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隣の幼なじみがまた「ステータスオープン!」と叫んでる 勝ちヒロインの定義  作者: タカハシあん


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28 わかる人にはわかる

 旅は埃っぽくて堪らなかった。


 一台の馬車でも土が舞うのに、何十台もの馬車が走ればその量は計り知れない。外套をぴっちりと纏い、砂を吸わないよう口を布で覆わないと口の中がジャリジャリになるくらいだった。


 ……歩いているイルアには申し訳ないけど、雨が降って欲しいわ……。


 旅立って二日目の夕方。これと言った問題もなくラリーヤ村へと到着した。


 村、と言っても街道沿いにある村だからそこそこに発展しており、仲介屋が二軒あるとか。ムローゲンの町が混雑してたらこちらにくるそうよ。


 隊商が優先なので、わたしたちの馬車は広場の端へと停車させた。


「ふー。御者ってのも肩が凝るもんだ」


 ただ座っているだけで大変なのに、馬車を一定距離で御しなくちゃならないんだから肩も凝るでしょうよ。


 定期的に少休憩はあるけど、それで体力が回復することはない。ただ、気持ちを和らげるだけのものでしかないわ。


 荷車から降りたら軽い運動をする。これは、固まった血の流れをよくするためのものらしい。


 イルアの話ではエコノミー症候群って、そのままにしていると胸や足が痛くなって、最悪は死んでしまうそうよ。


 ラミニエラは魔法で体を治癒してる。エコノミー症候群の対策法を探っているんだって。シスターとして鬱屈してる割には治癒魔法には真摯みたいね。


「シスター。ラリーヤ村の教会にいくんですか?」


 教会があるところには挨拶にいかなくちゃならないとか言ってたけど。


「ええ。司祭様からそう言いつけられてますから」


 おそらく安否確認と、シスターとしての立場を忘れさせないためのものでしょう。旅に出てはっちゃけられたら困るからね。


 体を治癒したらダリオ様と一緒にラリーヤ村の教会へと出かけていった。


「ミリア。冒険者組合にいってくるよ」


 イルアがやってきて、そう告げると冒険者組合へといってしまった。


「冒険者って、いちいち報告しないといけないんですか?」


 リガさんに尋ねる。


「ああ。冒険者は組合の要請には応えないといけない義務があるからな、組合があるところには報告しなくちゃならないんだよ」


 自由に仕事時間を選べていいと思ったけど、そんなことがあると聞くと、冒険者なんてなりたくないわよね。いやまあ、最初からなる気はないけど。


 わたしは気楽な釜戸女。さっさと夕食を用意しましょうかね~。


 前に使っていた竈三つに三脚を立てて中鍋をかけて水を注ぎ、沸かしていく。


 昼食の時間があったけど、小休憩よりちょっと長いだけ。水を沸かすだけで終わってしまった。


 そんな時間じゃイルアのお腹は満たされない。なので、夜のうちにホットドッグ(イルア命名)を大量に作っておくことにしたのだ。


 湯が沸いたらソーセージを大量に放り込み、次の中鍋には野菜を。三つ目には羊の肉と臭み取りの野菜を放り込んだ。


「いい匂いね」


 夜番のマールさんが起きてきた。


「あの揺れでよく眠れますよね」


 用足しに一回起きただけであとはぐっすり眠っていた。同じ人間かと疑ったくらいだわ。


「寝れるときに寝る。食えるときに食う。できなきゃ死ぬだけよ」


 殺伐とした仕事よね、冒険者って。わたしには理解できない稼業だわ。


 煮るだけの作業だからその間に明日の野菜を出して下拵えをし、朝食、昼食を作っていく。


「ただいま~」


 と、さらに疲れた様子でイルアが帰ってきた。


「ご苦労様。先に湯浴みしてきたら?」


 湯浴みの準備はマールさんにお願いしていた。マールさんもなんだかんだと女。湯浴みできるのを楽しみにしている。お願いしたら笑みを浮かべて用意してくれたわ。


「ああ、そうする」


「あ、その前にこれに氷をお願い」


 葡萄ジュースを冷やすのに使うために氷を出してもらった。


 イルアの信条か、お酒は二十歳になってからと、お酒は飲まないのよね。それでわたしもお酒は飲んでないわ。一度飲んでみたけど、美味しいって思わなかったしね。


 盥に入った氷──いや、もう氷塊か。氷塊をナイフで砕いていき、別の盥に移して葡萄ジュースの瓶を何本か入れた。


 イルアが湯浴みを終える頃、ラミニエラとダリオ様が帰ってきた。


「遅くなりました。ミリア、お手伝いできなくてごめんなさい」


「いえ。シスターのお勤めですから気にしないでください」


 冒険者と同じくシスターって稼業(?)も大変よね。やっと着いて休む暇なく報告にいかなくちゃならないんだから。


「ミリア、葡萄ジュース飲むな」


「まだ冷えてないわよ」


「大丈夫」


 と、自力で冷やしてしまった。


 魔法を生活に使うのイルアくらいよね。ってまあ、わたしがお願いして使わせてるんだけど。


「シスター。器をお願いします。イルアはパンを出して」


 料理を配り、一つの竈を囲んで夕食をいただいた。


 夕食が終われば井戸へと向かって洗い物。隊商の人もきて、情報交換と言う名のおしゃべりをする。


「こんばんは。アルッタ仲介屋の者です」


 仲介屋も情報交換──いや、情報収集かな? 上には上の繋がりがあり、下には下の繋がりがある。下にしかわからないこともあるからこうして出向いてくると聞いたことがある。


 仲介屋の勘か、わたしが隊商ではないといち早く気がつき、いろいろと尋ねてくる。


 当たり障りのないことを教えつつ、こちらも情報を得るために尋ねたりする。


「ミリアさん。今後ともよろしくお願いします」


 そう言って仲介屋の人が帰っていった。う~ん。名前を覚えられてしまったわ。


「……ミリア組か……」


「なんですか、ミリア組って?」


 手伝いをお願いしたマールさんがボソッと呟き、耳にしたラミニエラが尋ねた。止めて、そんな話。


「ムローゲンの子供たちを仕切ってる組さ。なんの冗談かと思ってたけど、ミリアを見て本当のことだったんだと理解したよ」


「孤児院の子たちもミリアには従ってました」


 だから止めてって。わたしはただの町娘なんだから。


 二人の会話を無視して馬車へと早歩きで戻った。

宣告。『光の家族、膨大な魔力で世を救う!』もよろしくです。

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