれた。ちなみに言っておくと俺はアルコールにめっぽう弱い。成人式の時に父に見守られながらワインを一口飲んだのだが、そこからの記憶が正直ない。父から聞いた話によると、飲んだ途端みるみるうちに顔が真っ赤に染まり、腰が抜けていたらしい。その話を聞いてから俺は断固三パーセント以上のお酒は飲まないと心に誓ったのだ。


「ああ、すみませんね。部長もせっかくなんでジャンジャン飲んでくださいね。」

「そうだね。じゃあ改めて乾杯。」


対面を見ると駿ちゃんが女性陣に囲まれていた。本当にうらやましい限りだと俺は思うのだが、本人は女性が苦手らしく、相手をするのに苦労するそうだ。何とも贅沢な悩みだ。しかしまあ何と綺麗に女性陣と男性陣が分断されたものだろうか。俊ちゃんがこちらにアイコンタクトを送ってきているのが見える。その目は困惑と苦しみに満ちたように見えて実は何も考えていない目だ。仕方なく俺は助け舟を出すことにした。


「駿ちゃんあのゲームするの意外ぃ~!私もよくそのゲームするんだけど今度一緒に周回してくれない?」

「えっとぉ、あのぉー、あはは。。」

「なあ駿ちゃん、こっち来いよ。来季春アニメの期待作について語ろうぜ。」

「ヨシ!そうだね。えっとぉ、ごめんなさい皆さん。ちょっとあっちの話題に混ざってきてもいいですか?」


女性陣の(お前、なに余計な口叩いてんだよ。邪魔すんじゃねぇよ!)という視線が痛いが、気にしない。なぜなら彼は俺の数少ない今でも仲の良い幼馴染であり、隠すこともなく赤裸々に事を話せる人間だからだ。だから俊ちゃんには女にうつつを抜かして欲しくないのだ。決してたぶんきっとこれは嫉妬ではない。


「お前は女性陣皆から狙われてるんだから、気を付けないといろんな営みに付き合わされるかもしれないんだぞ。もっと注意しろ。」

「いやぁヨシ。ありがとぉ。女の人怖いわぁ、来なければよかった。。」

「まあまあ、今来たばっかだしさ、こっちにはいつもの面子しか居ないからさ。ほら、来いよ。」


本当にうらやましい限りである。さて、社内フロア有数の先鋭オタク集団が集まったことだし、アニメ談義を始めるとしようか。今日この場に駿ちゃんを呼んだ理由は主にこれだ。では一人ずつ紹介させていただこう。


まず、「アニメを見る前に原作を読め。そして見終わったら出演していた声優の過去作品を見ろ。それで声優がこのキャラに込めた想いが解る。」と語るアニメ通!駿ちゃん!アニメの沼には俺が引きずり込んだ。後悔も反省もしていない。


次に、オタク感は全くないが部屋はオタ色満載で寝ても覚めてもアニメグッズに囲まれている学生時代を過ごしていたが、就職してから少し我慢している為最近薄い本を衝動買いしてしまう!黒野悠梨!厄介オタク気質が少しあるが彼女に聞けばおすすめアニメを必ず教えてくれるぞ!


究極の腐女子。男女の色恋には一切興味が沸かないという、鋼の精神を保つ者。小野寺咲!最近の推しカップルは俺と駿ちゃん。今日は「あっちの部署の男たちはむさ苦しいから。」という理由でこっちの宴会に来たと語っているが、実際はおそらく目の保養に来たのだろう。本当に勘弁してほしい。


壮年にしてまだ心は二十五歳だという、若者に混ざっても一切の違和感を与えないピーターパン!その者こそ我らが開発部長!若作りしているおっさんとは訳が違う、新しい物好きでガジェットオタクだ!好物はガレットとマリトッツォで、なかなか燃えない内臓脂肪に悩んでおり、最近はジムに通っているぞ!


最後に、アニメというより声優が好き!アニメを見たらアニメラジオを聴く、そう心に誓っており、仕事が忙しくない時はこっそり声優の声を聞いて癒されている。そう、俺だ。


以上五名、うちのフロアの先鋭たちはいつも通り今季作について語り、来期作の展望について討論しあった。他のグループは他で酒の席でしかできない話をして盛り上がっているようで何よりだ。女性陣は折角駿ちゃんをオトせるかもしれない絶好のチャンスを俺に潰され、酒にも潰されていた。醜い、折角なら俺に声を掛けてくれても― おっと、間違えた。そもそも駿ちゃんは二次元しか愛せないというのに愚かだなあ。そんなこんなで、宴会は恙無く進んでいった。


---------- / / / / / ----------


世の中の事柄は全て突拍子もないことから始まるものである。ある日急に棚から牡丹餅が落ちてくるかもしれない。また、ある日急に白羽の矢が立って不運に見舞われるかもしれない。


視界は真っ赤に染まりぼやけている。ただ分かるのは石レンガ造りの天井にシャンデリアが吊られていて、背中が燃えるように熱いということだけだ。息は詰まり、足は痺れている。気を抜けば手放してしまいそうな意識の中、俺は最後の力を振り絞って言った。

