今日から無職のお嬢様〜
ごめんなリリー、明日からお前はこの家に住めなくなったよ……
今日、家を失いました。
いえ、正確に言うとお家は目の前にあります。
それで、お父さんも住んでて、お姉さんもお兄さんも住んでて、わたしのかわいい妹達とお母さんもすんでます。
なのになんでお家を出て行かなきゃ行けないかというと……
ーーー3時間前ーーー
『なんでこんな簡単な雑務もできないのよ!?あんたそれでもメイドなの?駄メイドなのですか、だめだめなんですか?紅茶一杯入れるのにこんなに時間かけててどうするつもり?ねぇ、わたしの機嫌損ねるのがそんなに楽しいのかしら?』
メイドのメアリーをいつものように罵って遊ぶ。
メアリーのペコペコっぷりは今日も最高だ。
きっと、将来この子は大物になるだろう。
『申し訳ありませんお嬢様。なにぶん調理場から何故かティーポットが無くなってしまって、あんなにいっぱいあったのに全部なくなってしまってたんです』
オロオロ涙ながらに訴えるメアリー。
昨日夜な夜なティーポットを全て処分したのは正解だったようだ。
明日は何をネタにこの子をいじめてあげようか?
そう、思っていた矢先のことだった。
『リリー、ちょっといいかしら?お母様がお呼びだわ』
姉のメイアがコンコンとノックをして呼びかける。
奇妙なことにとても冷めたような、少し寂しそうな声をしていた。
きっと最近お父様の雑務を手伝ったわたしの頑張りを称賛しようというのだろう。
そんな気遣いいいのにと、少し浮き足立ったままスキップでお母様のいる三階へと向かう。
メアリーの調教は後で続きを行うとしよう。
コンコンッ
『お母様、リリーです。入ってもよろしいでしょうか?』
『お入りなさい』
失礼します、という呼びかけに応じてドアを開けると、そこにはまるで皇帝さまをふつふつとさせるような、冷めた目のお母様がいた。
『なんの御用でしょうか?』
『リリー、率直に申し上げます。本日で、あなたにはここを出て行ってもらいます』
『いえいえそんな……って、え、はっ?えっ、待って?えっ、今なんて……?』
『あなたには失望しました。日頃からのモラルのない発言と態度。とても我がユースタシア家に相応しくありません。それに、毎日のようにメイドや執事に対するいじめの行為。これは許されることではありませんよ?』
『そ、それはあくまでちょうきょ……教育の一環で……』
『極め付けはムカつく態度をとったなどという理由で皇帝閣下のご令嬢であらせられるミューシャ姫さまに暴言を吐いたとか……あなたのおかげで我がユースタシア家の名誉は地に落ちました。よってあなたを、この家から追放することにします』
『そ、そんなぁ……』
これはお父様もご納得の上での判断です。それではさようなら。
その言葉を皮切りに、わたしは今日、この家を去る事となりました。
……………………
部屋に戻ると、お父様が最後のお小遣いを少しだけくれました。
『ごめんなリリー、明日からお前はこの家に住めなくなったよ……。僅かばかりだがこの封筒に金貨を入れておく。大事に使いなさい。』
『……ありがとうございます、お父様……』
気の抜けたまま玄関に向かうと、綺麗にまとめられた荷物がそこに。
お義母様と話をしている間に執事のデュークが荷物をまとめた鞄を玄関に置いて、ついでにわたしが紅茶を飲むのに困らないようにピカピカのティーポットを置いてくれていました。
『お嬢様……どうかお元気で』
『……ありがとうデューク、あなたもお元気で……』
ああ、わたしはこれからどうなるのでしょう。
神様、お願いします。
心を入れ替えます。メアリーには優しくするし、明日からいくらでも働きます。
ミューシャ姫には謝るし、これからはいくらでも態度を改めます。
だからどうか……
せめておうちだけでも返して!!