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隣の幼なじみがまた「ステータスオープン!」と叫んでる 勝ちヒロインの定義  作者: タカハシあん


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17 メンヘラ

 思いの外、おばさんたちがものを売りにきた。


「はい。全部買います。あ、これ、もっとあるなら買いますよ。これは、萎びれてるから銅貨三枚でなら買いますね」


 次々とくるおばさんたちを相手し、イルアに魔導箱へと入れてもらった。


「イルア、まだ入りそう?」


「んー。もう少しでいっぱいになりそうだな」


「インベントリは開けられる?」


「四つは開けたから樽を買えばもう少しいけるぞ」


 と言うことで買取り続行。なんだかんだですべてを買ってしまったわ。


「インベントリが一つ余ったな」


「なにかのために空けておけばいいわよ。なにが起こるかわからないしね。鍋を二つ出して水を六割まで入れておいて。牛の骨をもらえたから牛骨スープを作るわ」


 小麦粉もあるし、団子にして加えたらかさましにもなる。旅の食事としていいと思うわ。


 わたしの脚くらいある牛骨を砕いて鍋へと入れ、臭み取りの野菜を洗ってそのまま放り込む。


「シスター。灰汁が出たら掬ってください」


 牛骨スープは手間がかかるので、ラミニエラにお願いした。使えるものは親でも使え、よ。


「わ、わかりました」


「煮立たないよう火も見てくださいね」


 じっくりコトコトが牛骨から旨味を引き出せるのよ。


「イルア、肉が食べたいなら一頭買ってきて。仔山羊ならすぐ食べられるでしょう」


 血抜きも楽だし、塩と胡椒をかけて丸焼きにしたらとても美味しいわ。


「お、それいいな。山羊食うの久しぶりだ」


 山羊は毛を刈るから年老いたものしか食べない。ただ、年老いた山羊は固くて美味しくない。だから塩胡椒たっぷり混ぜてソーセージにするのよね。それも美味しくはないけどさ。


「ミリアは、強いですね」


 プリムを丸ごと茹でてると、ラミニエラが呟くように口にした。


「え、なにがです?」


 強いことした覚えがないのだけれど?


「初めてきた村で初めての人に物怖じせず交渉し、笑顔を崩すことなく対応する。わたしにはできないことです」


「別にシスターには必要ないものなんですから、わたしと比べることはないですよ」


 そもそもとしてラミニエラが買われているのは人を癒す魔法が使えること。おばさんと交渉したり料理したりではないわ。


「…………」


 ラミニエラの鬱屈を解決してやる気は更々ないけど、今は変に拗れるのは困る。この娘、メンヘラっ気があるからね。


 ……イルアによると、メンヘラ、ヤンデレ、ツンデレは厄災女と呼ばれているらしいわ……。


「わたしは、戦う力もなければ人を癒す魔法もない。ただの弱い女です。けど、弱いからってなにもできない女にはなりたくありません。わたしはわたしにできることをするまでです」


 ラミニエラは、自分の武器を正しく理解してない。


 誰にも負けない力を持っているならそれを主軸に生き方を決めるべきなのだ。


「人を癒す魔法。立派じゃないですか。なら、それを使って人と接していけばいいんですよ。食べてるのと同じくらい怪我をしている人、病院にかかってる人はいるんですからね。それは、ラミニエラにしかできないことよ」


「……わたしにしかできないこと……」


 そんな言葉は何度も言われていることでしょう。教会としたら世間に主導権を握れる力(人材)なんだからね。気持ちよく動かせるために都合のよいことを言うに決まっているわ。


 なんて、司祭様の思惑にまんまと嵌まっているわよね、わたしって。


 だけど、メンヘラ化してイルアに粘着されるほうが困る。意識を別なほうに向けておかないとあとで苦労するはめになるわ。


 沈黙してしまったラミニエラを放置し、料理を続ける。


「……あんた、凄いね……」


 マールさんが近づいてきて、ボソッと言った。


 わたしがしたことに気がついているマールさんのほうが凄いと思うが、認めるのは野暮。なので、ふふっと可憐に笑っておいた。


「……あんたとは仲良くさせてもらうよ……」


「こちらこそ仲良くしていただけると幸いです」


 旅慣れてそうだし、仲良くなっておくに越したことはない。敵対なんてお互いの未来になんら有益にならないものね。


「ミリア、仔山羊を買ってきた!」


 なんとも言えない空気が流れる中、イルアがシメた仔山羊を担いで帰ってきた。


「おかえりなさい。さっそく丸焼きにしますか」


 前にもしたことがあるようで、広場には丸焼き用の釜戸があり、塩をかけて焼くことにする。


 回転させるのはリガさん。何度かやっていると言うのでお任せしました。


 辺りが暗くなる頃に牛骨スープが完成。皆でいただくことにした。


「美味い!」


「ほんと! イルアが毎日うちに帰るのがよくわかるよ!」


 リガさんとマールさんの舌にも合ってなによりだわ。


「シスターもたくさん食べてくださいね。旅は体力勝負らしいですから」


 まだ自問自答しているようだけど、メンヘラ化は免れたようでちゃんと食べていた。


「治癒魔法が使えるシスターがいる旅は安心でいいよな。ちょっとの傷で死ぬ場合もあるからな」


「そう、なのですか?」


「ああ。そう言うことがあるから隊商の護衛って人気ないんだよ。あいつらケチるからな」


 ラミニエラほどではないけど、冒険者の中にも治癒魔法が使える者がいるらしいけど、雇うと高い報酬を要求されるらしいわ。


「では、怪我をしたらお任せください。しっかり治癒してみせますわ」


 頼りにされるのが嬉しいのか、やっといつもの表情へと戻った。


 元気になったのはいいけど、チョロいにもほどがあるわね。やはり、お目付け役は必要ね。


「ミリア、お代わり!」


 まあ、それは司祭様のお仕事。わたしはわたしにできることをしましょう。


 突き出された皿を受け取り、牛骨スープのお代わりを盛ってあげた。

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