「生きろ、お前だけはここで死んではいけない!走れ!」

意識は遠く深く沈んでいく。俺が最後に遺した言葉は誰かを想う言葉だった。


---------- / / / / / ----------


目が覚めた。妙な夢を見ていた。あれだけ人前では飲まないと誓ったのに、どうやら昨日は潰れてしまったらしい。気づいたら俺はバーにはいなかった。高反発のマットレスとあったかい布団が、、、無い。どうやらアパートまで辿り着かず、外で寝てしまったようだ。しかし不幸中の幸い、凍死するような寒さでは無いようだ。むしろ暖かい。しかしなんだか変だな。少し煙たい。しかも屋外では無いようだ。


「おい、上坂起きたみたいだぞ!」


部長の慌てた声が聞こえた。どうやらまだみんな一緒にいるらしい。


「おい、上坂。しっかりしろ、大丈夫か。」

「え、あ、はい。あの、ここは何処ですか?一体何が起こったんですか?」

「それが、わからないんだ。みんな起きたらこんな場所にいて、不幸中の幸いというべきか、今いるのは集落らしいからすぐに死ぬことはないと思うが。。。」


頭が混乱している。俺たちは誘拐されたのか、監禁されているのか、自ら足を運んだのか、そもそもここは何処なのか、なぜ集落だというのに茅葺き屋根の住宅が建ち並んでいるのか。そこはまるで白川郷のような、しかし雪が降ることは想定していなさそうなぼろっちい集落だった。混乱の中俺の脳は一つの可能性に辿り着いた。いや、何度かふとその考えが過ったが、本能が否定し続けていた。しかしそれが肯定に傾いた、という方が正しいか。もしかしたら俺らはタイムスリップをしてしまったのかもしれない。あり得ない、そんなことは解っている。しかし、この状況を見てその可能性を完全に拭い捨てることは不可能だった。集落の人々は皆、我々の救護に当たっているが、傷に植物の葉っぱをすりつぶしたゲル状のものを擦り込み、それをすり潰す前の葉で包んでいる。救護をしている人間の装束もおかしい。洋服や和服ではなく毛皮を縄で締めた服と呼ぶにはあまりにも不恰好な装束を纏っている。ふと近くを見ると見知った三人が寝ており、その奥で一足先に目が覚めた部長が革の装束をまとった人から救護を受けている。俺は謎の人々に危害を加える気はないと判断し、三人を彼らに任せることにした。そして彼らの内、一番立場の高そうな人間とコミュニケーションが取れるか確かめることにした。


「すみません、突然押しかけて申し訳ないのですが、私の話す言葉の意味はわかりますか?」

「おお、お客人殿。お目覚めになられたか。それはよかった。これが質問の答えになりましたかな。」

「よかった、言葉が通じて。先ずは助けていただきありがとうございます。突然すみませんが、ここはどこで、あなた方は何者で、なぜ我々を救って下さったのですか?」

「一つずつ答えていこう。まず最初に、ここは海浜集落。儂が幼い頃に父が興した集落じゃ。儂は"てぃーけい爺"じゃ。集落の長じゃが、肩書きだけのデクノボウで、実際この集落を管理するのはそこにいる息子じゃ。そして三つ目の答えは簡単。人を救うのに理屈などないじゃろうて。まあ、何も見返りを求めていないというと嘘になるがな。はっはっは。」

集落の長は白髪で、優しく温かな眼差しと非常に美味しそうな名を持った老人だった。命の恩人だからなるべく感謝をしなければならない。しかしひとまず我々は自分達の置かれた状況を把握しなければならいため、いくつかてぃーけい爺に質問を投げかけた。


「てぃーけい爺って絶対卵かけご飯大好きですよね?」

「ふむ、それはどういう意味かな?卵かけご飯とはなんですかな?」


しまった。つい頭の端で考えていた質問を口にしてしまった。違う、確かに美味しそうな名前だなとは思っていたが、俺はこんなことが聞きたかったのではない。


「すみません、質問を間違えました。信じてもらえるかわかりませんがとりあえず最後まで聞いてください。」


俺は昨日の夜起こったことを全ててぃーけい爺に説明した。


「。。。、実は、タイムスリップ。。。したみたいなんです。」


俺はつい理解してもらえるはずの無い事を口走った。俺も理屈で腑に落ちるはずのない現象に対面して、混乱していたのだろう。てぃーけい爺も理解をしようとして諦めたような雰囲気だった。俺は落ち着くために少し深呼吸をして、どうにかこちらの状況を相手に伝えた。


「僕たちのいた世界では、鉄でできた鳥に乗って縦横無尽に空を飛び回ったり、地面を砕いてその欠片を使って空に触れそうなほど高い家を建て、そこに住み着いたりしています。この世界にはそんな技術はありますか?」


まあ、答えが"はてな"であることは明確だが仕方ない。本当は「今は何時代ですか」とか、「西暦何年ですか」とか、「そもそもなんで俺はここにいるのですか」とか質問したかったのだが、西洋の技術が全く見られないこの場所でこの質問をするのは無謀だろう。しかしてぃーけい爺の口から意外な返答が得られた。


「そういえば、、、いや、しかしあれは。」

「何か心当たりがあるんですか?」

「うむ、これは儂が二十の頃じゃったか、不思議なことがあってのう。たしか朝起きたら見知らぬ場所にいての、そこは文化のかなり進んだ世界じゃった。儂はそこで飢えて死にそうになったんじゃが、その時に上坂という男に助けてもらったんじゃ。」

「へ、へぇ。」


突然てぃーけい爺の口から自分の名前が出るもんだから驚いてしまった。しかし偶然だろうと割り切り、引き続き話を聞いた。

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